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リサコラム
連載666回
      本日のオードブル

火曜日倶楽部

第12話

「ある
プロモーションビデオ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




モダンアート?
わたしのワンルームの部屋は
グレーとブルーとグリーン、
そして、ボルドー、イエロー
サイケデリックなんて
言われても平気です。
モダンアートだって
クラシカルだって
何でもいいけど
今までとは
全然違う
私の部屋
わたしの
桃源郷で
生まれ変わったのです。



 







        

第12話  「あるプロモーションビデオ」




 
 「はじめまして。私のこの部屋、いかがでしょうか?アーティスティッ

クだと思われませんか?ここは最近完成しました私のお気に入りのスペース

です。


            


 壁紙はグレイッシュなベースに白いラインが入って、さらにブルーのドット

がアクセントになった最新のデザインです。ソファは10年物ですが、モダン

なデザインのカバーリングを付け替えてリニューアルいたしました。そして、

カーペットはグレーの壁にペンキを垂らしたようなデザインで、無名なアーテ

ィストの作品なのです。


            


 ワンルームのマンション住まいなので、このリビングとベッドルームとの間

仕切りには、明るいハーバルグリーンのシフォンレースのカーテンを掛けまし

た。ブラックのかわいいポンポンのトリミングは私のアイデアです。


            


 今、こうしてスタイリッシュなワンピースを着て、同じ色のルームシューズ

を履き、ソファに座って本を読んでいますが、1月前は決してきれいとは言え

ない部屋でチラシが床に散乱した中でなすすべなく、途方に暮れていた私でし

た。


            


 順を追ってお話しいたしますと、私は十数年勤めていた会社を辞めたのです。

その時は羽が生えたようにせいせいした気分で翌日には飛行機に飛び乗りまし

た。辞める前に海外旅行の計画をしていたのです。ヨーロッパの素敵な街並を

歩き、観光地をめぐりました。おいしいケーキをどれほど食べたでしょうか?

帰って来た時はかなり体重が増えていました。行きの飛行機の中で、私はこれ

から行く田舎街を観光バスでゆっくり旅する自分を思い描いていました。おい

しい空気を吸いこんでたくさんの英気を養って、そして自分自身に磨きをかけ、

ステップUPした人生を歩みことが出できると想像していました。もうワクワ

クして、人生のすべての幸せをすべて手に入れた感じだったのです。旅はスム

ーズに進み、行く先々でたくさんの写真をネット上にUPし、数人のネット上

の友人もできたのです。もちろん、見ず知らずの人々には違いありませんが。


            


 そして、私は帰りの飛行機の中でたまたま隣り合わせになった女性と話が弾

み、これから先の素敵な人生設計を話すところまで来たのです。何と言っても、

15時間のフライトですから、そのくらいの密な時間を他人と過ごすと、そこま

で話が行ってしまうのです。さらに、飛行機を降りたら他人という気安さもあ

ってのことです。


            


 その彼女は最後に私に『火曜日倶楽部』という名を口にしました。彼女はこ

う言ったのです。「今の私はそこで再生されたのです」と。「それまでは、い

ろいろな不満を山ほど抱えながら日々、ストレスに押しつぶされそうになりな

がら暮らしていたのですが、その倶楽部のリゾートに行ってからというもの、

まるで画面が切り替わるようにすべてのわだかまりがなくなったのです」とも

言いました。そんなまさかと思いました。そんなこと、ありえません。私も長

いこと会社員をしてきましたから、その年月に堆積したオリのようなものが自

分の中に確実に存在し、それはやはり、旅を終えようとしている今も確実に残

っていることにうすうす気づいてはいましたから。しかし、その時点ではそれ

は認めたくはなかったのです。


            


 もちろん、物理的な断捨離は会社を辞める前の時点でやりました。しかし、

どうしても捨てきれなかったものが私にはありました。それは自分自身のプラ

イドのようなエゴです。私のエゴは不満と言いわけでできていました。周りが

自分の思うように動いてくれないという不満と、それは人間の場合もあれば、

社会そのものでもあれば、さらに、自分自身の中にもありました。言いわけは

得意中の得意でした。やりたくないことをやらない理由という言い訳、間違っ

たことの言い訳、さらに、人を許せないいい訳です。旅を通じて私が得たもの

は、それらにふたをすることでした。その中を決して私は覗こうとはしなかっ

たのです。それは自分自身の成長のふたをより強固にするだけで、何の役にも

立っていなかったことがわかりました。それがわかったのが、自宅に帰りつい

た時です。


            


 旅から帰って、私はまずほっとしたと同時に、テレビをつけました。その瞬

間、私は前の私そのものであり、同じ生活スタイルの中でほっとしている私が

そこにいたのです。旅行に行けば人生が好転する、私がUPグレードすると思

っていた私は終えてみると、私自身にまんまと裏切られました。つまり、明日

の朝がやって来ても、私は行くところがもうなく、散歩するか、狭いマンショ

ンの中でゴロゴロするしか思いつかなかったのです。


            


 えっ、これはどうゆうこと?私は思いました。見るもの、聞くものすべてが

変わるはずじゃなかったの?しかし、観光地で食べて飲んで見て、何か大きく

変わるわけがありません。旅行に行く前と後で変ったのは、貯金が半分になっ

たことと、仕事をなくしたことだけでした。旅行から帰って来て、散らばった

チラシや郵便物の山が散乱する中で、別に見たくもない殺人事件のニュースを

見ながらやっと気づきました。


            


 実は、私は現状維持の延長を望んでいたのです。もしも飛躍的な自分の未来

を望んでいたのなら、田舎町の古民家レストランで長い時間、ぼんやりと景色

を眺めながらアフタヌンティを楽しんだりはしなかったでしょう。それは、変

化のないものに対する安住の場所を求める心理にほかならなかったのです。そ

れはひと時の癒しにはなるでしょう。しかし、今よりもっと上を目指したいと

思うのなら、そんなことをやっている暇はなかったはずです。


            


 それより、部屋の掃除をし、整理整頓し、床をぴかぴかに磨き上げ、難しい

本を読みながら1月を過ごしていたでしょう。しかし、まだ私自身に欠片の反

省心が残っていたことに私は安堵しました。私はチラシと郵便物の仕分けにか

かりました。そこに、緑色のドアが描かれた『火曜日倶楽部』というチラシを

見つけたのです。リゾートのパンフレットのようなものでしたが、その時、私

は異様なものを感じたのです。まさか飛行機で隣り合わせの人の口からきいた

あの、『火曜日倶楽部』のパンフレットが私の郵便箱の中に入っていたとは驚

きを超え、戦慄が走りました。シャトーホテルでお化けを見たような気がした

ときのよう感覚です。


            


 そのパンフレットによれば、『火曜日倶楽部』のメンバーになれば、メンバ

ーだけのリゾートが用意されているそうでした。あるいはメンバーの推薦する

ゲストであれば、34日の宿泊ができるということでした。しかし、ゲスト

になるには、推薦されなくてはならず、私の場合、当然推薦者はいません。

しかし、その狭き門にも、そのリゾートに招待される手段はひとつだけ残され

ていました。それは、そのリゾートをテーマにした短編小説を書いて応募する

というものでした。


            


 思えばとても不思議な組織です。電話番号も記載されていません。単に事務

局の窓口だけの住所が記載されているだけなのです。しかも、短編小説を書い

てそれが入選すれば、ゲストとして招かれるというのですから。しかもそのリ

ゾートはネット上では絶対に検索できません。


            


 しかし、私は迷いませんでした。この1か月の旅と、自分のこれまでの生き

方を反省しつつ、それを文章にしようと思ったのです。私はどうしてもその桃

源郷と銘うたれたその場所に行きたいと思いました。それは私の祖先からの血

が騒いだような感覚でした。私の祖先に著名な人間もおそらく、犯罪者もいな

いと思いますが、私という名もないダメな人間という自分自身にリベンジを果

たしたいと思ったのです。その桃源郷はどんな場所なのか、そしてこんな今の

どん底の精神状態からすくい上げてくれるのか、わかりませんでした。しか

し、今の自分にはこれしかない、そんな衝動に駆られて私は3日間で、桃源郷

でリフォームされた自分自身をイメージして書いてみたのです。


            


 私の作品はラッキーなことに入選して、桃源郷に34日を過ごすことがで

きました。それから自分の家に戻ると、間髪入れず、部屋の掃除、片付けを

1週間かけて徹底的にやりました。それから、たくさんの本を書店で買って

来て読み出したのです。そして自分の部屋のインテリアを全部変え、服を取

り換え、さらに髪型も変えました。そして、今、こうして生まれ変わった私が

このカメラの前に座っているのです。


            


 今はどんな仕事も喜んでできる自信があります。それはこんな素敵な安住の

場所が私にはあるからです。そして、これまでお話ししたことはすべて嘘偽り

ない真実です。採用担当者様、こんな私を気に入って下さったなら採用してく

ださいませんか?




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    桃源郷から帰還したゲストがYouTUBEでしゃべっているという
    プロモーションビデオです。こんな人ならすぐ採用したいですね。
    そして、自宅が桃源郷であれば、最高。
   
p.s. 2 インスタグラムをやっと始めました。海外のインテリア事情も
   たくさん知ることができ、コミュニケーションもでき、
   なんて楽しい世界なのでしょうか?
  

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年6月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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