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リサコラム
連載667回
      本日のオードブル

さくらもも

第1話

「ある平凡な土曜日の朝」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



緑の芝生に
ガーデニング
白いテーブル
クロスの
長いテーブル
家族4人の椅子は、
赤、黄、緑、オレンジ。
僕用に籐のひじ掛けと
オットマン。
この家の主だし、
35年間のローン地獄に
これからはまるのだから。
少しは大事に扱ってもらわなくちゃ。


 







        

第1話  「ある平凡な土曜日の朝」




 
 「さくらももこと知り合ったのは、ある土曜日の朝、公園を散歩してい

る時だった。その公園は広い敷地の木立の間に美しい遊歩道が作られ、ところ

どころに藤棚や蓮池、アスレチックジムのような場所もあり、きちんと整備さ

れており、歩くだけでもとても心地よかった。


            


 公園を散歩するなんて、何年ぶりだろう、そして、初夏の早朝とはこんなに

清々しいものだったのか。僕はこんな穏やかな時間とは無縁のサラリーマン人

生をこれまで送ってきていたのかと、いい意味で愕然とさせられた。


            


 僕の田舎は冬は凍てつく冷たい朝が長く続く。しかし、そんな冬の朝、雪を

ザクザク踏みしめながら歩く感覚は今思い出しても大好きだ。しかし、汚れた

雪に変わる冬の夕暮れ時になるとその気分は一変する。僕は夕暮れが嫌いなの

だ。それは強制的に感傷的な気分にさせられる気がするからだ。だから、そん

な夕暮れ時には嫌でも思い起こさせる、同じ地元の出身の作家、太宰治の

『斜陽』という小説が好きではない。もちろん、人間失格も。しかし、未だに

ベストセラーだというから文句の付けようがない。言うまでもなく、普通のサ

ラリーマンの僕が巧妙な文章を書くことなど到底できないから、この世にいな

い著名人を一方的にやっかんでいるだけなのだが、あの、ねちねちとした心情

をさっぱりと端正な料理に仕立て上げる品も技巧もある文体が気に入らない

のだ。


            


 僕は優雅な曲線を描いて折れ曲がる遊歩道の小石を蹴飛ばしながら歩いた。

転がった石の一つが、脇の草むらの中にころころと入り込んだその瞬間、何か

が僕の前に全速力で横切って来た。僕は慌てて、後ろにのけぞったが、その物

体をよけきれず、衝突したのは事実だった。しかし、その物体は直線を描いて

逃げ去った。一体何だったのか、僕には瞬時には理解できなかったが、あまり

に早い軌跡をからして小動物だと思った。さらにその俊敏さから判断するに猫

だった。


            


 こんな朝早くから活動的に動く猫がいるのか?それとも、僕が寝ている猫を

起こしてしまったのか。僕は草むらの捜索に当たった。


 僕が猫の習性などを知っているわけではないが、想像はつく。相手の出方を

じっと見極めているのだ。もしも、その猫が6月19日生まれであれば、相手

の出方次第で、右にでも左にでも動く。そして上手く立ち回り、結果、賢く見

えることを第一義とするはずだ。さらに、運命なんてものは絶対に信じない。

あの猫はぶつかったことを恥じているのだろう。だから恥ずかしくて逃げ去っ

たのだろう。僕ならきっとそうするはずだから。


            


 僕は、「ニャオ」と草むらに言ってみた。しかし、実を言えば猫が僕の足に

激突して骨折でもしてはいないかと、内心ひやひやしながら、草むらに近寄っ

てみた。


            


 そこでギラリと光る2つのガラス玉のようなものと目が合った。僕がこの猫

にもしもケガをさせたと飼い主から医療費を請求されるかもしれないという懸

念がすぐに頭をよぎった。よし、しらんぷりしておこう。向こうから跳び出し

てきたのだから。それに、公園の中での猫との衝突事故で罰せられることはな

いだろう。あるいは、猫にけがを負わせたから面倒を見なくてはならないとい

う法律もない。いや、きっとないだろう。人道的立場に立てば、そうすべきな

のかもしれないが。しかし、今の僕にはそんな人道的余裕はなかった。僕は遊

歩道に戻ってまた歩き始めた。


            


 僕は先週、僕の誕生日の6月19日に合わせて、この公園を借景に見下ろす

庭付きの一戸建ての家に引っ越したばかりだった。念願の戸建ての家を手に入

れた暁には、この公園で毎週、欠かさず土曜日の早朝に散歩をしようと決めて

いた。なのに、今日のこの1回で散歩は永遠に封印されるだろう。それは、来

週には荷物をまとめて、海外のさらにへき地に赴任することになるからだ。


            


 引っ越した日6月19日、会社に戻ると、僕にはそんな通達が待っていた。

僕はそれを運命などと受け入れようとは思わなかった。今でもとても受け入れ

がたいと思っている。


            


 僕は悪意といじわると妬みとがミキサーで攪拌されたようなものが胸につき

あげてくるのを感じながら、公園の遊歩道を歩き続けた。そして、朝日にさら

に美しい緑色に染まりつつある遊歩道を公園の出口までやって来た。すると、

なんとさっきの猫が、僕を待ち伏せしていたのだ。


            


 僕は猫を拾い上げると、一旦、家に連れて帰ることにした。6月19日は僕

の誕生日であり、僕の永遠のライバルである太宰治の100回目の誕生日だと

いうのだから、そんな日に受けた辞令は運命だと思って受け入れるしかない。


            


 僕は猫を庭に放つと、さくらももこと名づけた。そんなかわいい顔をした猫

だった。嫌いな太宰治の命日の桜桃忌の「さくらもも」をとった嫌味な名前で

はあるけれど、これも一つの運命だと思って受け入れるしかない。


             


 飛び入りの猫のせいで、僕のこれから先の人生をいい意味で解釈する気にな

れた平凡な土曜日の散歩だった



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    私も実は太宰治の小説が好きではありません。
   しかし、文体はとても好きです。
   そんな矛盾した感覚は太宰治の魅力なのかなとも思います。
   ページをぱらっとめくるだけでその世界に引きずり込まれるのです。
   しかし、生誕100年です。
  
   
p.s. 2 インスタグラムをやっと始めました。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年7月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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