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リサコラム
連載677回
      本日のオードブル

さくらもも

第11話

「四角なピザ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




床の上で寝転がりたくなる時
それはどんな時か?
天上を見つめて
何かが
きっと
描いて
あるん
じゃない
かなと
思う時かな?
ありったけの枕や
クッションを集めてきて
そんな気になった時は
それが決断の時かも。



 







        

第11話 「四角なピザ」




 
ピザ店の店員がモニターに映った。僕とさくらももは競い合うように玄関

ドアに向かった。ことにさくらももはピザのシーフードの匂いを嗅ぎつけて、

すばしっこく僕の足元にやって来た。


            


 「わかった。やるよ」僕はさくらももを払いのけるようにして、玄関ドアを

押し開けようとした。しかし、さくらももは僕にしっかりしがみつくように僕

の足元にまとわりつく。「わかってるって!」僕がそっと玄関ドアを開けると、

宅配ピザの配達員がピザの入ったアルミ箔のようなきらきらした袋を持って立

っていた。


            


 「あの、すみません。ご注文の四角なピザはうちでは取り扱っていなくて。

それで丸を四角にカットしたもので、ちょっとサイズが小さくなりました。そ

れで、その代わりに2枚お持ちしました」と申し訳けなさそうに立て続けに言

った。


            


 「ああ、それは申し訳なかった」僕はお金を渡すと、「おつりは取っといて

ください」と言った。「あの、いや、」配達員のバイト君は困った表情になっ

た。「わずかなチップだと思って。ご面倒をおかけしたから」と僕は言った。

彼はそれでももじもじして、「やっぱり店長に叱られるので」と言った。

「そんなことはないよ」シルクのパジャマを着たままの僕はちょっと先輩ぶ

って、「大丈夫だよ。何か言われたら、僕に電話してもらえば説明するから。

それに君に上げるんだから」と言った。「わかりました」彼はおそるおそるお

つりをポケットに入れた。「わずかなもので、こちらこそ申し訳なかった」僕

はそう言うと微笑みながら、彼を送り出した。


            


 彼は玄関の石段を3段降りると振り返って、「豪邸ですね。新築ですよね」

と言った。「ああ、そうだけど。豪邸なんかじゃないけど」と言った。「いえ、

わかります。建築家の建てた家ですよね。僕は大学で建築を学んでいるので。

将来は自分の家を設計するのが夢です」「そうなんだ」「こんなシャープでか

っこいい家、いいですね。それに外より中の方が広々と感じるみたいな設計、

素晴らしいです。いいな~」彼は名残惜しそうにそんな言葉を吐いた。かれ

これ2、3分しか僕の家を見てはいなかったが、僕は初めて僕の賛同者を得た

ような気になった。しかし、僕は「ありがとう」としか言葉が見つからなかっ

た。「ああ、いえ、こちらこそ」彼はぺこん、ぺこんとお辞儀をすると、庭先

に停めたバイクに乗って走り去った。


            


 僕は運気UPを狙ってまず手始めにと思って注文した四角なピザをリビング

のソファで食べ始めた。もちろんさくらももにも分けてやった。そして僕らは

2枚の四角な運気UPピザをあっという間に平らげた。


            


 お腹いっぱいになった僕らはベッドルームとゲストルームからかき集めて来

た枕やクッションをリビングの絨毯の上に並べると寝転がった。シルクのパジ

ャマって、なんかいいほうに効くんだね。なるほど、無一文に近いこんな僕で

も、シルクのパジャマを着て、猫と一緒に住んでいたら、映画の中の裕福な家

の主人に見えるのかな?笑っちゃうけどね。彼はきっと建築家を目指す貧乏学

生だろうから、だから、わずかなチップをもらって僕のことをお金持ちだと勘

違いするのかな。きっと今頃、同僚か、先輩か、店長に秘密を持ったことを知

られないように、こっそり自分の財布に小銭を移し替えているんだろう。かえ

って申し訳なかったかな。僕は僕の横で眠るさくらもものしっぽをもてあそび

ながら、まさしく分不相応にも大富豪の気分に浸っていた。


            


 彼女が僕にこのパジャマを着させたかったのは、こんな気分を味わってもい

いんじゃないということだったのだろうか?そういうことだったのかな?しか

し、僕がそれを理解するのは残念ながらちょっと遅すぎた。「自由になれ」と

言った友人のMの言うとおりだ。


            


 僕は普通のサラリーマンで営業マンで、料理なんかできはしないくせに、友

人を呼んで手料理をふるまうためにとキッチンに見栄を張りる男、なのに、洗

濯物を干さないバルコニーの意味を理解せず、海があればプールなんて意味が

ないという頑固者…婚約相手に逃げられるも当然か、その上、ローンを抱えて

行き場を失った。僕はまさしく不自由人だった。それでも傍目には余裕ある幸

せな人生にも見えるんだな。


            


 僕は天井を見つめながら何時間も考えた。いろんなことが頭を巡った。これ

からの選択肢は二つ。僕が海外に行っている間にこの家を貸し出す。家賃収入

は得られる。しかし、もう一つの選択肢は、今の会社を辞めることだ。新たな

仕事を探し、この家を売る。建築を目指す若者がいい家だというのだから、も

しかしたら家具付きで売れば、ローンを組んだ金額より高く売れるかもしれな

い。いっそ、そっちの方がいいかもしれない。その時は、またワンルーム生活

に戻ってやり直してもいい。僕には何の特技もないかもしれないが、文句を言

わなければ、仕事はなんかあるだろう。


 僕はやっと覚悟を決める気分になってきたが、まず友人のMに宣言したく

なった。僕は寝転がってMに電話をかけた。


            


 「さっきはありがとう。とても気に入ったよ。ほんと、いい絵だね」僕は一

呼吸置くと、「この家を売ろうと思う」と単刀直入に言った。Mはしばらく黙

っていた。「実は、僕からも電話しようと思っていたんだけど、さっき、僕の

アパートに置いとくより、新築の君んちの方がよく見えるだろうって思って持

って行った絵だけど、個展であの絵を見た方が、欲しいって言ってこられたん

だけど。わかった。それじゃあ、家付きでどうかと言ってみよう」Mはことも

なげにそんなことを言った。


            


 僕は電話を切ると笑い出した。「四角な絵も四角なピザの効果もなかなか

すごいぞ!」ってね



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
   決断は一瞬の出来事。迷いは永遠。
  その反対にしたい。

p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年9月号です。

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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