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リサコラム
連載678回
      本日のオードブル

さくらもも

第12話

「流されて」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ピーコック
ブルーの壁の廊下に
デコラティブ曲線を描くカウチ
左右には猫足のコンソールテーブル
その上には、ガラスのシェードランプ
まるで高級ホテルのラウンジのよう。
壁に掛けられたオレンジ色の背景に
溶け込む溶け込むように
ミステリアス
微笑みを
浮かべる女性
さて、誰なのか?


 







        

第12話 「流されて」




 翌日、日曜の朝、僕は朝の10時過ぎまでぐっすり眠っていた。あれほど

借景の公園で早朝の散歩を楽しもうと思って作った家だったのに、僕は2日目

にして、唯一のルーティンを破ってしまった。しかも僕を起こしたのは、電話

の音だった。


            


 「はぁ~い…お、おはようございます」僕は寝ぼけた声で電話に出た。相手

Mだった。「あの、昨日の件だけど、今日の夕方にあの絵を見に来たいと先

方が言って来たもので、」「今日の夕方?」僕はびっくりしてベッドから起き

上がった。「いや、その、日曜なのに、しかも突然申し訳ないと思うんだけど、

ちょっと今から行ってもいいかな?」僕は時計を見た。「まだ10時過ぎだけ

ど?」「あの、その、僕の他の絵も持って来てもいいかなって思って…」

「他の絵?ああ、まあ、いいけど」「そうか。ありがとう。それじゃ、1時間

後に」Mはそれだけ言うとすぐ電話を切った。


            


 僕はベッドから出るとバスルームでシャワーを浴びてから、まずは白い新品

のバスローブを羽織った。これは姉からの結婚祝いの贈り物だった。「こんな

僕でも、バスローブを羽織れば、裕福なちょい悪オヤジくらいには見えるかな

?」僕は鏡の前で髪の毛をとかしながら笑った。「まあ、この先、ちょい悪オ

ヤジがどうなるか、まるで分からないけどね」僕は洗面台にブラシを放り投げ

るとキッチンに行った。


            


 昨日、ドラッグストア2軒を回ってなんとかそろえた食料と道具で僕はコー

ヒーを淹れ、菓子パンをその薄いコーヒーで流し込んだ。いつの間にか猫は僕

の朝食のおこぼれにあずかろうと僕の足元にやって来た。


            


 僕はソーサーに牛乳をついでやり、さくらももに飲ませた。「おいしいか?」

猫は無心に舐めるばかりでもちろん返事はしなかった。しかし、この僕が動物

を飼うなんて。自分の世話だけで今までは精いっぱいだったのに、その猫の世

話をなんとかこの丸一日やってるなんて、妙なものだ。僕は菓子パンを食べ終

わるとハイスツールのないキッチンのカウンターに肘をついてシェード越しに

空を眺めた。


            


 今の会社を辞めて家を売るると決めたのはつい昨日だ。しかし、その後は何

ひとつ決まってはいない。「単に僕がそう決めただけだから」僕は猫にそう

言った。猫は無邪気に「ミャオ~」と鳴いた。その声は「じゃあ、他に誰が決

めるんだ?」言っているようにも聞こえた。


            


 僕は誰かに決めて欲しいんだろうか?それとも単に自分で決める勇気がない

のだろうか?あるいは、自分の決断力に自信がないだけなのか? おそらくそ

の全部だろう。そのことは僕自身がよくわかっていた。


            


 僕はこんな状況になると、子供の頃に僕の田舎の近くの川でよく流して遊ん

だ笹船のことを思い出す。笹の葉で作った笹船は漂いながら流れるに任される

ままで自身では行方も決めらない。その内、忘れ去られ、いつかちょっとした

波に飲まれて沈んでゆく…この僕はこうしてずっと周囲に僕の行く先を決めら

れて来た。それでいいんだろうか?僕は肘をついた両手の間に顔を載せた。


            


 視線の先はキッチンカウンターの真っ白い石だった。どんなに考えても、決

断してもすぐに行き止まりの壁に突き当たる。そこから先は身動きも取れない。

この白いカウンターのように答えはどこにも書かれていない。


            


 そして、この家に3回目のチャイムが鳴ったのは、Mから電話がきてからち

ょうど1時間後だった。「リンドン~」という長く尾を引くなんともすてきチ

ャイムの音色にさくらものはビクッとして、ぴょんと横っ飛びしてから玄関に

向かった。


            


 「もしかして、逃げる気か?」僕もさくらももの後を追って玄関ドアに直

進した。ドアを開けるとMは両手に箱を抱えて待っていた。


            


 「えっ?2枚も?」「ああ、」Mは曖昧な返事をした。「実はもっとたくさ

ん持って来てて」Mは申しわけなさそうな風でぺこんと頭を下げた。「もっと

たくさんって、いったい何枚くらい?」Mは返事をする前にドアの外に立て掛

けられたダンボール箱の山を僕に見せた。「こんなに?」「ダメかな?」

「う~ん、ダメじゃないけど、」僕は返事に困った。「この家ならきっとよく

見えるから。それに、いい家には絵が必要だよ」僕はますます返事に困った。

「君はそんな顧客をほんとに持っているの?」「まあね、見かけによらないか

もしれないけどね。言っとくけど、新築の家を海外赴任の間に他人に家を貸す

くらいなら潔く売った方がいいよ。貸したら最後、その家には自分以外の住人

の生活の匂いみたいなものがしみこむじゃうからね。いざ、戻って来て、出て

行ってくれというのもたやすくないし。それにもう、住人は自分の家だと思っ

て住んでるからね。でも、建てたオーナー以上に愛着を持って使う借家人はい

ないから、新築の家の様子だけを知っているオーナーはその変貌ぶりにみんな

落胆するらしいよ」Mはそんな知ったようなことを言いながら、僕の家にどん

どん絵を運び込んだ。


            


 僕はそんな様子を黙って見るだけだった。されるがままに、流される。流さ

れまいと抵抗をする暇さえなく。


            


 その内、Mの助手のような人間もやって来ていつの間にか見知らぬデコラテ

ィブな家具やランプスタンド、花瓶なども運び込んでいた。「絵にはその絵に

合うシシチュエーションも大事なんだよ。今日だけだから」Mはそう言いなが

ら、我が物顔で家中を行ったり来たりした。


            


 そして2時間後、僕は優雅な美術館のような贅沢なホテルのオーナー風にふ

かふかのバスローブを羽織ったままでつっ立っていた。相変わらず貧乏な

ままで



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
  流れ、流されるか、
  抵抗して沈むか、難しいテーマです。


p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年9月号です。

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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