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リサコラム
連載679回
      本日のオードブル

さくらもも

第13話
最終回

「Mと僕とさくらもも」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





僕を見下ろす
彫刻は猫なのか
人間なのかわらない。
クラック模様の
薄紫色の壁にかかった6枚の絵も
風景画なのか、抽象画なのか
僕にはよくわからない。
しかし、橙色の色の
ソファにはとても
合っている
と思う。
もしも
そんな絵も
彫刻もなくなったら
僕のリビングは寂しくて
また過去のことをいろいろ
思い出して辛くなっていたのかも
しれないね。Mよ、ありがとう。


 







        

第13話 「Mと僕とさくらもも」




 翌それからあっという間に2か月半が経った。僕は今、瀟洒なマンションに

猫のさくらももと暮らしている。Mが勝手に置いてゆくアートに囲まれて。


            


 Mがやって来たあの日曜から僕の日常は大きく動いた。そして続く2か月半

は、婚約者に去られてひとりで借金だけを抱えたまま、会社からはへき地に飛

ばされようとしていた僕の一番幸せな時間だったのかもしれない。


            


 Mは僕の家に、かつて、僕の家だった公園を見下ろす借景の家に大量の自分

の絵や彫刻を持ち込んだ。さらにソファや照明器具、絨毯、クッションなどま

でも。Mは僕に、自分の絵の売り方はこうなんだと言った。「画廊や個展とい

う単に絵だけを壁に掛けているだけじゃ、今の人たちはその絵に自分の価値観

を付加してはくれない。今の絵描きの絵を見る見方は過去の人たちが描いた絵

を見る見方とは全く違うし、今、絵はインテリアの中の一つになっている以上、

絵を引き立てる環境が必要なのだ」と。「だから、家具や、ソファやカーテン

や照明器具との調和も必要なのだ」とも言った。


            


 僕は一体どこからこんなものを集めて来たのかと聞くと、Mは知り合いのア

ンティーク商から借りて来たんだと、さらにいつもコラボして仕事をしている

のだとこともなげに言った。


            


 その日、僕はただなされるがまま、呆然と彼らがやることを見ていただけだ

ったけれど、僕は不思議なことに気分がよかった。自分の家が美術館のように

変ってゆくのを見ているのがとても気分がよかった。それは映画の人物がある

ことをきかっけにお金持ちに変身してゆく様を見ているようなそんな気分だっ

た。ああ、こうして人間は変わってゆくのか、こんな些細なきかっけで、人生

というものが動いてゆくものなのかと黙って見ている僕を、また傍から見てい

る別の僕がいた。


            


 僕はMの絵で美術館のように変った自分の家を改めて散策した。若い頃、

バックパッカーで訪れたハワイ島のロッジ風のリビングには、南の島の風景の

ような大きな絵が掛けられていた。そして、サンルームのようなバルコニー付

きのクローゼット部屋には、イタリアの小さな島でMが描いた白い街並の小さ

な風景画が6、7枚も掛けられた。空しか見えないキッチンには、青いピカソ

の青の時代を模写したというが、僕にはまるで違うように見える絵が。そして

僕の寝室にはベルギーの古都の街並の絵が4枚。ゲストルームには、ベッドの

左右と正面の壁にオランダの水車小屋のある風景画が大小合わせて6枚も掛か

っていた。廊下には新たなパリの街並の四角な絵が等間隔に並んでいた。


            


 その日の夕方、Mのお客さんがやって来た。想像よりずいぶんと若い実業家

風の男性と美しい女性で、Mはここが僕の家だとは言わずに、家中の絵をひと

つひとつ見せながら案内した。それだけではなく、それからの1週間というも

の、他のMの常連客が次々に僕の家にMの絵を見にやって来た。それだけでな

く、いとも簡単に絵を買ってゆくのが僕にとっては驚きだった。僕はそれにつ

れ、身軽な気分になっているのを感じていた。問題に頭を抱えていた僕の体が

急に軽くなった、週明けの水曜日、僕は会社に辞表を出しに行った。そしてこ

ちらも事もなげに受理された。駒のひとつにすぎない僕はなんとこんなものだ

ったのだ。


            


 Mはどんどん自分の常連客を僕の家に連れて来た。その度に「家だけでは家

は売れない。絵だけでも絵は売れない。絵が呼吸できる家がいるんだよ」と、

Mは幾度となく、僕にそう耳元でつぶやくように言った。そんな僕は相変わら

ず、流される笹船のように、ふらふらとMに付き従うしかなかった。しかしそ

の内、数人からこの家を売って欲しいとオファがあった。僕は驚いたが、Mは

そんな僕にこう言った。「だから、言っただろう、家だけでも売れない。絵だ

けでも売れない。絵が呼吸できる家がいいんだよ」と。


            


 それから1か月以内に僕は自分の家を売ることに、Mは自分の絵をまとめて

売りさばくことに成功した。Mのおかげで僕には次の家を買う頭金くらいが最

終的に残ることになった。そして新たな仕事も見つけ、それで僕は瀟洒な場所

にある瀟洒なマンションに引っ越した。その僕の新たな部屋はまた時々、Mの

画廊の代わりにもなる。Mが月に1、2回は絵を入れ替えてくれるため、部屋

の風景は常に変化をし続けている。


            


 そのうち、僕は誰かに流されることは意外にもいい気分であると知った。

しかし、2か月半前の僕は同じ地元の出身だというだけで分不相応にも執着し

てきた人間太宰治に対してさえ、あれこれと考えたりもし、それに反して自分

の境遇を悩み、悲嘆に暮れ、誰かを理解できないと嘆き、その輪から外に出る

ことができなかった。そんな僕が、いつの間にか、自分のポリシーを言ったり

思ったりすることすらやめてしまっていた。公園で出合ったこの気ままな友人

の猫のさくらももが時々いなくなり、また好きな時に舞い戻るように、自由気

ままな気分を楽しめるようになっていた。そうなったのも、Mが「もっと自由

になれよ」と僕に言って行動に移してくれたからこそなのだけれど。


            


 次は僕がMにシルクのパジャマを贈るつもりでいる。「時々はシルクのパジ

ャマで眠れよ」と言ってみたいから




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
  マンションバブルな福岡市、コーディネートしてから
  販売する方も現実にはいらっしゃいます。
  


p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年9月号です。

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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