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リサコラム
連載683回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第4話


「あるリゾート」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。






土色の
石段と
白壁と
蒼い海の
コントラストが
鮮やかな
ここはエーゲ海を
見下ろす島かしら?
カリブ海に浮かぶ小島の
ワンアイランドワンリゾート
なのかしら?



 







        

第4話  「あるリゾート」




 Rikoはエビフライカレーのひとりディナーを終えると、すぐに食器を

持ってミニキッチンに行った。


            


 食器はワンプレートディッシの1枚のみ。それにカトラリーが3本、グラス

1個。それだけを洗うのに5分とはかからなかった。Rikoは最後にスポン

ジに研磨剤をつけるとステンレスの流しを磨き始めた。40年間替えられたこ

とのない流しのステンレスはRikoが入居した時、白く粉を吹いたように汚

れていたが、毎日、こまめな掃除を続けるうちに次第に輝きを取り戻していった。


            


 Rikoは最後に乾いたふきんでステンレスの流し全体を水滴の1つもない

ようにきれいに拭き上げた。Rikoはそのきらめきをそっと手で確認すると、

浴室に行って浴槽の脇の小さな洗面ボウルの前で歯を磨いた。


            


 次にエコバッグにずっしり入った今日の洗濯物を持ってバルコニーに出ると、

洗濯機に入れ、ボタンを押した。洗濯が終わって物干しに干せば、Rikoの

1日のやるべき事は終わる。


            


 Rikoはスマホでホテルのサイトを検索し始めた。そして、ホテルのサイ

トやSNSとあちこちネットサーフィンをやっているうちに、外の洗濯機が仕

事を終えたことを告げた。Rikoはすっと立ち上がると洗濯を干しにかか

った。


            


 「洗濯物は真っ先に干すこと」これは、清掃の会社に入って一番に習ったこ

とだった。放置された洗濯物の中で菌はどんどん増殖を開始する。さらに、つ

かなくてもいいしわ迄しっかりつけてしまう。だから速やかに洗濯物は干さな

くてはならない。Rikoは掃除会社に入ってから、洗濯のポイントはしっか

り守るようになった。


            


 そのようにRikoの仕事は掃除だけでなく、洗濯、アイロンがけ、食事の

買い物などもそのメニューに入っていることがある。そうなると家政婦の仕事

のようにかなりの仕事量になり、当然、スキルが必要になる。そのスキルがア

ップすればするほど、要求されるレベルも上がってゆく。さらにレベルが上が

れば上がるほど貴重な調度品がたくさんあるような大きなお宅の仕事を回され

るようになっていった。


            


 清掃の仕事は学費を稼ぐために始めたことなのに、始めてみると、その仕事

量と求められるレベルの高さが想像以上で、仕事が終わったその足で急いで学

校に行き、夜の11時頃家に帰ると、もう勉強をする体力的余裕はほとんど残

っていなかった。


            


 1年経つか経たないうちに、Rikoは次第に仕事と学校の勉強の両立が難

しいことを感じ始めた。チーフにそのことを相談すると、反対に両立が難しい

ならいっそのこと学校をやめて、正社員にならないかと持ち掛けられてしまい、

Rikoにしてみたら当然、本末転倒で、もちろん受け入れることはできな

かった。


            


 そんな厳しい日々が終わりに近づく週末の土、日は学校も休みの唯一の休息

の時間になっていた。Rikoは洗濯物を干し終えて、やるべきことが終わっ

た後のこの時間が始まるとき、いつも、体がしびれるような充足した感覚を感

じる。Rikoは、今晩はじっくりSariのことを調べてみようと思ってい

た。


            


 ネット検索で現れてきたのは、表紙を飾った雑誌の写真、おびただしい数の

Sariのドレスや、ショーの様子、画像、動画。しかし、Sariの作品の

どれも彼女の家にある色とはまるで違っていた。ほとんどの色目が白、黒のモ

ノトーン、ベージュ、グレー、アイボリーのシンプルでとんがった感じのデザ

インものばかり。Sariの自宅にあったカーテンやクッションのベジタブル

カラーの色合いも、ちょっとかわいいデザインも全く見当たらなかった。


            


 「Sariさんは、ほんとうはどっちが好きなのだろうか?」Rikoは思

いながら、あるインタビュー特集の写真に目を留めた。そこに写っていたのは

、地中海リゾートによくあるような切り立った海を見下ろす岸壁に建つ白い建

物。そこを背景に、Sariが自分のデザインについて語るというものだった

が、白壁の間に丸く切り抜かれたいくつかの部分から美しいブルーが覗いてい

た。Sariは、自身のデザインによるものだろう、ライトグレーのローブの

ようなものを羽織り、頭にはタオルを乗せて、石の階段を降りていた。


            


 「ここはどこだろうか?ギリシャ?それとも、イタリアの小さな島とか?」

Rikoはページをめくった。ミコノス島のような白壁の建物。海を見に行く

ためだろうか、海に向かう石の階段が2か所造られていた。Rikoはそれが

どこだか知りたくて急いで文章を読み進めた。


            


 「ここはSariさんの別荘なんだ!」Rikoは、ほとんど奇声に近い声

をあげた。「海外に別荘を持っているの?もしかして?それとも…」読み進め

ると、それは瀬戸内海に浮かぶどこかの島だとわかった。「へ~、日本にもこ

んなきれいな場所があるのね」Rikoはすぐにでも行きたくなった。実際に

このSariの別荘を見に行ってみたくなった。そして、いつか叶うならば、

自分もこんな別荘を持ちたいという気持ちに変っていた。


            


 Sariのモノトーン、ベージュ、グレーのシンプルで斬新なデザインは、

こんなリゾートの方が美しく見えるのかもしれない。としたら、Rikoのデ

ザインの発想の原点はあの、ベジタブルカラーのワンルームではなく、この別

荘なのかもしれない。サンローランなど多くの有名デザイナーも、画家も自分

の都会の家とは別の場所にインスピレーションの湧く場所を設けていたように。


            


 Rikoは先日、壁を塗り直した6畳の自分のベッドの上でぽかんと天井を

見つめるぬいぐるみのクマを眺めながら、独り言を言った。「私のインスピレー

ションが刺激される?この古いアパートで?」少しばかりの落胆と期待とそし

てジェラシーも込めて




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
  リゾートをテーマにこれまでたくさんのコラムや
 文章をつくって来たような気がします。私の別名はリゾコなのです。
 詳しくは下のebookで。
  


p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年10月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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