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リサコラム
連載701回
      本日のオードブル

ホテル・センチメンタル
part.2

第7話

「148号室のゲスト」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




彼女の
好みは
ネイビー、
ブルーグリーン
ハーブグリーン、
オレンジなんでね、
僕のクロークの
No.5にカーテンが
一式セットで入っているから
それにチェンジしてもらえたら
OKだよ。
やっていただけるかな?
3時間以内で



 







        

 第7話 「148号室のゲスト」






  「148号室のランプぴかっと光った。と同時にコンシエルジュのジョル

ジュのこめかみがぴくっと動いた。


            


 別に148号室のランプだけが特別なわけではないが、その部屋のゲストは

ちょっとばかり特別なのだ。もちろん、私の定位置からは部屋番号までは見え

ない。しかし、ジョルジュの緊張しながらも和やかな雰囲気からそれとわか

るのだ。


            


 「かしこまりました、ムッシュ タナカ。はい。承知いたしました。え~と

、そうですね。3時間ほどでほぼ完了するかと存じますが。いえ、いえ、簡単

なことでございます」ジョルジュは安請け合いのジョルジュと私は枕詞をつけ

てひそかに呼んでいるが、コンシエルジュの中では最も簡単にゲストの要望を

聞き入れる癖がある。


            


 「それでは担当のものを行かせます。それでは後ほど。オヴワー、ムッシュ

・タナカ」私はみぞおちの部分がきりきりと痛むような不吉な予感を感じた。

そんな時はよっぽどのことだから、よっぽどの大ごとが始まるはずだ。


            


 私は正面のフロントデスクを向いたままで右目だけを隣のジョルジュの方に

向けた。彼は左耳に受話器を挟んだままでマイクのスイッチをオフにすると、

反対の耳に別の受話器を挟んで、慌ただしくあちこちに電話をかけ始めた。


 148号室のムッシュ・タナカはホテル通として有名だが、さらに、ハリの

穴に太い糸を通そうとすることでも有名だった。


           


 そもそもムッシュ・タナカが私たちのホテルの常連になった始まりは、ある

一人の若いスタッフのすばらしきミスから始まった。その若いスタッフはプチ

ロシア君と呼ばれた、純朴なかわいい20才の新人だった。しかし、フランス

語もそして英語もしゃべった。彼の英語は大半のフランス人のしゃべる英語よ

り遥かに聞き取りやすいと言われ、そのため、英語しか通じないゲストとのや

り取りに支障をきたした時はそのフランス語なまりの英語をプチロシア君が正

しい?英語に通訳するというそんな役割さえやっていたほどだった。


            


 しかし、ムッシュ・タナカはちょっと違っていた。彼はフランス語が堪能だ

ったことと、空港から直接自分の車でやって来ることだった。彼は、日本に住

む日本人だが、レンタカーではなく、駐車場まで借りて自分の車を置いている

というツワモノ外国人なのだ。それもそのはず、彼はいろいろな車雑誌にも、

カーレースに中継にも、そしてグルメのバラエティー番組まで引っ張りだこの

コメディアン的な要素も持ったパーソナリティなのだから。


            


 その彼が3年前、初めて私たちのホテルにウォークインで現れた。ウォーク

インとは予約なしのゲストのことだか、彼は車寄せのないこのホテルの正面玄

に車を停めると、プチロシア君に結構なチップを渡して、車を駐車場に入れる

ように言い渡すと、チェックインのカウンターで、当時フロントにいたジョル

ジュから、見事、スイートの部屋をせしめたのだ。ウォークインの外国人ゲス

トにスイートの部屋が空いていないかと言われれば、たいていのホテルは断る

だろう。しかし、自分のイタリア車で正面玄関に乗り付けて、フロントにキャ

ッシュを置いていけば、大半のホテルマンは部屋の鍵を渡してしまう。

しかも、ムッシュ・タナカは無理難題を言いつけるわりに、紳士で丁重な物言

いをするから、コンシエルジュの誰もが、そんな彼に対してそれはできない相

談だとは言えない。それは私だってわかる。


            


 その時、プチロシア君はそんなかっこいいイタリア車のキーを受け取ってと

ても喜んだようで、ムッシュ・タナカの言う通りに、車を駐車場に入れたら、

中の荷物をすべて148号のスイートへ運び込んだ。そしてムッシュ・タナカ

は部屋には入らず、その足で近くのレストランに食事に出かけたのだった。


            


 それから数時間後、ムッシュ・タナカはホテルに戻り、自分の部屋に入ると

指示通りにすべて運びこまれていることを確認した。そして彼はフロントの

ジョルジュに電話をかけた。そして、指示通りに自分の荷物がすべて部屋に

運び込まれていることに礼を述べた後で、ちょっと戻したいものがあるから手

伝ってくれないかと言ったのだ。ジョルジュはすぐにムッシュ・タナカの部屋

に行くと、やはりすべてのものが運び込まれていることを確認した。その上で

ムッシュ・タナカの車に持ち帰るものの指示を受けたそうだ。


            


 それはスペアタイヤ、ジャッキ、非常灯などが含まれていた。ムッシュ・タ

ナカはしかし、怒りもせず、にこやかに指示を出したという。そして、決して

、プチロシア君をしかりつけないように申し渡したそうなのだ。それ以来、

ムッシュ・タナカは1年のうち3か月ほどを私たちのホテルで過ごすように

なったから、それもプチロシア君のおかげとも言えなくもないが、肝心の彼が

国に帰ってしまったからもう礼も言えない。そんな刺激的な出会いから、スタ

ッフもコンシエルジュも支配人もムッシュ・タナカに頭が上がらないのだ。


            


 「さて、今回はどんな御用だったのかな?」私はジョルジュに尋ねた。

もちろん、彼には猫語が通じない。しかし、彼が額に大汗をかいているところ

を見ると、新しい彼女が明日やってくるから、彼女の好みにカーテンや天蓋カ

ーテン、椅子、そして、その他のインテリアを変えてくれないかという要望に

違いないだろう。それはいつも彼が要望することだから。さらにムッシュ・

タナカは自分の部屋に合うサイズのカーテンやテーブルクロスまでこのホテル

に置いているのだから文句は言えないのだ。


            


 「ほ~っ」ジョルジュはため息をついた。しかし、私はそれがうれしいため

息でもあることを知っている。だって何のクレームも、さらに何の要望もしな

いゲストは2度とやって来ないことを彼は知っているのだから




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  タナカヤスオ氏のことを思いながら描いたもちろんフィクションですが、
    実話も少々入っています。

    次回は3月11日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の日常、今週はパリシリーズです。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年3月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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