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リサコラム
連載705回
      本日のオードブル

ホテル・センチメンタル
part.2

第11話

「私とパリの街」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




花の都は

セーヌ川
水上バスに
エッフェル塔が
なくてもいいのです。
行けないなら壁に掛けるのは
どうですか?
窓からそんな景色を見ているつもりで
生まれたのが風景画なのですから。
それに、棲めば都ですから。



 







        

 第11話 「私とパリの街」




  コンシエルジュデスクの脇で朝の二度寝を楽しんでいた私の顔にいきな

り朝の光が差し込んできた。


            


 それは黒塗りのタクシーのボディに反射した光だった。ということは、

タクシー運転手のマチアスがやってきたということだ。


            


 この街のタクシーはどれも汚れ放題だが、かと言って、それを誰も気に留

めない。彼らのほとんどは車がぴかぴかである必要性を感じていないのだ。

しかし、唯一、マチアスの車だけがいつもぴかぴかに光り輝いている。


           


 私はよく毛づくろいをしながら、通りに辺りに止まって、仲間のタクシー

運転手や知り合いとぺちゃくちゃしゃべっているタクシー連中を見ながら思

うのだ。そんな暇があるなら、車を磨いたらどうだろう?しかし、彼らはそん

なことは思いつきもしないのだ。


            


 だが、このマチアスは違う。彼は昼休みや暇な時間があれば、いつも自分の

愛車を磨いている。そんな彼は日本に行ったことがあるという。彼は数年前、

友人を訪ねて日本を訪問したことがあるそうだ。その時は、東京、大阪、神戸

を訪ねたが、どの街も交通規則が守られていて、クラクションを鳴らす車がい

ないのにとても驚いたと言っていた。


            


 「クラクションを鳴らす時は、『ありがとう』って意味なんだよ」とマチ

アスは得意げにドアマンのアランに言っていた。「そんなことあり得ないぜ」

とアランが一笑に付すと、マチアスは人差し指を立てた。

「彼らはOmotenashiの心を持っていいるさ。それがWabisabiっていうんだ

よ。君にはわからんかもしれないがね」とちょっとばかにしたような顔でポケ

ットの中から携帯用アッシュトレイを出すと、その中にたばこの吸い殻を入

れた。「なんだい?それは?」アランが聞いた。「もちろん、たばこの火はこ

うして消すのさ。日本ではね、みんなたばこの火を足で踏んづけて消したりし

ないんだよ。こうやってやるのがつまりはOmotenashiなのさ。そしてそれが、

Wabisabi
の心ってもんなんだ。これは京都に住んでる僕の友人から教わった

から間違いはない。なんたって、KYOTOは花の都だからな」


 ぽかんとした顔でマチアスの話を聞いていたアランは、ハイチからの移民の

両親を持つ息子だ。「ほう、花の都か、それってどこかでも聞いたことがある

な~」と言った。私は、“それこそ、このパリの別名じゃないのか?この街以

外にそんな国があるのか?”と思ったが、黙って聞いていた。


            


 アランもチュニジアからの移民の息子だし、彼にとっての祖国はやはり、

ここフランスにもアフリカにも半分ずつあるらしい。だからどちらをひいきす

るでもないようだ。


 そんな二人のいつものたわいない会話の間に、大理石の床をコンコンコンと

硬い音を立てながらゲストがやってくる音が聞こえた。


            


 「遅くなって、ごめんなさい」「いえ、マダム、さあ、どうぞ!」そのマ

ダムは、「空港に行く前にパリの街をもう一度見ておきたいんだけど」と言い

ながら、玄関先でアランにチップを渡した。アランは礼を言った後で、

「それなら、マチアスにとっておきの場所をご案内させましょう」と言い、

ドアマンの威厳を示しながらマチアスに向かって、「マダムに君のとっておき

の場所を案内して欲しい」と言った。「かしこまりました」アランは、右手を

体の前に持って来てお辞儀をする恰好をしてから、マダムを車に乗せ走り去っ

た。私はマチアスの車を見送った後で、中断された2度寝を再開すべく、首を

すぼめると目をつぶった。


            


 そして、ちょっとうとうとし始めたところで、私の頭をコツンとたたく奴

がいた。半分目を開けてみると、それは長身の黒人の男性だった。彼は体に似

合わないような小さなブリーフケースを私の寝ているコンソールテーブルの脇

に置くと、「ほう、これがかの有名なシャだね」と言って、私の喉をごろごろ

と撫でた。私は目をつぶって心地よいふりをした。そうするのが私の任務だか

らだが、実を言うと、2度寝に戻りたいのが本音だ。しかし、有名な猫と言わ

れたからには私は目を開けて、しゃんとするしかなかった。


            


 私は前足を揃えて腰を下ろすと、「ようこそ、当ホテルへ」とゲストに丁重

に猫語で挨拶をした。


            


 「なかなかいい毛並みをしているね。いいものを食べてるんだろうな。間違

いなく私の祖国の人間たちよりはね」と言うと、ちょっと困惑したような表情

で小さく笑った。そして私の体を眺めまわしてから、「私は医師だけどね、君

は少々太りすぎだね、きっとコレステロール値も高いはずだ。こんな安楽な場

所で昼寝してばかりじゃいけないね。少しはネズミでも捕まえて人間の手助け

をしたほうがいいな」と言うとガハハハッと大声で笑いながら、客室の方へ廊

下を大股で歩いて行った。


            


 私は自分がそんなにいい身分だとは思いもしなかったが、確かに、コンシエ

ルジュデスクの横に居さえすれば、みんなが頭をなでで行くし、食べそこなう

こともない。だから以前のホームレスの時代のように、食べ物を求めて街をう

ろつくこともなくなった。おかげで体重は2倍以上になり、動きも緩慢になっ

たのは自分でも分かっている。さらに、コンシエルジュデスクの脇のこの場所

は正面玄関に近いため、毎日、いろんな人々が出入りする。それでも屈強なド

アマンがいるおかげで、酔っ払いも追い払ってくれるし、ウォークインの客も

上手に断ってくれる。幸い、私に身の危険が及んだこともない。だから、番犬

ならぬ番猫の役目は全く果たしていない。


            


 それなら、私は何のためにこのコンシエルジュデスクの脇のコンソールテー

ブルを持ち場として与えられているのか?私のレゾンデートルは何か?私はパ

リの街に生まれて初めてこんなことを考えるに至った。


            


 私などがいなくてもこのホテルは回る。でも、コンシエルジュがいなくては、

チエックインカウンターがなくては、キッチンがなくては、そして、ハウスキ

ーピングがいなくては無理だ。さらに、牛乳、チーズ、肉、魚、野菜、果物、

小麦粉を運んできてくれるトラックと運転手がいなくては、このホテルは運営

できない。もっと言えば、野菜や果物や小麦を作る人たち、肉牛を育てる人た

ち、そして釣り人がいなくてはすべてが回って行かないのだ。


            


 それでも衣食住に満足できてさえ、人間はまだ生きていけないのを私は知っ

ている。それは、悲しい時、疲れた時になぐさめてくれる、困ったときに助け

てくれる人間を人間は必要とするからなのだ。


            


 「なんと!」私は叫んだ。「それなら私も役に立って入るではないか!人間

の癒しとなり、なぐさめとなっているんだから!」私は長い洞窟に迷い込んだ

先に猫の目くらいの青い空が見えた人間が言うセリフを言いたくなった。

「助かった!やっぱり、運は私を見捨てなかった!」


            


 そして私は小さな声でこう付け加えた。

「やっぱり、パリは私を見捨てなかった」私はまた首をすくめて、3度目の

2
度寝に入った




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  美しいパリは近く復活するでしょうか?
  自粛のおかげで大気汚染がずいぶん解消されているようですが。



      


       


       


      ノートルダムの先端はなくなったままの姿

                    2020年1月16日 木村撮影


  次回は4月15日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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