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マダム・ワトソン　My Style

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	連載７１４回　　　　　　ある嵐の晩に第５話「５人のマリア像」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

海の底を
思わせる
ブルーの天井。
濃紺の正面の壁には
後ろ向きのマリア像の絵。
ブルーグリーンのベルベットの
カーテンがうつくしいゴージャスな
ミーティングルームでさてどんな話が
始まるのでしょうか？
続きは本文で。
追伸p.s.も
ぜひおよみ
ください
ますように。

　第５話　「５人のマリア像」

　 M氏の指は快調にキーボードの上を動いていた。それはまるでロボットの

ようでもあった。テーブルにはブルーのゴブレット８つが並んでいる。

あと１時間後にオンラインのミーティングが始まるようだった。

　そしてテーブルを挟んで斜め向こうに座っている秘書のトマはM氏のミーテ

ィングで発表予定の研究論文を検証していた。

　　　　　　　　　　　　　

　「オンラインミーティングはいいな」M氏は手を止めずに言った。とんがり

帽子を被った秘書のトマは「そうですね。でもどうしてですか？」と温かな言

葉で問いかけた。「なぜかって、こんな危機的な状況だって安心して人と話が

できるからね」M氏は満足げにキーボードを打ち続けた。それと同時にトマは

M氏の文章の校正と翻訳を続けた。誤字脱字があれば、もちろん、修正も行

う。ミーティングのメンバーの中には、特殊な母国語しか話せないメンバー

がいるため、秘書のトマはそれを日本語と英語に同時通訳をする役目も担う。

　　　　　　　　　　　　

　「トマ、いよいよ始まるが、準備はOKかな？」「はい、先生。こちらは大

丈夫です」「そうか、それじゃ、手洗いに行ってくる。よろしく」「かしこま

りました」トマはまたカタカタと音を立てながら、M氏の論文の誤字脱字を

チエックして、それを数か国語に翻訳するという作業を続けていた。

　人間嫌いで知られるM氏は、新型ウイルスが世界を席巻するだろうという情

報を誰よりも早く知った人間のひとりと言われている。それは、やがて訪れる

だろう展開をやはり誰よりも早く予測し、行動に移すことに成功した。

　　　　　　　　　　　

　ひとり暮らしの彼は研究室兼自宅を即座に売り払うと同時に海外に一軒の別

荘を買った。彼の新たな住まいは飛行機で約５時間、さらに空港からタクシー

で３時間の道のりがかかった。しかし、開拓の進んだリゾート地の別荘は、

一軒一軒が離れ、秘境の雰囲気も十分に漂わせていた。バルコニーに出ると一

面の美しい段々畑が広がり、遥か向こうにジャングルが続いていた。そして、

反対側には、渓谷の下を川が流れていた。

　　　　　　　　　　　　

　M氏がこの別荘に移り住んだ時期は雨季に当たり、ここ数日は毎日雨が降り

続き、時にはあたりが真っ白になるくらいに集中豪雨の続く時間帯もあった

が、世間から隔絶されたリゾートでニュース断ちをし、静かに研究に励むには

環境は申し分なかった。

　　　　　　　　　　　　

　彼は新型ウイルス対策で空港が閉鎖され、渡航が出来なくなる１か月も前に

この地に移住して、以来４か月、誰とも接触していなかった。

　　　　　　　　　　　　

　彼の別荘は事前に現地のデザイナーにより整えられ、その趣味はM氏の好み

にも合っていた。ミーティングルームに使われる部屋はややクラシカルな雰囲

気を漂わせるブルーグリーンのベルベットのドレープカーテンと綿レースが

３mの高い天井から下がる優雅なスタイルで、ミーティングルームにしては

ゴージャス過ぎる感じはしたももの、窓の外のバルコニーから渓谷を見渡すこ

とができたし、気分転換には絶好の場所にあった。

　ベッドルームも、バスルームも白大理石をふんだんに使った余裕ある美しい

空間で潔癖なM氏の要求を十分に満たしていた。そして決め手はすべての空間

が２４時間、地球最高レベルの空気清浄機により空気が清浄化され、オーガニ

ックハーブの香りが付加された草原のような空気を漂わせることのできる最新

設備だった。

　　　　　　　　　　　　

　さらに、食事はすべて工場で生産されるオーガニック野菜や果物、そして地

元の食材が使われ、半調理済みでセントラルキッチンから１日おきに宅配ボッ

クスに配達された。人の出入りはなかった。しかし、困ることは今のところ、

皆無だった。

　　　　　　　　　　　　

　M氏は手洗いから戻ると席についた。「ずいぶん雨が激しくなったな」M氏

は独り言を言うと正面の壁にかかった絵を見た。その絵は唯一、M氏が持参し

た絵画で、彼は高級車が１台裕に買えるような金額で有名なオークションで落

札した。元はイタリアの山奥にある修道院の礼拝堂の壁にかけられていたとい

う曰く付きで、言い伝えによれば、危険を察知すると、後ろ向きのマリア像が

正面を向くという。それは天災、火災、そして何かの大きな危険や危機を事前

にM氏知らせてくれるというもので、M氏の唯一信頼をおく人間とも言える守

り神だった。そして彼の秘書のトマは、M氏の作品であるロボットだった。

　　　　　　　　　　　　

　M氏はパソコンを操作して、ミーティングに向かった。ミーティングとは実

は、遠隔での飲み会で、しかし、お酒を飲まないM氏は水をブルーグラスに入

れて手元に置いた。さらに、気分を盛り上げるために、メンバー５人分の空の

グラスとマリア像用にも一つ用意した。

　　　　　　　　　　　　

　画面に５つの顔が現れた。「やあ、元気そうだね」とそれぞれが言葉をかけ

あった。するとトマがすぐに同時通訳をする。挨拶の後はすぐにここ3か月の

自粛生活の状況、新型ウイルスの話、研究論文の内容発表とこれからの研究課

題の報告など、グラスを傾けると、みな、饒舌になり話題は尽きなかった。

　　　　　　　　　　　　

　2時間が経って、メンバーのひとりが言った。「Mさん、そんなところにじ

っとしててだいじょうぶなの？」「そうだよ、早く逃げた方がいいよ」他の3

人も口々に、「早く避難した方がいいよ」と言った。

　　　　　　　　　　　　

　M氏は正面のマリア像の絵画を見ながら笑った。「一体、君たちは何を言っ

ているんだい？ここ以上に安全な避難所は地球上にありえないよ。だって、

日本を脱出してから４か月誰とも接触していないんだよ」「それはわかるが、

君のいる窓の後ろからがけ崩れのような画像が見えるからね」「そうだよ、今、

調べたら、そこは1時間前から緊急避難勧告が出されているようだよ」M氏は

それでも、マリア像の絵画を見ながら笑った。「大丈夫。私には、神がついて

いるからね」そして会はお開きになった。

　　　　　　　　　　　　

　その晩、豪雨は嵐を伴い、川は氾濫し、土砂と共に渓谷を埋めた。しかし、

M氏は夜中にベッドルームから起き出してマリア像の絵を見に行き、変化のな

いのを確認すると、また自分のベッドに戻った。

　　　　　　　　　　　　

　それから1時間後、トマが呼んだヘリコプターでやっとのことで、M氏は

トイレの窓から救出され、その直後、M氏の家は川に流されて行った。

そして彼は、5人のメンバーがマリア像だろうと秘書のトマから知らされた。

　　　

　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

　　　＊リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.１　
　　TheWestwing　ホワイトハウスというドラマの中で、
　大統領権限で、
　死刑囚に恩赦を与えるかどうかという意見を数人から聞いた後で
　やはり、結論を出せずに死刑執行されたあと、
　大統領は、子供の頃通っていた教区の牧師を呼んで懺悔をする
　シーンがあります。牧師は、
　「君を見ていると川のそばに住んでいた男の話を思い出すよ」
　と言います。
　それは洪水で、早く逃げろ、と勧告を受けても最後まで逃げなかった
　信心深い男の話でした。
　天国に行き、男は神の前で、
　「あなたをずっと信じていたのにどうしてこんな仕打ちをするのかと」
　と文句を言います。
　すると、神は男に
　「私は君にメガホンと、ゴムボートとヘリコプターも差し向けた。
　なのに、どうして君はここにいるのだ？」と。

　神は時として、人間の形をして人に警鐘を鳴らすのでは
　ないでしょうか？
　今回のコロナウイルス然り。
　集中豪雨の季節になりました。
　心して行動したいと思います。

p.s. 2　　インスタグラム、私の日常です。

　　
　　「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０２０年６月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　　の英語版です。
　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”
　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

　　どうかご了承くださいますように。

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　
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