MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載715回
      本日のオードブル

ある嵐の晩に

第6話

「13日の金曜日」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ネイビー
ブルーと
グレーの
市松模様の
絨毯の上に
天蓋ベッド。
濃紺の天蓋から
下がる白いカーテンは
白いベッドリネンと共に
エレガントな優雅さを醸し出し
静かにゲスト待っているようです
窓の外の嵐は
もう止んだ
ようですね。
明日はきっとすばらいしいお天気でしよう。



 







        

 第6話 「13日の金曜日」




 
「先生、お元気でいらっしゃいますか?お噂はかねがね伺っております。

私は今、無事に大きなプロジェクトを終え、次の仕事に向けて穏やかな気持ち

で取り組んでおります。


            


 考えてみれば私は今までがむしゃらに働きすぎました。いえ、働き方が悪か

ったのです。まさしく貧乏暇なしでした。今ならどうして貧乏暇なしなのか、

その理由がよくわかります。もちろん、学生時代は明日の食費にも事欠くよう

なこともしばしばありましたが、その時は勉強するという目的があったため、

それでも喜んで本を買っていました。


 しかし、ついこの間までの私はそんな探求心も、向学心も失った、昔の几帳

面な私しかご存じではない先生から見れば、ほんとうにやる気の失せた抜け殻

のように写っていたでしょう。


            


 実際、私は忙しさと数々の人間関係の中でもまれ、さらに家族もバラバラに

暮らすようになって、日々をずいぶんと雑に生きていたのです。ひとり暮らし

なのだし、だれも来ない家で丁寧に暮らしても仕方ないと思うと怠惰になり、

改善意欲も失っていました。こんな恥ずかしいことを正直に言えるのも、先生

しかいません。昔、先生の研究室で夜中まで議論した、あのきらめく瞳を持っ

た私はとうの昔に居なくなっていました。


            


 今、住んでいる私の家は古い築50年で、親から譲り受けたままです。当然

のことながら、あちこちが痛んで、大雨の日は風雨を直に感じます。外壁も汚

れ、剥がれ落ち、門扉はちゃんと閉まりません。駐車場の屋根はいつの台風の

時かに大半が飛んで行ったきりです。雨の日は車に乗るのに傘が必要になり、

意味をなさなくなっています。しかし、不自由にも慣れるものなのですね。


 さらに主人は5年前から海外赴任になり、頼りの息子も4年前からひとり暮

らしを続けていて、3年前を最後に戻ってくることもなくなり、男手もありま

せん。そのため、5LDKの私の家はリビングと隣り合う私の寝室になってい

る和室以外は使われることもなくなっていました。2階の広いバルコニーに洗

濯物を干したり、時にはそこのデッキチェアで本を読んだりしていたのに、

2
階に上がるのさえ面倒になって、ここ何年も上がってさえいなかったので

す。そうなるとさらに上がるのが嫌になるというより、2階の部屋が気味悪く

なるのです。自分の家なのに、開かずの間がいくつもできて、他人の家に住ん

でいるような感じなのです。


            


 そして、2週間前の嵐の晩に事件が起きました。その日は忘れもしません。

13日の金曜日の晩でしたから。しかし、私は無宗教ですし、そんな迷信めい

たことは信じませんから、別に何の考えもなしに、午後9時頃家に帰ると、シ

ャワーを浴びて、スーパーで買って来た食材で簡単な食事をしました。近頃は

ダイニングで食事はせず、キッチンカウンターに座って小さな画面でテレビを

見ながら食事を済ませるというようなそんな生活をしていました。そして、

別段、面白そうなテレビもないから、休もうと思い、和室でふとんを敷いて横

になってしばらくした時です。雨が段々と強くなり、雨戸がガタガタと音を立

て始めました。しかし、いつものことですから、無視して横になっていると、

誰も居ないはずの2階の一番奥の物置部屋のドアがギイとなる音がしたので

す。ちょうど私の寝ている和室の真上の部屋ですから、それは確かです。私は

驚いて飛び起きました。


            


 するとそのうち、廊下がミシミシと言い始めるではありませんか。私はもう

恐ろしくなってジャケットを羽織りました。すぐにでも外に飛び出せるように

と鞄を持った時、階段を踏み込む足音がしたのです。もう私はこれ以上耐えら

れませんでした。大急ぎで勝手口から外に出ると、車に飛び乗り、ガタガタ震

える手でハンドルを握ると、大雨の中、無謀な逃避行を始めたのです。どこで

もいいから、あの家から離れたいという一心でした。しかし、ヘッドライトに

照らされる街並をウロウロしながら、私はどこに行くべきか思い当たりません

でした。今晩はもうあの家には戻りたくないとそれだけは確信が持てました。

けれども、こんな夜半にあてもなくさまようわけにはいきませんから、どこか

ホテルを探さなくてはと思いました。しかし、パジャマの上にジャケットを羽

織っただけで、いくら何でも、こんな格好でホテルのフロントまでたどり着け

ませんでした。かと言って家に服を取りに戻るのは論外です。そこでずうずう

しさは重々承知の上で、ここからさほど遠くない湖のそばに別荘を建てられた

ばかりの先生のお嬢さんに、思いきって電話をかけたのです。週末はいつもそ

の別荘で過ごされるとつい先日も伺ったばかりでしたから。私は事情を説明し

て家に泊めてもらうお願いをしました。ほんとうに天井知らずのずうずうしさ

ですが、先生とお嬢さんにしかすがる人はいなかったのです。


            


 おじょうさんは快諾してくださいました。ゲストルームが空いているから、

どうぞと言われたのです。私は恐縮しながらも救われた思いで、新築祝いの

パーティで招かれたことのあるお嬢さんの湖畔の別荘に向かいました。


 雨はさらに豪雨になり、ワイパー全開でゆっくりゆっくり走りながら、お嬢

さんの家の玄関にたどり着いたのは、もう11時を回っていました。途中のコ

ンビニでワインとパンやお菓子を買ってささやかな手土産にしました。ほんと

うに失礼千万さはあきれるほどですよね。しかし、その時は私のずうずうしさ

のほうが勝っていたのです。


            


 そして案内されたゲストルームのドアを開けた途端、私は「ここはどこ?」

と言ってしまったのです。


 驚きました。私の想像を遥かに超えたその部屋は、マリーアントワネットの

寝室のように美しかったのです。インテリアなどにまるで素養のない私にはい

い他の表現ができないのですが、市松柄の絨毯を踏んで部屋に入った瞬間、そ

の清涼な空気は一度だけ行ったことのあるフランス側のアルプスのふもとのホ

テルを彷彿としたのです。あのホテルの部屋の空気と同じだ、と感じました。


            


 そんなみっともない私をお嬢さんは反対に私をいたわり、ご親切にも、隣の

バスルームを自由に使ってくださいと言われ、さらに私の持参したコンビニの

パンで夜食さえ作って持って来てくださったのです。そのサンドイッチのおい

しかったこと!そこには愛と優しさがこもっていました。さらにずうずうしい

ことには私は全部平らげました。そして清潔な白いバスルームも使わせていた

だいた上で、恐る恐るその美しい白いベッドに入りました。すべすべして温か

く、包み込まれているようで、まさに夢のようでした。


 私の湿ったせんべい布団とはまるっきり、天と地の差がありました。こんな

に心地よい暮らしをしていたら、あんなに優雅な物腰で、ささっとサンドイッ

チを作り、ワインの栓を抜いておもてなしができるようになるものかと、うれ

しさと感謝の気持ちがこみ上げてきて涙がほほを伝いました。それに比べて私

の緊張感のない暮らしを思うとあまりに情けなくて、涙が止まりませんでし

た。しかし、その内、とことんずうずうしい私はこんなに素晴らしいゲストル

ームを提供くださったお嬢様の寛容さに甘えて、心地よい熟睡という深い海の

中に揺られながら、静かな朝を迎えたのです。ほんとうにお嬢様には感謝して

もしきれません。


            


 翌朝、美しい湖畔から眺める青い景色のなんとすばらしかったことでしょ

う!昨夜の幽霊騒動も、大嵐も夢だったかのようにすっきり晴れ渡った空と

湖を眺めながら、後ろ髪を引かれる思いで私は家に帰りました。そして恐る

恐る2階に上がってみたのです。


 そこには、なんと、息子からの手紙が残されていました。幽霊の正体は実は

息子でした。ショック療法のつもりだったのでしょう。このだらけた私を何と

かしなくてはと彼なりに思ったようです。こんな状態では、息子はフィアンセ

を家に連れて来られないと思ったようでした。そんな息子もこの家が薄気味悪

くて、その晩、すぐにホテルに帰ったそうです。それ程、この家は荒れ果てて

いたのですね、傍から見ると。私はそれに気づかないほど鈍感になってしまっ

ていたのです。実の息子さえ寝泊りしたくないような家だったのかと、私は2

重の衝撃を感じました。そして、絡まった糸がすべてほどけた感じでした。


            


 その時、つくづく思いました。仕事が忙しくてと言いながら、実は、家のこ

とを構わないことをその言い訳にしていたのです。悪いことには、家のことが

おろそかになっているといろんなところにほころびが出てきます。まずは、

人間関係にです。そして人間関係のほころびは縁の切れ目、そして金運に見放

されます。ただ唯一、先生とお嬢様だけが私をまだ見捨ててくださっていなか

ったことに対しては感謝しても感謝しきれません。先生、この度は、お嬢様に

ほんとうにご迷惑をおかけいたしました。ご厚意に心よりお礼申し上げます。


            


 あれから2週間たった今、私は自宅をリフォームするための全段階として

不用品の整理と、掃除に明け暮れています。13日の金曜日が嵐だったのは、

きっと偶然でしょうけれど、13日の金曜日は私にとって大事な記念日になり

ました。このことも含めまして、先生とお嬢様にお礼かたがた、ご報告を申

し上げたいと存じます。


   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1  
  
 13日の金曜日、ミシミシの足音、嵐、ミステリーの素材を
 フル活用してしまいました。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.