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リサコラム
連載718回
      本日のオードブル

ある嵐の晩に

第9話

「メランコリックは
味わってから」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ここは、
パリのあるカフェ。
ガラス窓の向こうには
ロータリーとその中央に
馬と人間の銅像があります。
まさにヨーロッパの街並、
パリの美しい街並
新しいものは
もっと
新しいものに駆逐され、
古いよいものはずっと残り、
街並は守られるのかもしれません。




 







        

 第9話 「メランコリックは味わってから」




 
「今はね、午後6時。夕焼けがとてもきれい。そっちはどうお?」Miri

カフェのいつもの席に座り、正面のロータリーの中央に鎮座する銅像をぼん

やりと眺めていた。昨晩の大雨に打たれて1年分の汚れも落としたのだろ

う前足を上げた馬にまたがった騎士か将軍は夕陽を背にしていつもより輝い

て見えた。


            


 「こっちは昨日まで大嵐ですごかったんだけど、今日は晴れて、明日から

いいお天気になるみたいよ。でも、パリもまだ普段通りにはいかないんじゃ

ないの?」Mikiの電話の相手は日本にいる友人のHaruで、小学校からの同級

生だった。「そうね、観光客がほとんどいないから、パリの街の活気は戻っ

ていないみたいね」


            


 「Miri、今日のヘアスタイルは決まってるね」注文を取りに来たギャルソ

ンのニコラ君がいつの間にかMiriのそばに立っていた。彼の額は夕陽を受け

てさらに輝いて見えた。「あら、そう?ありがとう。それじゃコーヒーを」

Miri
はスマホを押さえて言いかけ、「あ、いや、エクレアとカフェクレームの

セットで」と言い直した。Miriはイケメンニコラ君の笑顔と褒め言葉にはカ

ラキシ弱い。「かしこまりました。それじゃすぐに。お電話のお邪魔しま

した」ニコラ君はいつもの屈託のない笑顔を見せて立ち去った。


            


 「ねえ、Miri、今年、こんなだけど、パリ祭はやるの?やらないの?」

「なんだかそれもはっきりしないけど、パンデミックなんだから、人が集ま

るそんなイベントはもちろん縮小でしょうね。市民はテレビか自宅のバルコ

ニーでエッフェル塔の花火を見なきゃならないそうよ。シャンゼリゼ通りと

かアルマ橋には近づくこともできないみたいだからね」Miriは聞きかじった

情報で答えた。「でもね、私、花火とかイベントとか興味ないし、パンデミ

ックなんかになるずっと前から人が集まるイベントには不参加組じゃない。

だから、かえってその方が静かでよかったかなって、思ってるくらいだか

ら。それに去年来たばかりだし、まあ、こんなことになるなんて思いもしな

いから、お祭り騒ぎどころか、明日をどう生きるか、今後の身の振り方をど

うするかが一番かな~。だから、今は正直なところ、日本に戻りたい気持ち

半分、でも帰りたくない気持ち半分ってとこね。そうはいっても簡単には日

本に戻れそうにないしね~」Miriは日に日に寂しくなる財布の中身を気に病

みながらも、やはり、この間から営業再開したお気に入りのカフェに座って

いた。そうして、けたたましく響き渡る車のクラクションの応酬に、Miri

パンデミック以前に戻りつつあるパリの雰囲気を感じながら、一日の終わり

にカフェに座る。これがMiriの何よりの楽しみであり、そのために昨年ここ

にやって来たようなものだった。そんなメランコリックに浸れる至福の時間

Miriに日本との時差を忘れさせ、気安さからHaruについ電話をかけること

になってしまった。


            


 「ああ、ごめん。そっちはもう夜中よね」「いや、いいのよ。それで、つ

いでに聞くけど、フランス革命記念日ってフランス革命の翌年からだから、

1980年が1回目ってことは2020年は230周年なのかな?」

Miri
はニコラが脇にそっと置いたコーヒーを一口、口に含んだ。苦味が口の中

から頭に抜ける。「そうかもね。でも革命記念日なんて言っても、今は単に

7月14日のお祭りって感じじゃないのかなって思うよ?市民と言うか国民

的にはね。その時代のことを直に知る人はいないわけだから、7月14日を

どんな感じにとらえるのかって、パリに住んで1年未満の私にはまだ全然わ

からないのよ。自由、平等、友愛だけど、個人主義であり、記念日のお祭り

騒ぎも集団のデモ行進をするし、それに加えてノートルダム寺院の火災が市

民に与えた衝撃の大きさみたいなもの、全部がどうもしっくりまとまらない

って感じがするのよね。個人主義なら、革命を一緒に祝わなくてもいいんじ

ゃないのとか思うしね」Miriがしゃべっている間にも勇壮な建物の間から広

がる空が、赤紫から段々青紫に刻々と変化している。


            


 「でもね、何度も言うけど、こんなことになるなら、大人しく日本にいた

方がよかったなって、これも後の祭りだけど、そう思ったりして…ねえ、

どう思う?」


 黙って聞いていたHaruはため息交じりに「そんな贅沢よ~」と言った。

「だって、今までだれも経験したことのない、観客不在のパリ祭の瞬間を現

地のテレビかバルコニーから見れるんだから、最高じゃないの。だれもいな

いところでエッフェル塔がライトアップされて、そこから数千の花火が上が

るんでしょ。歴史的瞬間じゃない!前代未聞だし!そんな瞬間に立ち会えて

幸せとおもわなくちゃ!また、絶対、リポートしてよね。何時でも構わない

からね!」


            


 Miriはこれまでもずっと楽天家のHaruに助けられてきたことを思い出し

た。「そうね。確かに。でも、何をどうしたらいいのか不安でいっぱいで、

何も手につかないの。仕事も週1くらいだし、一日ぼうとしてテレビばっか

り見てるときもあるし、Haruみたいに全然、オプティミストになれなくてね」


            


 「Miri、もしかして、今、どこにいるの?」Haruはいぶかし気なニュアン

スを響かせながらMiriに尋ねた。「カフェにいるよ。行きつけのね」「やっ

ぱり。そんなとこかなと思った。ねえ、変な例えだけど、大嵐の翌朝、すぐ

に自分の家の屋根やら、庭木やらの後片付けを始める人と、途方に暮れてい

る人がいたら、どっちに未来が開けれると思う?」MiriHaruの真意を計り

切れずにいた。「片付けを始める人だよね。だから、カフェで時間つぶしな

がら、戻れないパリの残像を追いかけている暇はないのよ。さっさとアパー

トに帰って掃除して、片付けてすっきりするのよ。新たな時代がはじまるん

でしょ。260年前にヨーロッパ中どころか世界を揺るがした革命のその記

念日が1週間後にやってくるなら、身辺を麗しく整えていなくちゃ。どんな

いい仕事の出会いがあるかわからないでしょ?カフェでメランコリックな気

分に浸ってる余裕はないんじゃないの?」Haruの言葉にはエネルギーがあふ

れていた。いやあふれ過ぎてMiriには辛く響いた。Miriはしばらく黙ったま

まで返事ができずにいたが、「そうね。Haruの言ってることは正解。すぐに

帰って、散らかった部屋を片付けて掃除すべきね。明日から積極的に自分か

ら仕事を探してみるわ」Miriは思い切ったように言った。


            


 「そうそう、それが一番」Haruは生徒を諭すような声色になっていた。

「でも、どうして私がカフェにいるなんてわかったの?」Miriはマスクをし

たトラックの運転手が、荷台にたくさんの荷物を載せて慌ただしくビルの中

に運びこんでくる様子を何気なく見ながらHaruに聞いた。


            


 「言うかどうしようかと思ったんだけど、実は、一昨日の大雨で自宅は床

上浸水したのよ。すごくない?今朝、やっと水が引いたから、片付けようか

と思ったんだけど、意気地がなくて、ホテルに泊まって部屋でテレビ見てた

とこ。実は私もMiriと同じよ。はははは…」Haruは大声で笑ったがMiriはと

ても笑えなかった。


            


 「ごめんなさい、私、Haruちゃんがそんな大変な状況だったなんて、知り

もしないで…」Miriはそのあとに続く言葉が見つからなかった。

「ぜんぜん!さっきのは自分に言い聞かせてたようなものだから」Haruはそ

う言うとまたげらげらと笑った。「さあ、明日から片付けがんばろうって、

気合入れるために今日からホテル暮らしよ。それも今まで泊まったこともな

い最高レベルのにね。こんな災難なんてめったにないでしょ。だから負も正

も思い切り楽しもうって思ってさ。ああ、広いふかふかのベッドはいい気分

よ。これでエネルギーを充電させたから、意欲も満々だし。明日からがんば

れそう。それに片付くまではホテル暮らしだからね、これもいいでしょ。

ホテルから仕事先にゆくみたいで」「さすが、Haruね。割り切りがすごい

な~私もちょっとやる気出て来た。帰って部屋、片付けるね、ありがとう、

Haruちゃん。そしてがんばって。私もがんばるから」


            


 Miriは電話を切るとすぐに、チョコレートのかたまりがうず高く堆積して

いる大きなエクレアとその背景に夕陽に輝く歴史的モニュメントを撮影する

と、コメントをつけてHaruに送った。「メランコリックな至福もなきゃ、

本気も出ないね」


            


 その後でMiriはざくっとフォークを突き刺すと、ゆっくりとナイフを入

れ、そして、優雅に口に運んで、カフェクレームと一緒にゆっくり堪能

した




     



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 自分が何かの不満を漏らそうかと思う時、
相手はもっと深刻な状況にいるかのかもしれないと
思わないといけないと思っています。
そう思うと、
小さな不満なんて誰にも言えなくなります。
そんなレベルの不満なんて、フツウになる余裕ある環境に
日々整えたいと思います。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年7月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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