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リサコラム
連載722回
      本日のオードブル

ある夏の日々

第3話

「ハイビスカスは
潔く美しく」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




朝のテーブルには
満開のハイビスカス
ノンアルコールですが
ハイビスカスワインと
モーニングキャンドル
見渡す景色は緑の森のと
点々とリゾートマンション
さあ、残り少ない夏時間を
楽しみませんか?自宅リゾートで





 







        

 第3話 「ハイビスカスは潔く美しく」





 
“ノンアルコールのハイビスカスワインって?”私はメニューの下から3

番目あたりに表示されている飲み物に興味を惹かれた。


            


 ハイビスカスってどんな味がするのか、そもそも、食用のハイビスカスがあ

ることさえ知らなかった私は面白そうだと思った。それに、お酒に弱い私はモ

ーニングシャンペンのような優雅な朝食とは無縁だったため、ぜひ朝食に味わ

って帰りたいと思った。


            


 「あの、ノンアルコールのハイビスカスワイン、いただけますか?それと竹

林の洋定食で」「あっ、はい。かしこまりました」注文を取りに来た60代く

らいに見える体格のいいボーイさんはちょっとびっくりしたような、しかし、

いたってほがらかな表情で反応した。


             


 「えっ、何か、変な注文ですか?」私はそのリアクションに聞き返さざるを

得なかった。「いいえ、いいえ。とんでもございません。ノンアルコールのハ

イビスカスワインは少し酸味のあるさわやかな味わいで洋朝食にぴったりで

す。すぐにお持ちいたしましょう」ボーイさんは地元の出身らしい、穏やかで

屈託のない笑顔で答えると立ち去った。


             


 隠れ家リゾートと宣伝していたこの温泉宿は自宅から車で1時間程度。今年

できたばかりの設備はすべて真新しく、フロントのスタッフも初々しい雰囲気

を残していた。いわば田舎の村にできたこじゃれた温泉宿ではあるが、隠れ家

リゾートと銘打てば、見慣れないナンバーの車が続々と集まってくるものだと

私はまず駐車場で驚いた。そこに私は昨日の午後やって来たばかりだったが、

残念ながら、この朝食の後には帰らなければならなかった。


             


 昨日は半屋外のフロントでチエックインを済ませると、カートに乗せられて

少し小高い丘のような急斜面を上って行った。途中、カートの中に雑草が入り

込んでくるくらいの雑木林のような場所も通過しながら、ほどなく一軒家のよ

うなバンガローに到着した。


             


 部屋は白いベッドリネンがぴっちりとセットされたロウタイプの白いベッド

と籐の椅子にデスク、竹林を見渡すインナーバルコニーには籐の丸いテーブル

と、椅子が2脚、半屋外のバスタブとシャワーブースがあり、その先は30㎡

程のウッドデッキにつながっていた。そしてこの宿の最大の売りである温泉の

出る風呂が竹林に囲まれたヒノキのデッキの真ん中に掘られていた。それ以

外、インテリアは取り立てて個性的なものはなかったが、たった1泊のみの小

休止にはこの上なくいい感じのエスケープになりそうだった。



            


 “竹林に囲まれながらひとり静かに温泉に浸かる。すると間もなく竹の間か

ら月が顔を出す。滑らかな湯に半身をゆだねながら、虫の音をBGMに哲学書

を読む”。ずっと思い描いて来たたったこれだけのことを実行するために、私

はこの1年も懸命に働いてきた。巨大な倉庫で荷分け作業に従事する私は、夏

場、エアコンも効かない場所で大汗をかかなくてはならないから、この季節が

もっとも辛く、最も憂鬱な日々なのだ。だから、2日間の夏休みのくらい、ひ

とり旅の贅沢は許されるだろうと、今年もなんとか家族を説得して、真新しい

隠れ家リゾートにやって来た。


 予定通り、ぬるめの湯に浸かると、竹林の間からは満月が顔を出した。する

と濡れたヒノキの床は月明かりに照らされて妖艶な輝きを見せ始めた。


             


しかし、間もなく蚊や虫も私の顔のあたりに舞い始めた。アウトドアでは蚊取

り線香もあまり効果がないようだ。私は早々に諦めて、内風呂に入り、そこか

ら竹林の間に見え隠れする月をなんとか眺めた。リゾートとはなかなかイメー

ジ通りにはいかないものだ。そして、部屋食のさほど感動はしない夕食を済ま

せると、瞼はいきなり重たくなり、持参した本の2、3ページを読んだだけ

で、白いベッドにダイビングするように横になった。


              


 翌日、私はそのままの恰好で朝を迎えた。そして、朝風呂を堪能する暇もな

く、シャワーだけ浴びて、着替えを済ませ、最後のお楽しみの朝食レストラン

に向かった。そのレストランはメイン棟からさらに徒歩で2,3分程下った見

晴らしのいい場所にあるため、スタッフがカートで部屋に出迎えに来てくれ

る。私はさっそく、玄関に出て迎えを待っていたが、ふと見ると、玄関脇に自

然の枝を加工して作ったような杖が置いてあることに気づいた。握って見ると

しっくり手になじみ、そしてしっかりした重さもある。持ち手部分にはハイビ

スカスの絵柄が彫り出されていた。私は部屋に戻ってカートをキャンセルする

と、その杖を持って意気揚々と竹林の舗装された道を鼻歌を歌いながら下り始

めた。


             


 山の朝の空気は心地く、空気清浄機の空気より遥かに清浄な空気を肺一杯に

吸い込むと、たった1泊の旅でも心地よい幸福感で満たされた。ああ、無理し

てでもやって来てよかったと心から思った。


 そんな朝の朝食のテーブルに置かれたノンアルコールのハイビスカスワイン

は、甘酸っぱい香りでさらに私の心を満たした。コンビニの炭酸飲料水とは大

差ないと言えば言えるかもしれないが、テーブルに置かれたハイビスカスの大

きな花があまりに美しく、清々しい景色も手伝ってノンアルコールのハイビス

カスワインに私は酔いしれた。それに朝食は予想以上においしかったし、こと

に新鮮な野菜や煮物、そしてキノコたっぷりのオムレツとかまどで焼いたパン

は絶品だった。


             


 “リゾートは朝で挽回する”。私は持論をぶった。それはファーストインプレ

ッションで、スタッフにも部屋にがっかりさせられたとしても、夕食にもベッ

ドの寝心地に満足が行かなくても、朝食という最後の砦で挽回できる大きなチ

ャンスがあるからだ。


             


 「ご滞在はいかがでしたでしょうか?」老齢のボーイさんは顔のほぼ全部を

しわで満たしながら私に笑顔を向けた。「ええ、大満足です。ハイビスカスワ

インも、お料理も、ベッドもお風呂も最高でした」私は実感の2倍程に加算し

た星をつけて答えた。「それは、それは。ありがとうございます。また、ぜ

ひ、お越しくださいませ」と言って深々と頭を下げると後ろを向いたが、すぐ

に振り返って、「ハイビスカスワインをご注文される女性の方はみなさん、な

ぜかとてもお美しい方ばかりで、それで先ほどはちょっと驚いたのです。やは

り美に関心がおありなのでしょうね」と付け加えると、ボーイさんはまた頭を

下げてから立ち去った。私は赤面しながらも、同時にほくそ笑んだ。そしてフ

ロントでチェックアウトを済ませると、なんと私はそこでハイビスカスワイン

のプレゼントをもらった。気をよくした私は母へのお土産にとハイビスカスの

杖を1本買った。


             


 翌日、いつも通り仕事についた私は、あるリゾートから、ハイビスカスワイ

ンの注文が入っていたことを知った。それがその隠れ家リゾートからだった。

今までこの倉庫からハイビスカスワインを出荷しているなんて知りもしなかっ

たし、そこに行かなければ関心さえ持たなかったことだから、どうでもいい

ことだ。それより何より、3人の子供と夫持ちの自分が“美しい人”と呼ばれた

のだから、終わり良ければ総て良しとしよう。美しいままで終わるハイビスカ

スのように、潔くね





   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 ハイビスカスは1日しか持ちませんが、派手に咲くわりに
細長くしぼんで終わる形が切なく、しかし好きです。
ガーデニングで育てているのですが、
朝、ちらっと見て出掛けると、夜帰ってきたらもうしぼんでいます。
楽しい時間のように儚いものですが、だからいいのかもしれません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年8月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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