MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載724回
      本日のオードブル

ある夏の日々

第5話

「夢のカードゲーム」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



山の中の別荘です。
洗面台のある白い格子窓の向こうは
広い芝生の庭が広がっています。
そんな庭を眺めながら朝起きたら
顔を洗い、お化粧をする。
両脇の二つのベッドに
はよじ登れるように
台があります。
その間の床に
カードを
たくさん
広げて
一体


遊びなのでしょうか?



 







        

 第5話 「夢のカードゲーム」




  小学3年の時、私には同じクラスに咲という友人がいた。正しくは、咲に

は私しか友人がいなかった。


            


 彼女に私しか友人がいなかった理由は、一言でいえば魔法使いの弟子とでも

いうような人間の感覚とはちょっと違うつかみどころのない性格ゆえだったと

思う。


            


 咲の話は常に話題があちらこちらへと飛び回った。その様子はモンシロチョ

ウが花から花へと飛び回るように思えたから、私は咲のことをひそかにシロち

ゃんと呼んでいたが、他の子供たちはみな、魔法使いの弟子のようなモンシロ

チョウのような咲を単にうそつきと称して嫌っていた。


            


 事実、彼女は荒唐無稽なことをどんどんしゃべった。将来は有名作家になる

とか、家には有名な俳優さんが時々遊びにくるとか、田舎にプール付きのお城

のようなお金持ちの叔父さんの別荘があって、夏はオーケストラを呼んでコン

サートを開くだのそんな映画の中に出てくるような話を次から次へとペラペラ

としゃべった。


            


 現実の咲には年の離れた兄が2人いて、すでに家を出て、咲は母親とふたり

で古いアパートに住んでいた。もっとも外からは咲の家の経済状況はわからな

かったが、咲の雰囲気からは裕福な叔父さんとは結びつかなかったのだろう。


            


 そんな咲は相変わらず、毎日、ファンタジーのような話を私にまくしたて

た。他にはそんな話をまともに聞く友達がいなかったため、私は常に先の話し

相手にならざるを得なかった。


            


 「今年の夏休みも、叔父さんの別荘に行くのよ。そこはね、山の上の方なん

だけど、周りが果樹園だから果物も食べ放題なのよ!でね、ひろ~い芝生の庭

があって、そこに白いテーブルと椅子が置いてあって、そこで週末はパーティ

をするのよ。午後のパーティの時はアフタヌーンティパーティ。パイを焼いて

桃とか梨とかを乗せて、その上に生クリームを、きゅっきゅっと絞るのよ~、

美味しそうでしょ?ほんと、すっごくおいしんだから!」咲は両手で絞り袋か

ら生クリームを今にも絞り出しているような手つきで、「きゅっ、きゅっと」

と言った。私はその様子を見て、きっとテレビの料理番組で覚えたのだろうと

思ったが、しかし、桃と梨のパイを想像するとよだれが出てくるのだった。


            


 「へ~、いいな~」私はどうせ嘘だとわかっていいたから、それ以上突っ込

むことも、質問することもしなかったが、咲はどんどん話を展開した。


            


 「叔父さんは作家だから、本がたくさんあるのよ。でも、子供は仕事の邪魔

だからって、渡り廊下から先の叔父さんの仕事部屋には入らないようにって言

われているの。中庭を突っ切った渡り廊下の突き当りの山小屋みたいな家全部

が叔父さんの仕事部屋になっているの。でも、どんなところか知りたくて、こ

っそり一度入ったことがあるのよ。そしたら、丸太小屋みたいな家は夏でもひ

んやりしてて、天井まで本が積み上げてあったの。本棚の上の方は届かないか

らはしごがあったのよ。でも、お化けでも出そうな感じで暗くて、それで急い

で出て来たからそれ以上はわからなかったけどね。それでね、私のお部屋は、

外国みたいな白い格子窓があって、窓を開けると芝生の庭が目の前に見えるの

よ。そしてその窓のところに洗面台があるのよ。白いかわいいボウルの洗面台

で、ブルーのタイルが貼ってあるの。だから朝起きたらそこで顔を洗って、

パーティの時はそこでお化粧もできるのよ。そしてね、ベッドが高~くてね、

まだよじ登らなくちゃならないけど、ベッドはふかふかで、そしてふたつあ

るから、安心して。それでね、ベッドで夜、本を読むときは緑色のスタンドを

伸ばせるのよ。こうしてキュッとね」咲はアーム付きのスタンドを自分の方に

伸ばす仕草をして見せた。それでね、部屋の真ん中は広くなってるから、そこ

でゲームもできるのよ」


            


 そんな話は作り話とは知りながらも咲の夢の別荘をいつしか一緒に想像の中

で組み立てていた私は、「それじゃ、勉強はどこでするの?」と聞いてみた。

咲はちょっとびっくりしたような顔をしたが、すぐに、「別荘じゃ勉強机はい

ならないのよ。広いからどこでもできるよ」と言った。「そっか!」私は素直

に応じた。


            


 「だからね、いつも部屋でカードゲームするのよ」「カードゲーム?って、

トランプってこと?」私が聞くと、咲はちょっといたずらっぽくカラカラと笑

ってから、「ううん」と横に首を振った。「色画用紙を切ったカードをた~く

さん作って、その裏に自分の好きなことをいろいろ書くの。何でもいいのよ、

テディベア100個とか、壁がピンク色のお部屋とか、お洋服がたくさん掛け

られる衣裳ケースとか、水色の壁紙に水色の水玉のカーテンとか、レースのか

かったお化粧部屋とか、緑色のストライプ柄のカーテンが窓にかかっているお

風呂とか、白い勉強机に白いベッドにフリルのクッションが10個あるとか、

そんな風に好きな部屋とかものをとにかくたくさん書くのよ。そして、じゃん

けんして勝った人がそのカードを1枚ずつめくって、自分の好きなものなら取

ってゆくの。でも、好きじゃなければ戻していいのよ。それで集まったら自分

の夢の家ができるってこと。だから、それをかき集めて絵にするの。夏休みは

そうして庭で絵を描くのよ」


            

 「へえ~」私は咲の不思議な遊びにあっけにとられた。と同時に私にはそれ

がそんなに心躍る遊びにも思えなかった。裕福な叔父さんの別荘で、プールが

あって、芝生の庭があって、果樹園もあるなら、まずは家の中も森も探検した

いと思った。広大な芝生の庭でゴロゴロ転がって走り回りたいし、プールで一

日中ずっと泳ぎたいなとそんなことを思ったからだ。


            


 それからほどなく夏休みが始まると、咲はその叔父さんの別荘に行くからも

う遊べないと言った。私も連れて行きたかったけど、今回は従妹と一緒だか

ら、私のベッドがないのよと言った。私はさも残念そうに、「そうなの…」と

言うと、私は、咲の背中に向かって、「うそつき!」と小声で言って1学期の

最後の日、咲と別れた。


            


 それ以来、私は新学期になっても咲と話をしなかった。咲は私という唯一の

友人を失ったにもかかわらず、だれかれともなく、また夢のような話を一方的

にまくしたてていた。きっと咲は夏休みの間、古ぼけたアパートの部屋でひと

りカード遊びをしながら夢の部屋で夏中を過ごしていたのだろう。私はそう思

いながら、無視を続けた。学年が上がると咲とは別のクラスになり、付き合い

もなくなってしまった。


            


 後でわかったことは、咲には確かに田舎に住む叔父さんが実在するというこ

とだった。ただ、別荘というより果樹園を営む叔父さんの家そのもので、彼女

の母親は夏休みの間、咲をそこに預けて、果樹園の仕事や家事を手伝わせてい

たようだった。そういう私も夏休みが始まると同時に自分の子供たちを田舎の

祖父母の家に送り出すが、この夏は当時小学3年の咲に教えられた夢のカード

ゲームを娘二人にも教えることにした。さて、どんな夢の家が出来上がってく

るのかと私は楽しみに思いながら、咲は今どうしているだろうかと思った。


            


 架空の領域をとうに超え、いつも訪れることのできる唯一の幸せな非難場所

だった咲の裕福な叔父さんの別荘。もしかしたら、今、咲は現実のものにして

いるのかもしれない。きっとそうだろう。いや、そうであって欲しい




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 
 架空のストーリーですが、
 部屋のインテリアも結局は
 好きなものを集めたもの。
 実現力は想像力から。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年8月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.