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リサコラム
連載730回
      本日のオードブル

桃源郷からの手紙

第2話

「慈悲」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




4mの
高い天井から
ポーセレングリーンの
カーテンが下がっています。
足も埋もれる絨毯の上で
時間が止まったように
佇む大きなベッド
そして
包み込むように
垂れ下がる天蓋カーテン
おなじポーセレングリーンの
アームチエアがふたつ。
ここはいったいどこ?
自分を探す私は
いったい
どこに
いる
の?



 







        

 第2話「慈悲」




 「私は長いこと、じっと、神様、あなた様よりのお告げのようなご指示を

待っておりました。気がついたら身に覚えのない廊下のような場所に立ってい

た私はどうしたらいいのかまるでわからなくなってしまったのですから。中途

半端ではありますが、懺悔もいたしました。これまでの私の心ない行いとその

思いを全部悔い改めました。


            


 しかし、2時間待っても3時間待っても、何もご返信もいただけません。

神様、私は結構我慢強い方だと思います。21世紀にあっては、迅速であるこ

とがすべてのように言われて来た弊害かもしれませんが、そうでなければ、

人間はロボットに取って代わられると言われて来たのですから致し方ありませ

ん。ことに最近は、メッセージの返事を3時間も返事を待つことなど全くなか

ったのです。当然、何時間も人を待つことなど皆無でした。リアルタイムに連

絡が取れる環境にいるのですから、約束の時間もあってないようなもので、

とにかく、リアルタイムで何かを行うことが当たり前のように過ごしてきまし

た。だから、誰ともつながっていない状況で3時間を過ごすことがどんなに信

じられないことなのか、身をもって知りました。


            


 白状いたします。もう誰に助けを求めることもできなくなった私は、

『この世に神なんて、存在しない!』と私は吐き捨てるように言って一つの

ドアを開けてしまったのです。もうやぶれかぶれでした。


            


 そこで私は気絶するほど驚いたのです。しかし、それはマイナスの驚きでは

なかったことが幸いでした。ロシアンルーレットだとすれば、私はぎりぎりの

ところで救われたのだと思います。その予期せぬ展開に私の顎はがくがくして

言葉のようなものは出て来ず、手足はぶるぶる震え、座り込むこともできず、

生きた彫像のように固まってしまったのです。


           


 17世紀か、18世紀かよくわかりませんが、ルイ、何とかの時代にタイム

スリップしたとしか思えないの感じでした。ゴージャスな、ゴージャス過ぎる

ような部屋、寝室でした。


            


 その時に私が取った行動の滑稽さは驚くべきです。私は靴をぬぎ、四つん這

いになって、ごそごそと窓とは反対の壁際の隅っこに身をひそめるように移動

しました。そして部屋全体を見渡しました。おそらく天井高は4mほどあるで

しょう。正面の大きな窓にはうぐいす色というのか、若草色というのか、きっ

ともっとセンスのある色の名称があるはずでしょうけれど、とにかく、一般的な

住宅には見かけないような美しい淡いグリーン色の波打つ飾りカーテンと共に

とても長いカーテンが静かに窓辺を覆っています。その向こうには淡いグレー

のレースカーテンがかかっていて、外の様子は判別できませんでした。


            


 部屋の真ん中で最も目立っているのはおよそ巾2mくらいありそうな、

キングサイズ程のベッドです。白いベッドリネンやシーツ類で覆われたベッド

の上には一筋のしわもないような真っ白いピロケースと、ゴブラン織りという

のか、緑色のクッションが4個、美しいバランスを取って並んでいます。


            


 今まで私はクッションなどに注意を払ったことがなかったのですが、その立

ち姿の優美さは目を見張るものがありました。私の部屋のソファに転がってい

るクッションとは、大いなる違いでした。人間にも品のある人と品のない人が

いるとしたら、まさにそのような違いです。


            


 さらにベッドを両脇から包み込むようにクリーム色のシルクのようなカーテ

ンが落ちかかり、光り輝くしなやかな肢体をさらしているように見えました。


            


 私は部屋の隅っこから、ベッドのほうにごそごそと這いつくばって近づき

ました。するとなんともいい香りがベッドの方から漂っています。私は後ろ

手に組んで犬のようにくんくんと嗅ぎまわりました。バラの香り?

スズラン?いや、ジャスミンか?


            


 その香りは繊細でなめらかなシーツの上と言わず、カーテンからも漂ってき

ていることに気づきました。見上げれば、ベッドの両脇のカーテンが広がった

真ん中の三角の部分にはまた別のシルクのカーテンがしとやかに下がっていた

のです。そして、その中心には絵が掛けられていました。



            


 私はここではっと気が付きました。どんなに絵に無関心な私のような人間

でも、その絵が現代絵画であることは一目瞭然でした。それはピカソかモンド

リアンのような、抽象画でこのような比喩は画家や芸術に親しい人には笑われ

るいい方でしょう、しかし、その絵はどう見ても20世紀以降の現代アートな

のです。


            


 私はひとつ自分の足場を確かめることができました。まだ別の世界に旅立っ

たのではなく、ここは天国でも地獄でももちろんなく、中世でも18世紀でも

17世紀でもなく、21世紀に私はまだ生きているのだろうということでし

た。そうであれば、また元の私の部屋に戻れる可能性はあるということです。


            


 よかった、神様。パスポートがなくても、きっとこの世には親切な方がい

て、私を戻してくれるはずです。


            


 私は急いで、ベッドの脇の壁にある扉に手をかけました。きっとここから、

戻れるはずだと。私は思いきって右の窓側の扉に手をかけました。しかし、

そこはクローゼットだったのです。白いシーツが棚に整然と並んでいました。

私はため息をつき、そして、もう一つの扉に手をかけました。あとは、ここし

かないはずです。どくどくと激しく打ち鳴らす心臓の音を聞きながら、私は思

いきってもう一つの扉に手をかけました。しかし、そこも、クッションやら、

たたんだカーテンのようなものがまるで衣裳部屋のように並ぶ収納場所だった

のです。ああ、もうだめだ、万事休すと私は思いました。しかし、21世紀な

ら魔女裁判で私は魔女にされて、火あぶりになることはないはずだと思うと、

その途端、私は大胆な行動を取ったのです。


            


 つまり、私はその馥郁と香りを放つ場所へ、そう、ベッドの上に倒れ込んで

しまったのです。神様、どうか、この迷える子羊にご慈悲を!




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
  
自分を見失った気がするおかしみのあるこの私はどこに?
まだ始まったばかりですが、これからも連載は続きます。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年10月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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