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リサコラム
連載732回
      本日のオードブル

桃源郷からの手紙

第4話

「それから」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ブルー
グリーンの
壁にゴールドの鏡
ブルー&グレーの
ツートンのカウチ
丸いテーブルには
白いテーブルクロス
ブルーグラスと花瓶
ラベンダー色の椅子2つ
ミックスカラーの絨毯の
踏み心地が心地よさそう。
さてこれから何が始まるのかな?



 







        

 第4話 「それから」



 「2DKの私のマンションがすっぽり入って余りある広々としたサロンの中で

私は唯一の人間でした。


            


 その静寂の空間でシルクのローブを羽織り、長椅子にじっと腰かけた私の頭

にはさまざまな想像が浮かんでは消え、浮かんでは消えました。そして、たど

り着いた境地が、手垢のつきすぎた「静けさや岩にしみいる…」という…、

芭蕉さん、ごめんなさい。でもやっとその感覚がわかった思いだったのです。

ただ、静けさがしみいるのは岩ではなく、ふかふかとしたクッションでした。

あらゆる音がクッションに吸収されつくされているような静けさとは、きっと

こんなことを言うのではないでしょうか。


            


 これまで画像や写真でしか見たこともないようなおそらくとても高価な絨毯

やカーテン、家具に囲まれて私は静かに息をしました。わずか数時間前まで私

は毒を吐く毒虫だったのですから、私の吐息でこの清浄でエレガントな空気を

汚してはならないと感じていたのです。そんな静寂の中である、かさかさとい

う微かな音に私はビクッとしました。しかし、それは紛れもなく、私の羽織っ

たローブの衣擦れの音だったのです。


            


 もしもこの静寂を破るとしたら、ここに執事がやって来て、私にお茶をすす

め、この邸宅のオーナーが私を歓待することでしょう。しかし、いくら待って

も誰も現れる気配もありませんでした。でも、それでもいいと思いました。現

実に私は自分の衣擦れの音にさえ驚くような静寂な空間に紛れ込み、優雅な孤

独の中にいるのですから。


            


 優雅な孤独、少し前の私にはこのような誰にも邪魔されることのない時間と

空間は想像もつかないほど得難いことでした。常にあちらこちらをはい回る線

に囲まれた雑然とした部屋で常時ネットにつながれ、24時間365日誰かに

私の行動を監視されているような感覚で生活していたのですから。だれが何か

つぶやいたら、即座に反応する、また反応が返ってくる、このらせん状の鎖か

ら、今、私はざっくりと断ち切られ、ただ、微かな衣擦れの音だけがする場所

に存在する。これはいったい優雅な孤独以外の何ものでしょうか?


           


 私は真の貴婦人にでもなったような気分ですうと立ち上がり、静々と部屋の

中を裸足で歩き始めました。足の裏に伝わるやわらかな絨毯の響き。そんなも

のに音など存在しないと思っていました。しかし、その絨毯はごくわずかに、

さく、さくという音を立てるのです。


           


 それから私はまた冒険の旅に出ました。まだ開けたことのない観音開きのド

アの前に立ち、ドアに耳を近づけたのです。


           


 やはり、何の音もしません。しかし、この衣擦れの音をまとった貴婦人然と

した人間であれば、どんなことが起きてももう怯むことはないように感じ、両

手でドアを向こうに開きました。そして、私はまたもや感嘆のため息をつきま

した。そこはサロンと変わらない雰囲気の、しかし、どこか懐かしい感じもす

るゴージャスでコージーな部屋でした。


           


 私の貧弱な表現力で言い表すなら、そこはハイティか優雅なアペロをいた

だくティルームでしょうか。しわのない白いテーブルクロスのかかった丸いテ

ーブルにラベンダー色にピーコックグリーンの太い縁取りのある椅子が2脚並

び、沈んだ青紫色の壁に曲線で描かれたゴールドの鏡。その左右には人物画な

どが掛けられていました。


           


 その手前には優美な弧を描くグレーとブルーのツートンの長椅子。当然のよ

うにその上には鮮やかに際立つクッションが4つ。計算された配置でこちらを

向いているようでした。


           


 そして、白いテーブルの上には色鮮やかな花が活けられていました。私は花

瓶に顔を近づけてその水の匂いを嗅ぎました。とても喉が渇いていたのです。

そして手ですくってその花瓶の水を飲んでしまいました。



 神様、こんなシーンを、夏目漱石の小説の中で読んだことがあったのです。

邸宅に住む有閑紳士の元に友人の奥さんがひとり訪れて、暑さのあまり、ユリ

の花が活けてあった花器の水を飲むのです。私はそれを真似てみたいと、その

時、とっさに思ったのです。


           


 その味はさわやかなグレープフルーツのように、甘く、いや、全くの水でし

た。世界中が猜疑心に彩られた世界では、こんなことはもう容易にできはしな

いでしょう。しかし、私は閉ざされた中で奔放な自由を感じていたのです。


           


 神様、お尋ねいたします。もしかして、ここは天国の別バージョンなのでし

ょうか?天国にはいろいろなバージョンがあると聞いたことはないのですが、

しかし、この世にまだこのような場所があり、そしてこの空間を束の間でも私

にあてがわれるのであれば、前言ならいくらでも撤回し、すべてをなげうち、

神様、あなたを心よりお慕い申し上げます。


 だから神様、どうか、どうか、今しばらく、私をあの散らかった私の部屋

に戻さないでいただけませんでしょうか
?」




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 花器の水をすくって飲むシーンば
 夏目漱石の『それから』にありました。
 映画になった時、あらためて感動しました。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年10月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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