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リサコラム
連載734回
      本日のオードブル

桃源郷からの手紙

第6話

「行人」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




深いブルーグレーの
絨毯の上に、赤紫色の絨毯。
濃紺の額縁もついているようです。
そして、グレーに白い縁取りのある
曲線のベッドがあり、白、ブルーグレーの
リネンやクッション類でベッドメイキング
され
ています。
きらめいている
シャンデリアの下で
優雅に眠るゲストは誰なの、
佇む私はこれからどうするの、
どこを目指して行くの?


 







        

 第6話 「行人」



 「私は思いきって、にじり口の方のドアを開けました。すると、廊下に

出ました。廊下の突き当りまたドアがあり、私は装飾が施されたグレーのド

アを開けました。


            


 残念ながら私の空腹を満たしてくれるバルコニーのあるダイニング

ではありませんでした。しかし、ゲストルームのような素敵な寝室だった

のです。廊下からずっと部屋の中までグレーの固い踏み心地のカーペット

が敷き詰めてあり、その上にはネイビーの額縁のついた紫とピンクが混じ

ったような美しい絨毯が敷かれていました。わりに小さめのベッドは美し

くベッドメイキングされ、シャンデリアはきらきらと眩いばかりに優雅な

光を放ち、もう私は自分の中のうっとりの許容量を使いつくしてしまい、

優雅さというエッセンシャルオイルの中に埋もれてしまったようです。


            


 私だって、もちろん、素敵なお部屋で過ごしたいです。でも、どうにもこ

うにも、忙しくて、そんな余裕がまったくなかったのです。テレワークにな

ってからというもの、よく、時間はできたんじゃないの?と言われます。通

勤時間は確かに無くなりましたが、その代わり、1日中、見えない線につな

がれている生活になりました。


            


 ちゃんと仕事をしているというのを見せるために、レスポンスの速さも必

要ですから、仕事は変わりません。さらに海外からのメールであっても、つ

ながっているわけですから、時差があっても即座に返信するしかありません。



            


 夜は通勤していた頃より遅くまで仕事をしていますし、その反面、朝は

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時まで寝ていることも多々あります。これではいけないと思いながらも

私のようにリモートワークになった人たちは、みんな、慣れないこともあ

り、公私の区別がうまくつけられないようになっているはずだし、仕方な

いとも思います。しかし、SNSも多用するようになり、人間関係はますま

す煩雑になって、かえって精神的には追い詰められたように感じています。


            


 しかし、私の理想は仕事と私生活に折り合いをつけながら、狭くても素敵

なインテリアの中で暮らすことなのです。学生時代、私はヨーロッパのいろ

いろな街を訪れて遊学していた時期があります。そこで思ったことは、貧富

の差はあっても、それぞれに暮らしを楽しみながら、みんなよく働くという

ことでした。それまで日本人だけが勤勉でヨーロッパの人たちはイタリア人

のように昼休みをたくさん取ってあまり働かないのではないかとか、そんな

幻想を抱いていたのですが、全くそんなことはありませんでした。まず、概

して朝がとても早いと思います。仕事に対する考え方は日本よりかなりデジ

タルだと思います。しかし、人間的には相手に対して気配りもたくさんする

ように感じました。まあ、そうそうでなければ、美しいインテリアも、優れ

たデザインもセンスも存在するわけはないのですけど。しかし、それまでは

日本人だけがよく気配りをする国民だと思い込んでいましたから、そんな自

負を持っていたことに恥ずかしさを感じました。


            


 私がパリでホームステイした先のお宅はパリの高級住宅街16区にあるエ

レガントな古いアパルトマンでした。しかし、キッチンなどは狭いし、コー

ヒーメーカーなんて使わず、ジューサーはなく、手でフルーツを絞る機械し

かなったのです。しかし、そんな中でもとてもおいしい料理が毎晩食卓には

並んでいたのです。さらに、リビングは高い天井にエレガントなシャンデリ

アがきらめいていました。それも、その家のご主人や子供たちが脚立に上っ

てちゃんと決まった日に掃除をするのです。しかし、私の今の部屋にもある

ような大ぶりなソファなどはありませんでした。1人掛けのアームチエアが

数脚と2人掛けの小ぶりなカウチがひとつあるきりでした。ダイニングにテ

レビはなく、だから、食事をしながらなどはもちろんのこと、ソファでごろ

っと横になって大型スクリーンでテレビを見る習慣もありませんでした。

私はまず、その暮らし方にびっくりしたものです。


            


 今の私はと言えば、朝は面倒なので、椅子に掛けず、テレビのニュースを

見ながらソファでパンをかじり、コーヒーを飲み、お昼はダイニングテーブ

ルのパソコンの脇で冷凍食品でチンしたもので済ませ、晩ご飯は前に申し上

げました通り、Uber Eatsのデリバリーです。そうです。ホームステイ先で

覚えたきちんとした中でも優雅な暮らし方を私はすっかり忘れてしまってい

ました。


            


 家族みんなが家事を分担しながら、慌ただしくも落ち着いた優雅な暮らし

を営んでいたあのパリの邸宅で過ごした1日も、今も、同じ1日なのに、

なぜ、家事もいい加減な今の生活の方が短く感じるのでしょうか?


            


 この邸宅のすばらしく広い主寝室、ゴージャスなサロン、コージーで素敵

なティルーム、そしてまた今、ゲストルームのような部屋に迷い込んでから

数時間、あの懐かしいパリの家族の優雅で節度ある豊かな暮らしぶりをひと

つひとつ思い出し、反芻しているのです。


            


 今、私のだらしなさを痛感しています。さっきは、私のあの生活には戻り

たくないとの思いに駆られて、あちら側に戻さないで欲しいと神様に懇願し

ました。もちろん、一方で、その気持ちもあります。でも、でも、今一度、

このだらしない私にチャンスをいただけるのなら、あの部屋に戻れる順路を

教えていだけませんでしょうか?まず優雅さの欠片もない私のあの部屋をす

べて片付け、掃除して、たまった洗濯物を残らず洗濯して、シーツにはアイ

ロンをかけ、ベッドメイクをして、そして毎日、2時間早起きし、少しずつ

でも美しい部屋に作り替えていきたいのです。そして、自分に自信をつけた

いのです!


           


 その上で、またこの邸宅に、私を戻していただけませんでしょうか?

でないと、私はますます惨めな思いに駆られてしまいます。度々のわがまま

勝手なお願いで恐縮ですが、神様、どうか、どうか、この迷える旅人の願い

をお聞き入れくださいませんでしょうか?」




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 迷い、悩み、そして過去を反芻し、さて、行く人はどうなるのでしょうか?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年10月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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