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リサコラム
連載735回
      本日のオードブル

桃源郷からの手紙

第7話

「置手紙」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




パリの街を
あてどもなく歩く、女性。
ここはどこ?どこを歩いても
どこを見ても絵になる風景も
パンデミックの今は
しばしお預け
いつかまた
世界が
正常に
変った後に
訪れることができるでしょう。



 







        

 第7話 「置手紙」



 「それはラフカディオ・ハーンのある怖い物語だったと記憶しています

が、その中に出てくる不憫な女性が、時折、私の頭の片隅にふっと現れてい

たのです。


            


 それは江戸の末期か明治の始め頃の話だと思います。きちんと躾をされた

女性が、街で数年、花嫁修業をし、許嫁の家に嫁いだあと、小さな息子を残

して若くして亡くなります。その女性のお通夜の晩、事件が起こります。彼

女の息子が「お母ちゃんが来ている」と下にいる大人に言いに来るのです。

それから時々、女性の幽霊は現れるようになり、生前使っていたたんすの前

に立って悲しそうな顔をしているというのです。怖がった家人はお寺の和尚

さんに相談します。和尚さんは日が落ちてから、一人で経を唱えながら供養を

始めます。すると亡くなったはず女性が現れ、「たんすの引き出しの下紙の

裏に貼り付けられた手紙を取りに来ました」というのです。それは、夫では

ない男性と交わした手紙だったらしく、和尚さんがその手紙を見つけてたん

すごと燃やした後、その女性の幽霊は現れなくなったというのです。


            


 私がそんなことを思い出し、ここで神様にお話しようと思ったのも、私

はまさに、そんな生きた亡霊のように、夢の中で度々、あの優雅な邸宅に訪

れていたからです。私はそのお屋敷に強い憧れと未練を持っていたのだろう

と思います。


           


 しかし、神様、もうご心配には及びません。なぜなら、私は無事に自分の

生活に戻り、そして180度変わりましたから。もう夢と現実の間をウロウ

ロしながら白昼夢のように神様を困らせることもありません。


            


 私が夢の中で訪れていたそのお屋敷は学生時代にパリに遊学した際、ホス

トファミリーに連れられて訪れたご友人のお宅でした。まさに王様か貴族の

お城のように豪華な邸宅だったのです。そのお屋敷に一歩足を踏み入れた瞬

間、私はそのすべてに魅了され、夢心地になってしまいました。


            


 ローズガーデンを見渡す広々とした優雅なサロン、天蓋カーテンに囲まれ

て眠るゴージャスな主寝室、コージーな、と言っても他のお部屋があまりに

優雅なのでそう見えるだけですが、女王様の秘密のお部屋のようなかわいい

ティルーム、そしていくつもある美しいゲストルーム。どのお部屋にも優美

なシャンデリアがあり、美しくウエーブを描く飾りカーテンが下がっていま

した。さらに、サイズも色も素材も吟味され、その場所のその角度でもっと

も美しく見えるようにソファに配置されたクッションは絵画のようでした。

それらの作り出す空間芸術、インスタレーションというのでしょうか?そん

な全体にノックアウトされたのです。しかし、また私がこのお屋敷に呼ばれ

ることは絶対にありません。それだからなおさら、あのなめらかなシルクの

カーテンに、白く輝くベッドスプレッドにそっと手を触れてみたいと思った

のです。


            


 しかし現実の生活とのギャップに落胆しないための防衛反応でしょうか、

その強い憧憬も普段は全く意識に上ることはありません。しかし、もう1度

行きたい、あと数時間、あの邸宅に居たかったという、燃えるような思い

は、確実に私の気付かない世界にあって、この世に未練を残して亡くなった

人の魂のように、ずっと夢の中で浮遊し続けていました。


            


 この夢が繰り返し現れ始めたのはパンデミックで仕事がテレワークになっ

た後数か月経った時でした。私は、これは何かのお告げに違いないと思い、

ある決心をしたのです。それは、私にとっては人生の中で大きな転機になり

ました。


            


 単純なことです。あらゆる掃除用具を揃えて、丸3日かけて片付けと掃除

をしたのです。その後も2か月、休みの度に不要なものを処分し、とにかく

すべての持ち物を吟味して整理しました。最後まで躊躇していた大画面の

テレビと大きなソファはリサイクルに出し、代わりにサイドテーブルの上に

小さな卓上テレビを置きました。もうこれでソファにごろりと横になって何

時間もテレビを見る事は物理的にできなくなりました。また怠惰な着衣、

愛用のTシャツ、ジャージのようなラフな部屋着もすべて処分しました。

最後は一人掛けのアームチエアだけが私のリビングには残りました。これは

私にとって産業革命か、フランス革命か、IT革命ほどの大いなる大変革に

なりました。


            


 さらに、10数年洗ったことのなかったカーテンを洗濯に出し、その間、

ベルベットの白いカーテンを冬用のカーテンにして掛け替えました。


            


 夕食は野菜をたくさん使った料理も作るようになりましたし、テーブルセ

ッティングを整えた食事も習慣化し、友人さえも招くようになりました。テ

レビは食事の片付けを終えて、食後のお茶を飲みながら1時間だけ、録画し

た番組だけを見る事にしました。


            


 環境が変ると、人間は変わるものですね。リモート勤務の日も、早起きし

て掃除、洗濯などの家事を済ませ、毎日、プレスの効いたシャツを着て自分

なりのきちんとした身なりで1日をスタートさせる習慣がつきました。外に出

掛ける時はコートを着て、スカーフを首に巻くなど、今までやったこともな

いような淑女的なおしゃれをするようになったのです。


            


 夢にまで見たあの邸宅のインテリアには程遠い住まいですが、今はとても

満足しています。神様、私、どうでしょうか?今までさんざんしてきた懺悔

と改心と落胆と責任転嫁と後悔、そしてまた懺悔から始めるという負のスパ

イラルから逃れることができたと思います。


            


 そこで甚だ恐縮ではございますが、最後の私のお願いを聞いていただけま

せんでしょうか?恐れながら、私が神様にお送りいたしましたこの手紙を、

神様のお部屋のたんすの下紙の裏に貼っておいていただけたらというお願い

でございます。もしも万一、また私が元のだらけた生活に戻ろうとしている

時には、神様、私のところにこの手紙を持って脅しにやって来てはいただけ

ないかと思うのでございます




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 ここまで行くかという都合のいいお願い。しかし、結構やっているのかもしれません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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