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マダム・ワトソン　My Style

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	連載７３８回　　　　　　あるパリのホテルで第３話「シャネル・スイート」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

アイボリー
ベージュの
お部屋には
リビングが一つ
ベッドルーム二つ
ホワイトゴールドと
ブラックは
シャネル
スイートの
インテリア
空間です
しかし
なんと
ショッキングピンクが
美しく映えることでしょう！

　第３話　「シャネル・スイート」

　シャネル・スイートの管理を担当して約２年になります。２０１８年の

大改装の際にはそれまでの従業員はひとり残らず解雇されましたから、新し

いスタッフはみんなフレッシュな気持ちで自分たちの任務に当たっていると

思います。

　　　　　　　　　　　　

　まず、「ザ・リッツ・パリ」は純粋にはホテルではないと思います。

いや、ホテルに違いはないのですが、それ以上の非日常の場であり、ゲスト

ひとりひとり、スタッフひとりひとりが共同で作り上げる舞台のようなもの

ではないかと思うのです。

　　　　　　　　　　　　

　ひとたびスイートに予約を入れるとなれば、ひと財産を湯水のごとくに

浪費する余裕、あるいは覚悟がなくてはなりませんから、１泊３００万円

から５００万円のお部屋をリザーブなさるゲストは主に王家の方々、

大統領、そしてもちろん大富豪と言われるような方々になります。しかし、

時にはネットショッピングから名の知れない方がご予約なさることもあ

ります。

　　　　　　　　　　　　

　人気の高いココ・シャネル・スイートはご存じのとおり、リッツを３０年

以上我が家にし、彼女自らがインテリアを手がけ、そして終の棲家にした

シャネルの趣味を厳格に反映したものです。そのため、シャネル・スイート

はアールデコのデコラティブな曲線の壁装飾に対して、シャープな直線の

家具、直線の飾りカーテンなど、他のお部屋とは全く違う意匠なのです。

もちろん、１８世紀のライオンの置時計は健在ですが。

　　　　　　　　　　　　

　カラーリングはアイボリー、ベージュ、そしてブラックです。寝室でひと

きわ目を惹くのは漆の黒いつい立てです。私はこの黒いつい立を見るたび、

孤児院出身の身の上でよくも二つの大戦、戦後の混乱期を乗り越え、ナチス

の諜報員との疑いをかけられ亡命をしながらも男性社会の中でここまでの

地位とブランド作り上げられたものだと思うのです。そのしなやかな強さは

あとの時代の人々にとっても、憧れの女性像のひとつとして未だに君臨し続

けている理由のひとつだと思います。

　　　　　　　　　　　　

　シャネル・スイートではベッドリネンからカーテン、絨毯、タオル、バス

ソルトに至るまで調度品のあらゆる分子に彼女のスピリットが込められてい

ます。ですから、一歩部屋に足を踏み入れれば、誰もがココ・シャネル自身

になれるのです。それはこの部屋を掃除するハウスキーピングが日々、優雅

で気丈な女性へと変貌を遂げてゆくのを見ているだけでも伺い知ることが

できます。

　　　　　　　　　　　　

　他のプレステージスイート、例えば、プルースト・スイート、ショパン・

スイートとは違い、シャネル・スイートは成功し、高い地位にある女性に人

気のお部屋なのです。ですからこれまで、ゲストは当然のように、アイボリ

ーやベージュのシャネルスーツに身を包み、立ち振る舞いは優雅で美しく、

背筋がピンと伸びている、そんなシャネル愛好者の方々ばかりです。

　　　　　　　　　　　　

　しかし、ある日、ご常連ではない初めてのゲストがそのシャネル・スイー

トのレジデントとしてやってこられたのです。その方はショッキングピンク

のお召物でした。クリスマスの季節でしたが、シルクのような薄手の半袖の

ショッキングピンクのブラウスに同じ色合いの膨らんだオーガンジーのピン

クのスカートをお召しでした。白い長い手袋の腕にはピンクパープルの小ぶ

りなバッグ、お靴もショッキングピンクのフラットシューズ、そして夜会巻

に高々と結い上げられた髪の毛はまるでソフトクリームのようでした。ご案

内をしたマネージャーも私もまずはそのお姿に内心驚いたのです。後でひと

りのハウスキーピングがそっと私に耳打ちしました。「あのお召し物は

『ティファニーで朝食を』でオードリーが着ていたジバンシーのお洋服に

そっくりではありませんか？あのドレスを着て、枕投げをするおつもりでは

ありませんよね？」と。しかし、「お連れさまもなくて、おひとりでそんな

お遊びなんてやるものかしら？」と私は疑問を挟みました。

　　　　　　　　　　　　

　今は、ハイソはホテルとはいえ、どのようなスタイルでも許される世の中

です。ココ・シャネル・スイートのゲストだからと言って、シャネルスーツ

というドレスコードなど要求できるはずはありません。たとえ、王家のプリ

ンセスであろうとなかろうと大事なゲストには変わりないからです。ことに

最近は現代アートそのもののような派手ないでたちのお客様をお迎えするこ

とも普通になりました。しかし、今までの経験から、まさか、無機質ともい

えるようなシャネル・スイートにショッキングピンクのドレスのお客様をお

迎えするとは思ってもいなかったのです。まずはお部屋にそぐわないだろう

と思いました。

　　　　　　　　　　　　

　そのうち、そのお部屋からあるご注文がコンシエルジュデスクに入りまし

た。それは、ショッキングピンクのバラ２００本でした。お客様はその

２００本のバラを２０本ずつ花瓶に挿して、各お部屋のデスクや、テーブル

やバスルームの棚の上などに置くように言われたのです。２００本の赤っぽ

いピンクはこのクリスマスの前でしたから、かなり難しい問題でした。

しかし、２００本のバラは何とか、お部屋にご用意しました。みるみるピン

ク色がお部屋を埋め尽くし、シャネル・スイートは無機質な色合いから、

ピンクの園に変わりました。しかし、実を言うと、アイボリー、ベージュ、

ブラウン、黒というシックな無彩色の部屋にショッキングピンクは実に魅惑

的に見えたのです。

　　　　　　　　　　　　

　その上で、お客様はあらかじめ予約していた有名なカメラマンを呼んで衣

装の撮影をなさったようです。その方はなんと、当時、無名なデザイナーで

した。しかし、シャネル・スイートという最高の舞台を得て、自分の作品で

あるドレスにさらなる魅力を加えることに成功したそうです。

　　　　　　　　　　　　

　後で知った話では、その後、撮影された数着のドレスはウェディング

ドレス、カクテルドレスとして年間数千枚という単位で売れ続けているとの

こと。それは年間数十億円を超えるようなビジネスに成長したそうなので

す。それなら１泊３００万円の投資は素晴らしいコストパフォーマンスがあ

ったといえるでしょう。

　　　　　　　　　　　　

　「私は流行を作っているのではなく、スタイルと作っているの」といった

ココがその様子を天国から見ていたら、果たしてどんなコメントをするでし

ょう。でも、オードリーは「チャンスなんてめったにやってこないから、

やって来たらしかりつかむのよ」と言っているのですから、私もこれからは

柔らかな頭で素敵なゲストをこのハレの舞台にお迎えしようと思っている

のです。

　　　

　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

　　　＊リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.１
　
　リッツ・パリはお値段ともに、やはり別格。
　そんな場をお借りして勝手な物語を紡いでいます。

p.s. 2　　インスタグラム、私の日常です。

　　
　　「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０２０年１１月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　　の英語版です。
　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”
　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

　　どうかご了承くださいますように。

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　
　　　　お申込はこちら→「Contact Us」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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