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リサコラム
連載739回
      本日のオードブル

あるパリのホテルで

第4話

「ティエリーの廊下」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




静まり
返った
深夜の
ホテルの
サロンの
廊下を
ひとり
静かに
歩く70代の紳士
憂いを帯びた真剣な眼差の
先にはピスラズリのカーテン
そして高級な織物の絨毯
何かよほどの
思入れが
ありそうです。



 







        

 第4話 「ティエリーの廊下」





 午前3時半、キッチンを除く、ホテルのすべての施設が短い眠りについた

頃、私はこの場所にやってくる。それはホテルの顔とも言うべき、このサロン

の廊下。


        


 2020年、パンデミックのこの年、そっと半円の窓から外を眺めると、

人気のない中庭に点々とツリーの白い光がゆるやかに、ほぼ忘れた頃に点滅

の光を放っていた。その窓にはラピスラズリのジャガードのカーテンがゆた

かなドレ―プを描きつつ、大理石の床にゆるやかに裾を落している。床の中心

には同じくラピスラズリ色の額縁でアールデコ調の文様を囲む絨毯が長々と

横たわり、趣味のいい貴族的洗練を放っている。


            


 私は黄金、琥珀、ラピスラズリの3色で織られた廊下敷きの絨毯の上を

カメのごとく一歩一歩を大事に奥へと歩を進める。


           


 おそらく多くのゲストは、スーツケースからフリーになった両手で各々の

感動を表しながらこの絨毯を踏み込むはずだ。そしていつしか優雅になった

歩みを先へと進める度に、亡霊のように知らずに背中に抱えていた混乱と安寧

と豪奢と貧困と不平等の不具合の感覚を脱ぎ捨てる。そして19世紀の

フランス貴族のスピリットを実感するはずだ。


           


 天井を支える太い大理石の柱と床、そして壁から伸びるゴールドの支柱の

ブラケットランプ、お揃いのスタンドと、黄金のライオンの顔が刻まれた

大理石のティテーブル、そんな非日常のアイテムに目が行くとき、

「もしかしたら、この平和で優美な貴族の邸宅は今でもこの世に存在して

いたのね、そしてこれこそがこの世の真実の姿なのかも?」と罪深い錯覚に

陥るだろう。たとえ、そのゲストがついさっき、タクシーの中から、横断歩

道を渡りそこなったネズミのかわいそうな姿を見た後であっても。


            


 ここに立つとつい、皮肉屋になってしまうが、この場所は私にとっても

感慨深く、いや、まだ感慨というには日が浅いが、苦難を思い起こさせる

場所なのだ。


            


 私の名はティエリー・W・デスポン。自慢ではないが、レジオン・ド・

ヌールという名誉ある勲章を頂いた建築デザイナーという肩書を持ち、

2012年から始まったこのホテルの大改装を任された。


            


 しかし、2016年のホテルの再開から4年経った今では、マスク姿でホテ

ルの中を歩けば、私の顔を判別できるスタッフはごくわずかしかいないだ

ろう。大半のスタッフは私を年老いたゲストとしてしか思わないはずだ。

そういう私も今はフランスを捨てて、NYに事務所を置き、活動の拠点とし

ている。そちらの方が富裕層は厚いのだから致し方ない。


           


 私はここの絨毯をデザインする際、迷いなくブラクニエ(Braquenié

というメゾンに任せた。今はピエール・フレイという生地、壁紙、家具を取

り扱うメーカーの傘下になっている1824年創業のファブリックと絨毯の

工房は、かつてナポレオン三世と皇后ユージェニーの専用列車の廊下に絨毯

を敷き詰めたほどの由緒ある工房なのだ。もちろん、作家、ヴィクトル・

ユーゴ―や音楽家、フレデリック・ショパンのような著名人、そしてもちろ

ん、多くの貴族、注文の多い顧客の難しい要求にも答えて来たのだから

ここなら、私が殺されるようなミスを犯すことはないだろうと踏んだのだ。


            


 結果は大成功だった。奇抜過ぎず、気品と優美さを存分に醸し出しながら、

他のホテルとは違うという意思表示を具現化した絨毯が出来上がったのだか

ら。さらに、半円の窓と出入口の部分に掛かるラピスラズリ色のカーテンも

大成功を納めた。窓装飾と絨毯の作り出すエクスクルーシヴな感覚は容易に

多くのゲストに伝わるだろう。


            


 そして、おそらく9割のゲストは気にも留めないだろうが、窓の上部、

半円部分には半円に沿ってゴールドのトリミングのついた飾りカーテンが

極めつけの豪奢な演出をしている。そう、私にとって、この空間のデコレー

ションは最後まで悩み抜いた苦難の始まりとなった。


            


 10数年前、このホテルの大改装の建築デザイナーとして私がアル・

ファイド氏から仕事請け負った時、冗談抜きで私は命の危険を感じた。

そこで私がまずやったことはパタゴニアの小さな無人島を買うことだった。

エジプト人のオーナーのアル・ファイド氏は、もしも、この大改装でめちゃ

くちゃにしたら、君を決して生かしておかないと言ったからだ。いざとなれ

ば、私はその無人島に逃げる手はずだった。そして結果、リッツはパラスの

称号を取り戻すことに成功したし、私はこうして生かされた。


            


 時折、またリッツに足を運び、ゲストが寝静まった夜中、このサロンの廊下

に立ち、ひとりで絨毯の上を歩く時、優雅な非日常の空間に対するオマージ

ュより、改装に関わった職人、技術者、そして表舞台には決して現れること

のない様々な人々の努力、流した汗、苦悩をじかに感じずにはおられない。

そして、「リッツよ、永遠!」と心とひそかに願うのだ。



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2020年6月より毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1
 
  リッツ・パリを取り巻く人々
  今回は大改装を任されたデザイナー、Tierry Despontに焦点を当てました。
  ブラクニエのオリジナルの絨毯はいつか私も作りたいものです。
  マダム・ワトソンで注文できます。

  下の写真はその絨毯のカタログと実際の毛の見本です。微妙な色の数々、
  群を抜いています。

       



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年12月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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