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リサコラム
連載744回
      本日のオードブル

あるパリのホテルで

第9話

「一度始めたら
やめられない遊び」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




高級ホテルのスイートに
泊まるにはそれなりの
覚悟が必要ですね。
それはゴールドの
瞬間を
存分に
味わう
ために
そして
優雅な
空間から
インスピレーションを得るために。



 







        

 第9話 「一度始めたらやめられない遊び」




 「高級ホテルの泊まり方も遊び方も人それぞれいろいろでしょうけれど、

私なら、まず、玄関先の車寄せにタクシーで乗り付けないことをおすすめ

します。かっこよさげに見えることも今では古臭く感じるからです。


            


 私のホテルマンとしての経験から言えることは、ウォークインかと勘違い

されるくらいに自然にふるまう方が高級ホテル慣れしているように見られる

し、大事に扱われるのです。たとえ100回やって来ても常連ではないよう

にふるまうのがかっこいと思うのです。まあ、100回も同じホテルに泊ま

るなんてことはあまりないでしょうけれど、3回泊まればだいたいそのホテ

ルのことがあらかた見えてくると思います。同時に粗も見えてきます。


            


 例えば、前回来た時も、ここの絨毯の端はほころびていたけど、やっぱり

まだほころびているなら、ああ、ここのスタッフはちょっと倦み疲れている

なとか、そんなこともわかります。やっぱり、スタッフが生き生きと誇りを

持って働いていない職場であるホテルにはちゃんとした人は泊まりたくない

と思うものです。そんなことを言ったら泊まれるホテルはすごく限られてく

るんじゃないと思われるかもしれませんが、実のところ、そうだと思います。


            


 私のホテルのチェックリストにはホテルをひそかにチェックする項目が

50項目あります。まずは、ホテルに一歩足を踏み入れた時の瞬間の匂いで

ほぼそのホテルのメンテナンスの状態が8割方わかります。そのホテルが期

待できるかどうかはその一瞬で判断できるのです。合格のホテルはちょっと

ひんやりして透明な香りがします。香り付けをしていても、そんな後付けの

香りにごまかされない、空気感とでもいうものを人間は5感+1感で敏感に

感じることができると私は信じています。


            


 だから私のおすすめはタクシーで乗り付けず、わざと車寄せの手前で降り

てスーツケースを自分で持って行くのです。あるいは空港から自分で運転し

てゆくのもおすすめの方法です。パリのような大都会だとホテルによっては

駐車代金がべらぼうに高額なところもありますから、事前に下調べをしてお

く方が賢明です。そうして、自分の別宅に帰ってきたかのようにホテルにア

プローチするのです。


            


 2度目以降のホテルなら、『私のお気に入りのホテルは今日も元気かな?

変っていないかな?変って欲しい部分は変わったかな?』そんなことと考え

つつ、ドアマンに挨拶をし、ベルボーイにスーツケースを預けたら、ハンド

バックだけを手に、フロントに直行。お部屋でチェックイン、アウトという

ことを高級ホテルの指標にする向きもありますが、私自身はあまり賛成しま

せん。お部屋でチェックインは確かにラグジュリーな感じがしますけれど、

私の好みはチェックインはクラブフロアかカウンターで手早く済ませ、鍵を

もらって自分の部屋までひとりで行くのが好きなのです。


            


 ベルボーイと軽く世間話をしながら、スタッフのレベルを測るのは1回で

十分で、荷物は20分後に部屋に持って来てもらいたいとだけ言ってから、

自分でエレベーターのボタンを押して廊下を歩きながら、今回のファースト

インプレッションが当たっているかどうかを確かめつつ、自分の部屋にたど

り着くという楽しみを味わいたいからです。


            


 今日の部屋はどんなカーテンがかかっているのかしら、ベッドリネンはど

れほどなめらかかしら?タオルのふかふかさはどうかしら?バスアメニティ

は?などと、チェックリストに添ってこれから対面する相手に期待を膨らま

せながら歩くこの瞬間こそ楽しい時間と感覚なのですから。


            


 お部屋の中に入ったら、すぐにコートをコート掛けにかけて、入り口付近

からざっとお部屋を見渡します。その後は、すぐにバスルームへ直行です。

清潔に丁寧に整えられたお部屋には、ぴかぴかの肌が似合うからです。そう

してバスローブに着替えた後、やっとお部屋との正式なご対面となります。

20分後にスーツケースを持って来てもらう理由はバスタイムを勘案して

なのです。


             


 そして度々渡さなくてはならないチップはあらかじめ小袋に入れたものを

作っておいておくと、とても感謝されるので、こんな手間は最初の大事な手

間です。でも、世の中がこうもキャッシュレスになってからは、このチップ

はこの先なくなるんじゃないかなと私も思っています。しかし一方で、この

古い習慣を私は嫌いではないのです。実は、私の父は科学畑で、数字にはと

ても細かいくせに、タクシーに乗ったら、絶対おつりはもらわないし、トレ

ビの泉みたいな場所にお金を投げ入れることも大好きなのです。結局のとこ

ろ、取られるお金より喜ばれるお金が好きなんだと思います。すると支払う

金額はちょっと“運”みたいな方が温かみがあっていいのかもしれないと思

うのです。


           


 考えてみれば、野菜もお魚もお肉も日々お値段が変るじゃありませんか。

ホテルのお部屋のお値段だって1日違いで倍くらい違うこともざらにあるの

ですから価格は“運”と言っていいと思います。そして、ホテルの中ではでき

るだけお金のことを忘れるのです。そうでないと高級ホテルなんて心底楽し

めないと思います。


            


 このスイート1時間1万円もするんだなんて思えば、そわそわして外出も

できなくなるでしょ。結局のところ、ホテルは高級になればなるほど、

『お金が余ったから無駄遣いしに来たよ!』っていうゲストが来るところに

なるのですから。だからなけなしのお金を払ってそんなホテルにやって来

るのなら、存分にホテルライフを楽しまなきゃそれこそ損だって、そう思い

ませんか?


            


 だから、ホテルでの一瞬、一瞬が最高に素敵になるように、思い出に残

るように、素敵なローブにエレガントな部屋着、カクテルドレス、サンダル

は必携です。それをクローゼットに掛けておかなくてはなりません。どんな

ローブを着ているかを、ハウスキーピングスタッフにチェックされますか

らね。


            


★落ち着いたら軽い外出着に着替えて近所のお花屋さんを教えてもらい、

いい香りのするお花のブーケを調達することです。1階のフラワーショップ

でもOKですが、ブーケを抱えて歩けば、すれ違う人はにっこり笑ってくれ

るし、それをそのままフロントに渡して花瓶に入れてお部屋に持ってきてく

れるようにお願いするのです。運がよければチェックアウトの後、そのお花

はスタッフルームに飾られるかもしれないし。そんなことを考えながらお花

も選ぶのが楽しいものです。


            


 基本は一つのホテルには最低2泊がおすすめで、その間ルームサービス最

低1回とディナー1回が必須です。ルームサービスでだいたいお料理のレベ

ルもわかりますし、このホテルはどんな料理が得意で不得意かもわかるか

ら、なるべく色々なお料理を注文します。そして運ばれて来たお料理もテー

ブルセットもきちんとしていたらまた、次回泊まっても間違いないと思え

るから、これは大事なチェックリストの中のひとつ。リゾートではない都会

の中のホテルなら、その日は本でも読んでリラックスして、あとはゆっくり

お休みして終わり。


            


 翌朝の朝食はバイキングでないレストランで朝食を取るのがおすすめです

が、お部屋にバルコニーがついていたら、お天気がよければ、またルームサ

ービスを取ります。だってローブを羽織ったままで焼き立てのパンとオムレ

ツの朝食は普段の慌ただしい生活ではなかなかできないから、これこそ、

高級ホテルで堪能しておくべきだと思います。


            


 実はこんなことを私はこのホテルの入社試験でペラペラとしゃべったので

すから驚きでしょ?でも悪運強い私はこのホテルに採用されました。ハウス

キーピングスタッフ2年、その後チーフスタッフに昇格して、マネージメン

ト部門に配属されました。そして今は時々、新しいホテルやライバルホテル

を偵察に行く隠密もやるのですよ。とこんな具合で、私の人生、もう一回

最初からやり直してもいいくらいホテルの仕事、ホテルライフを楽しんでい

るのです
。」


   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 絨毯の”RitzPARIS”の文字も手書きです。暇ではないけれど
 よほどの暇人です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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