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リサコラム
連載746回
      本日のオードブル

あるパリのホテルで

第11話

「空気を読む」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




アイボリーホワイトの
壮麗な上飾りのカーテン
ダミードレープから
幾重にも重なる
カーテンを
一つづつ
開いて
やっと
美しいバルコニーに
つながる2重窓を開きます。
この手間がなんともいいのです。


 







        

 第11話 「空気を読む」




 私の社会人のスタートは今とは別の4つ星ホテルのベルボーイから始ま

りました。


            


 それから2年後、フロント係に移り、チェックインしたお客様をお部屋に

ご案内するという仕事をするところまでになりました。


 私は学校も優秀な成績で卒業しましたし、自慢ではありませんが、ホテル

マンとして十分な勉強と研鑽を重ねながら同じホテルで10年勤め上げ、か

なりの中堅になりました。そして、ついに憧れのこの5つ星のホテルのスタ

ッフとして2017年のリニューアルグランドオープンの際、採用された時

から、自分には花の街、愛の街、世界中からお客様を迎えるパリのホテルマ

ンとしてのホスピタリティも十分に持ち得ているとさらに自信を深めるよう

になっていました。当然のことながら、ヘキサゴン(パリの異名)の歴史、

文化、最新情報など、どんなこともお答えできる自信もあったのです。


            


 それは、そのリニューアルオープンしたばかりの2017年の新緑が芽吹

き始めた4月の終わり頃でした。リニューアルによって、ホテルはスイート

を増やし、さらに華麗でクラシカルな魅力を増していました。


            


 まずは狭き門のゲートを通過されたお客様を、壮麗なエントランスホール

へとお通しし、お部屋にご案内するのですが、3階くらいまでのお部屋へ

は、いやもっと上の階でも、エレベーターではなく、赤い絨毯が敷き詰めら

れたゴージャスな螺旋階段を希望されます。もちろんエレベーターもクラシ

カルな素晴らしいものなのですが。しかし、その時の女性のお客様はエレベ

ーターでとおっしゃいました。私は一緒にエレベーターに乗り、幾パターン

かの世間話の中からもっとも適していそうなものを選ぶと、自慢の英語で話

を始めました。彼女は黙ってただうなずくのみでした。時々、ごく最小限の

的確な返事が返ってくるとことをみると、私の英語は通じているようでした。


             


 ご案内したお部屋は白い豪華なカーテンが窓を覆うお部屋で、このお部屋

に限らず、たいていのゲストは感嘆のため息か歓声や、大げさな身振りで感

動を表されるものなのですが、彼女はただ黙って、その壮麗なカーテンを見

上げておいででした。私は何か気に入られないのかなと心配になりながらも

いつも通り、丁重にお部屋の設備等のご説明をいたしました。彼女はその

間、黙ってうなずきながら聞いておられていました。そして、私は「何かご

質問はございませんか?」「何かお手伝いができることはございません

か?」といつも通り尋ねました。私は、いつもこの瞬間が待ち遠しくてなら

ないのです。それというのも、先に申しまた通り、観光名所に関することは

もちろんのこと、ル・モンド誌は朝食の際にほぼ隅から隅まで通読していま

したから、最新の情報、話題も一通りインプットしておりました。ですか

ら、答えられない質問はないだろうという自信がありました。もしもセーヌ

川に架かる37の橋の名前を聞かれようものなら、意気揚々とお答えしたもの

です。もちろん、主な橋はその歴史まで。


            


 さらに私の得意とすることはルーブルに関することです。見どころの穴

場、ルートなどなど様々です。その説明の合間にミッテランの政権時代にな

ぜ、ルーブルの広場の真ん中にガラスのピラミッドが建てられたのかをさら

っと盛り込むのです。それは、フランソワ・ミッテランの愛人で娘もいた

アンヌ・パンジョが、「ルイ14世はエジプトのピラミッドを模したものを

ルーブルの広場に作りたかったそうよ」などと、耳打ちしたことによるも

のだと、ちょっと秘密めかしてです。アンヌはルーブル美術館の学芸員だ

ったため、ガラスのピラミッドの話は愛の街パリに美しい花を添える絶好の

噂話になりました。


            


 さらに、その時はミッテラン大統領の没後20年を過ぎ、正妻の没後5年

が経過しており、機が熟したのか、前年の11月にミッテラン大統領から、

愛人のアンヌ・パンジョに宛てた1200通を超える手紙が一つ残らず集め

られた本が出版されたばかりでした。本屋のショウウインドウにはその本が

山と積まれて、文学的な価値も高いと話題になり、ベストセラーを更新中で

したから、お部屋にご案内したゲストの多くから、ルーブル美術館と絡めて

その本に関すること、アンヌのアパルトマンはどこかなどなどを聞かれまし

た。そんな中、没後20年も経ったとはいえ、ミッテラン大統領に対する愛

着はフランス人だけではないのかとあらためて感動したものです。もちろん

ガラスのピラミッドの経緯はウィキペディアには載っていない話はあるので

すが、私はその話にも触れたくてわくわくしながら、いつもゲストからのご

質問を待っていました。


            


 ところが、その日本からのお客様は、それまでじっと我慢していたような

風で、「あの、フレンチ窓はどうして中に開くのですか?日本の窓の左右か

ら開く窓がほとんどすけど」とおっしゃったのです。私は残念なことにまる

で答えられませんでした。そこで、すぐにお調べいたしますと答えました。

すると彼女は、「いや、それには及びません」と言われてすぐに私にチップ

を渡そうとされました。私はなぜかいただく気になりませんでした。


            


 パリに住んで30数年、ホテルマンとして10数年の職歴もあり、パリの

ことは知り尽くしている気でいました。それが唯一の私の自慢だったので、

その知識を一つも発揮できず、私は無言で立ちさることになったのです。私

はすぐにいろいろ調べました。しかし、あまりに当然なことでこれと言った

決め手に欠けました。ただ、フランスは特にパリは防犯のためにドアは何重

にもなっているため、その観点から考えれば防犯のためにドアも窓も内開き

になっているのでしょう。★私は無念な思いで、廊下を歩きました。


            


 ボンサンス(Bon sens)という言葉が頭をよぎりました。常識や良識という

ものです。もしかしたら、何か私に決定的に足りないものがあったのか、

ホテルマンとしての私は困惑しました。


            


 そして、私はふと、外に出ると、彼女の部屋を下から眺めました。レース

のカーテンがふわりと揺れていました。その時、わかりました。彼女は単に

早く窓を開けたいなと思っただけかもしれません。


            


 私はあの時、さっと窓辺に行き、新緑の季節の空気を部屋の中に入れなが

ら、「長い冬がようやく明けて、春になる喜びを外の新鮮な空気を取り入れ

ることで感じられるように窓が内開きになっているのかもしれません。防犯

という意味だけでなく」と、こんなコメントをすればなんとロマンチックだ

ったでしょう!それこそ、パリの街を形容するにふさわしい表現だったと後

悔しました。このパンデミックの今であれば、もちろん私もすぐにそうした

ことでしょう。


            


 後で、日本には「空気を読む」という素敵なことわざがあることを私は

このパリで学んだことの一つなのです



  



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 私はまだ、『アンヌへの手紙』は読んではいませんが、
とても文学的価値の高い文章らしいです。
最近、心温まるニュースが少ない中で読んでみたいほんのひとつです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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