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リサコラム
連載761回
      本日のオードブル

ホテル・ド・ルーヴル

第12話

「ナミコのベッドルームで」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ベッドに
青い陰影と
優雅な気分を
作り出している
ブルーのシフォン
レースカーテン。
その中でブルーの
パジャマを着て
横になる若い
女性は
王女か
女優か
あるいは平凡な民なのか?


 







        

 第12話 「ナミコのベッドルームで」




  

 午前1時半、ナミコの長い一日の扉がようやく閉じようとしていた。


            


 ナミコはベッドに向かって右側に明日の朝履く新しいルームシューズを

並べると、左側からなるべくシワが寄らないよう、神経を集中して白いカ

バーを少しだけめくった。そしてなるべくそうっと、今朝、ベッドリネンを

変えたばかりの白いシーツの間に足を滑り込ませた。次に大きな枕を2個、

ヘッドボードの前に置くと、そこにそっと背中を置き、そしてさらにぐっと

寄りかかると、「ふぅ~」と長い吐息をついた。


            


 ナミコの顔の両側には夏用に取り換えたばかりのシフォンレースの天蓋

カーテンが美しいドレープを描きながら落ちかかっている。


            


 ナミコはマダムと初めて会った面接の日、今、自分にあてがわれているこ

の部屋をレディ・ガガかマリー・アントワネットの部屋みたいと言ってマダ

ムに笑われたことをよく思い出す。しかし、3年が経った今でもその気持ち

は変わらず、こうしてべッドに横になると平凡な一家政婦からいきなり女王

様にでもなった気分になる。


            


 
次にナミコはナイトテーブルの引き出から小さな本を出して、膝の上の

フリルで囲まれた小さな枕の上にそっと置いた。それは面接の日にマダムに

頂いた『青猫の本』で毎晩、無作為に開いた見開き2ページだけを読むこと

にしている。マダムはこの本は住人を教育するための手引書と言ったが、

人を管理、教育するためのノウハウなどどこにも書かれていそうになかっ

た。それどころか、青猫の本は、人生の様々な切り口を短い一行力でユーモ

ラスに表した貴重な人生の指南書で、どのページを開いてもはっとするよう

なセンスにあふれた驚きと感動があった。


            


 
最初はマダムに言われた通り、眠る前にベッドでこの青猫の本を開くと、

女王様かアカデミー賞を受賞した女優のような晴れがましい気分の中でユニ

ークな自己啓発本を読むことに非常にミスマッチを感じたが、1年、2年と

経つうちに、青猫の本を開く時がナミコにとってもっともほっとする瞬間に

なっていた。そして、その本のおかげか、アパート内で起きるいろいろ問題

にもスムーズに対処できるまでになり、住人の関係も良好なものになってい

た。それにつれてナミコに余裕も生まれ、仕事の楽しさは生活の楽しさに変

っていった。


            


 
さらに最初は3人しか集まらなかった日曜日の朝食会も、今では抽選と

いう手段で人数制限をしなくてはならないようにまで好評を博していた。

その他にも夕食会、読書会、芸術作品コンペなどを度々企画し、この小さな

芸術家集団はユニークで親密なコミュニティを形成し始めていた。


            


 これまでナミコは口に出して言ったことはなかったが、もしも、生まれ変

わるなら、今とは違う、今よりいい暮らしをしたいとずっと思ってきた。

自然の中でも、都会の中でも、風情のある場所でもない平凡で特徴のない街

に生まれ、特に貧しいわけでもないけれど決して裕福でもない庶民の家庭で

育ち、自分自身の未来はこの暮らしの延長線上にあると信じてはいても、

それでは終わりたくないとの思いもありながら、それでも目立たず、仲間外

れにされないように、普通に、しかしもちろん懸命に生きてきたが、競争

社会の中で30歳を過ぎたナミコの暮らしぶりが向上することはなかった。


            


 
一方、メディアを通じて自分との違いを明らかにさせるような若い起業

家、様々な分野で秀でた人々を見てきたが、ホテル・ド・ルーヴルに来てか

らというもの、そんな成功者の話に妬みやうらやましさの感覚も批判的な思

いも感じなくなっていた。さらにずっと嫌ってきた凡子という名前をこの頃

は、平安と平凡が掛け合わされた最高の安住の地ではないかと思うようにな

っていた。すると、凡子という文字が仙人か、開眼者のような名前に思え、

不思議なもので、自分自身に対する肯定感さえ強く感じるようになっていた。


            


 
ナミコは背もたれのクッションにさらにぐっと身をゆだねるとちょっと

目をつぶってから、青猫の本をぱっと開いた。「さて、どれどれ、今日の

運勢は?」ナミコはちょっとおどけた顔を作ってページに顔を寄せた。


            


 『その毎日、思えば平凡、書けば文学』そんな大きな文字のコピーが

今晩のナミコを待っていた。「そうか、そうね~、なるほど、日常も書けば

文学なのか~」ナミコの表情はアカデミー賞の女優の顔並にみるみる明る

くなった





  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 平凡という意味を今、よく考えるようになりました。
すると、この平凡は巾も奥行も深いことに気付き始めました。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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