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次回、第14話 763回は5月28日(金)に変更いたします。
リサコラム
連載762回
      本日のオードブル

ホテル・ド・ルーヴル

第13話

「執事ナミコの策略」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




純白の
テーブルクロスに
焼き立てのクロワッサン
そしてシルバーのドーム型の
カバーが掛けられた本日の
メインディッシュは
さて何でしょう?
一輪のバラは
何をか
言わんや
という顔
さてさて
秘密の匂いしてきましたね。


 







        

 第13話 「執事ナミコの策略」




  

 ナミコはマダムの部屋のドアをノックしてから、ディナーのテーブルを

押して中に入った。マダムが一人ディナーをするときは、ナミコはカートに

なったテーブルを押してマダムの部屋に晩ご飯を届けることになっていた。

今日の白いテーブルクロスの上にはナミコ特製クロワッサンのパンかごと

シルバーのドームがかぶさった今日のメインディッシュと一輪のバラの花

が載っていた。


             


 ナミコがテーブルを押して入って来たとき、マダムはまだオフィスに居て

分厚い本を広げて読んでいるところだった。「ナミコさん、ありがとう。バ

ルコニーに置いておいてちょうだい」マダムはオフィスの開いたドアから少

しだけ首を出してにっこり笑った。「はい。かしこまりました」ナミコはマ

ダムが「ジヴェルニーの庭」と呼ぶ、緑深い中庭に面したバルコニーにテー

ブルを押して行った。まだほのかに明るさの残る夏前の午後8時、庭の濃い

緑色は部屋の中の空気をも緑色に染めている。


             


 マダムはその半屋外のバルコニーで晩餐をするのが最近の日課になってい

た。緑に美しく映える純白のテーブルクロスはマダムがフランスに住んでい

た時代にたくさん買い集めたもので、キッチンの引き出し5段分すべてが白

いテーブルリネンで埋まっている。そんな高級なリネンのテーブルクロスか

ら1枚を選んで、キッチン横の小さな家事室でアイロンをかけ、その上に今

晩のディナーを乗せて、銀のボウルをかぶせるのも、そしてテーブルを転が

してエレベーターに乗り、マダムの部屋に運ぶのも、そのプロセス全部が楽

しかった。そんなマダムのお世話をするのがとき、自分はつくづく、給仕人

か執事に向いているとナミコは感じる。しかし、今日は特別に、いたずら好

きな子供のようにマダムの反応が楽しみでならなかった。


           


 ナミコはすでにこの仕事を始めてすでに6年が経っていた。その間、画壇

に羽ばたいて行った画家は残念なことにまだいなかったが、みんなそれぞれ

に努力を重ねていることはキッチンやダイニングで聞く話からうかがえた。

その熱のこもった芸術談義を住人みんなは井戸端会議と言っていた。井戸端

会議では様々な話が飛び交ったが、ただテレビで流れてくるニュースのよう

な話題にはならなかったのは、さすがに芸術家集団らしいとナミコは思って

いた。中には秘密主義を貫き、自分の作品を絶対に他人に見せない人もいた

が、多くの住人はそれぞれの作品を見せ合って口角泡を飛ばしながら意見交

換をした。売れる、売れないという問題の前に、他のアーティストの意見を

聞きたいというのが本音だったようだ。


            


 ルーヴル、オルセーはじめ、パリの美術館はもとより、近くの美術館にさ

え足を運んだことのなかったナミコは最初、全くついていけなかった。バロ

ックも新古典主義もロマン派も、もちろん印象派の画家が誰だなんてまるで

門外漢で、その度に疎外感を感じながら黙っていた。しかし、そんな時、

目立たない雰囲気の画家志望の30代のゆうは、ナミコの気持ちを察して

そばにやって来ては、「あの人たちはアカデミーだから、私にも何のことだ

か全然わかんないのよ」などと慰めるように言ってくれた。そんな時、ナミ

コは、もしも、このホテル・ド・ルーヴルに来なければ、今は一般のホテル

で給仕人かハウスキーピングとして働いていたかもしれないが、きっと今の

方が幸せだし、今は執事などのいる家は皆無に近いだろうけれど、自分は料

理人、家政婦、執事でアシスタント、さらに住人の教育者係という何足もの

わらじだけど、自分が満足であればそれでいいのだと思い直し、そして自己

肯定感に浸る。そんな日常でナミコは自分の勉強も兼ねてと始めたことが井

戸端会議で聞きかじったこと、そしてそれをもとに自分自身で調べたことを

大学ノートに書き綴ることだった。


            


 その内、ナミコは井戸端会議で話される内容が何となくわかるようになっ

てきた。そして、5年も経つと、自分なりの意見も言えるほどになってい

た。すると不思議なもので芸術家志望の面々は自分の作品を仲間内ではな

く、ナミコ個人に見せて意見を聞くようにまでなった。ナミコは彼らの生活

面での指導者でありながらも、彼らの芸術の評論家の役目さえ果たすように

なっていた。そして日常のさまざまことを記録したナミコのノートは年に

10冊ものペースで埋まっていった。ナミコはその秘密のノートを住人の

作品と共に世の中に出してみたらどうだろうと考えるようになっていた。

住人の描いた絵や彫刻はマダムがたくさん所有しているし、さらにそれは廊

下に週替わりに掛けられるため、その写真はいくらでもある。きっと面白い

はずだとナミコは段々と確信のような思い込みのようなものに突き動かさ

れ、そのノートを編集し始めた。


            


 
まとめ上げた6年分のその原稿にナミコは『芸術家アパートの執事が見

た幸せな日々』と付けた。そして、今日は、そのまとめ上げた原稿をしっか

りと脇に抱え、マダムのメインディッシュ用のシルバーのドームの中に置い

ていたのだった。


            


 
ナミコがマダムの晩餐のテーブルをバルコニーに置いてドアの外に出る

と、ほどなく「ナミコさ~ん」と呼ぶ声がした。すると、今までわくわくを

抑えきれずにいた、いたずらっ子がいたずらに引っかかった大人の反応を

想像して恐怖するように心臓はどくどくと音を立て、体はガクガクと震え、

じっと寄りかかった壁がそのために揺れるのではないかと心配になるほどだ

った。ナミコは自分の心臓に手を置いてまさに飛び出そうとしている心臓を

両手でじっと押さえつけた。


           


 
ゆっくりとマダムのヒールの音が、ナミコが身を潜めている壁の方に近

づいてきた。




  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 シルバードームに隠す手口は
 シャーロックホームズの中の
 『海軍条約文書事件』からいただきました。


 そして顔を描くのに一番時間がかかりました。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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