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リサコラム
連載767回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第4話

「私の策略」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ミッド
ナイトブルーの
バーチカルブラインドが
部屋を縦長に広く見せている
ようですが、 実は巾2メートル
奥行3.2mの小さな寝室。
スタイリッシュな
ピーコックブルー
ピンクベージュ
スモーキーブルーの
クローゼット扉から想像するに、
若い男性の寝室でしょうか?



 







        

 第4話 「私の策略」



  

 身長186㎝体重90㎏の私は、シングルベッドがやっと入る部屋

を妻からもらった。


            


 「眠るためなら別になんら問題ないさ!」私は愛クマのパディントン

にそう言った。そのパディントンだって、やっとの思いで持ち出せたシ

ロモノで、というのも、私のスーツケースのスペースはとても狭く、と

ても愛クマ、パディントンを詰め込む余裕がなかったのだ。そのため、

不本意ながらクッションカバーの中に詰め込んで、私のスペースの約3

倍はある妻のスーツケースにこっそり紛れ込ませて連れてきたのだった。


            


 
その時に初めて、スーツケースはでかいものに限ると思ったが、でか

いスーツケースを持って行くことなど、旅慣れた人間がやることではない

と通ぶっていた手前、今さら自分のスーツケースが小さいから、それは不

平等だと妻に喧嘩を売るのも大人げないと思った。しかし、実際には私と

妻の間には常に不平等条約が顔をのぞかせていた。


             


 
その不平等とは、家のあれこれを決める際、当然のように意見が分か

れるが、その解決方法をコインの裏表で決めるコイントスによるというと

ころだった。人によってはそれが最も平等ではないかと思うかもしれない

が、私はそのコインの裏表を当てることにかけては必ず負けるという絶対

の自信がある。それをよく知っている妻は何とも底意地が悪いとしか言い

ようがないが、予想通り、すべてにおいて幸運の女神は妻に微笑んだ。


             


 よって、私たち二人の部屋割を決める際にも、最も公平に、さらに最も

理不尽にも、身長165㎝で体重45㎏しかない妻が間口3.5m、窓が3

つある部屋を取り、そこにクイーンサイズのベッドを置いてひとり眠るこ

とに決まった。


            


 残った間口2mで窓が2つ分しかない部屋こそが、身長186㎝体重

90㎏の男にあてがわれた部屋ということになった。私は妻の目方の2

倍だから、2倍の所有権を主張できると思い込んでいた私が軽率だった

としか言いようがなかった。


            


 
その決定がなされてから、まだ内装のされていないがらんとした家の

中で、私はパディントンに話しかけた。「人生、不如意なんだ。そうそ

う、思い通りに行くわけはないじゃないか!」彼は私のうるんだ目を見

つめて、「そうだね、でも、がんばれよ」と励ますように言った。もち

ろん、彼は今風のぬいぐるみではないから、言葉はしゃべらない。私がそ

んな風に思っただけだが。しかし、もし、AIだったら、なんと返すかと

考えたとき、私はぞっとした。純真な瞳で、「おめでとう。素敵なお部屋

になりそうだね」なんて言われたら、私はきっと彼をサッカーボールみた

いに庭に向かって蹴飛ばしていたはずだから。意見には個人差があるとし

た上で、私は言いたい。ぬいぐるみに人間の知能もどきを与えるなんて、

不幸の始まりだと思う。ぬいぐるみの気持ちなんて自分の好きなように解

釈するから幸せなのだから。


            


 
そうは言っても、私だってマイナス要因に思えるものだって、プラスに

変えられることを経験上いくらでも知っている大人である。にもかかわら

ず、妻は私のことを「坊や」と呼ぶ。「18才をとっくに過ぎた禿げ頭の

この紳士に向かってあまりに失礼だとは思わないか?」私はまたパディン

トンにため口を吐いた。「いいじゃないか。言わせておけば。それより見

返してやろうぜ!」彼はそう言ったようだった。


            



 
それからというもの、私は、妻を見返す作戦を練った。向こうが有名

設計士なら、こちらは無名な大学生でいこうと思ったのだ。


            


 
実は私の友人は優秀な奴が多く、中にはソルボンヌで教鞭をとってい

る大先生だっているのだ。私は彼に頼んで、専攻は問わないから学生で

センスありそうな学生に自分の部屋のデザインをしてくれないかと頼ん

だ。報酬として600ユーロ払うと言った。もし、複数の応募があれば、

落選者にも80ユーロ払うと言った。すると驚いたことに応募者多数でコ

ンペになってしまった。落選しても80もらえるならと貧乏学生が10数

人も手を挙げたというのだ。私はそれ見ろと内心思った。この不平等条約

を盾に、自分の運気の強さを鉾にして武装している妻をなんとしてでも見

返してやりたいと自信を深めた。


            


 
2週間を待たずして10数通りの部屋のデザイン画が私の手元にやっ

て来た。やはり、狭い部屋はセンスのいい学生に考えさせるべきだと思っ

た。どれも素晴らしいものばかりで、私は正直、この全部の部屋を作りた

いと願った。


            


 
さっそく、数日間、パディントンと頭を悩ませ協議した結果、ピーコ

ックブルーの壁の前に白いベッドがある部屋に決定した。私はとても誇

らしかった。そしてそのデザイン画通りに部屋を作ってくれるようにと工

務店に言い渡した。妻はそのデザイン画をちらっと見ると、ちょっと驚い

た表情をしたが、自分の部屋の方が数倍いいと思ったようで、何のコメン

トもしなかった。


            


 そして妻の部屋がほぼできたあと、私の部屋の内装が始まった。始まっ

たと言っても、極小スペースなため、クロスが貼り上がり、窓にはミッド

ナイトブルーのバーチカルブラインドがかかるまで3時間ほどで終わっ

た。その後、二人の大男(業者の人間と私)が狭い部屋の壁にからだを押

さえつけられながら、ベッドを組み立て、ナイトテーブルを設置した。

照明は極シンプルなダウンライトとセンスのいい丸い輪だけのシャンデリ

アだった。私のセンスではこんなクールな部屋はできなかっただろう。


            


 私は体をやや斜めにしながらベッドのそばを通り、窓に対して反り気

味になってバーチカルブラインドのひもを操作して開いたり、閉じたりし

た。想像よりさらにスタイリッシュな寝室ができたことに私は満足の域を

越えて、まずは友人に自慢したくなった。取っ掛かりは妻の不平等条約に

異議を申し立てるために始めたことだったが、もうそんなことはどうでも

よくなっていた。私は部屋のドアを半開きにした状態のままで、完成に近

づいた家をせっせと磨いていた妻にちょっと散歩に出てくると言って出

かけた。


            


 私は地下鉄に乗らず、その日はタクシーでパリの中心地に向かった。

日没が街をさらに美しく輝かさせていた。やはり、パリはいいと思った。


            


 
もしかしたら、今ごろのぞき見している妻が、自分の部屋と交換しよ

うと言い出すかもしれないが、その時は私はライトアップされた市庁

舎をタクシーの中から見ながらパディントンに宣言した。「その時はきっ

ぱりと断ってやろうぜ!」と。




  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 男性も「負けていられない!」とインテリアに熱を入れて
いただけますように。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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