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リサコラム
連載769回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第6話

「グレージュの壁」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ダイニングテーブルの上
に大きなバラの花瓶
キッチンカウンター
にはユリの花瓶
そして、
グレージュの
ダイニングの壁には
かわいい窓があります。
いいえ、絵でしょうか?
素敵な風景に見えますね。



 







        

 第6話 「グレージュの壁」




  

 ずいぶん昔だが、『ローズ家の戦争』という映画をひとり小さな映画

館で見たことがあった。離婚を申し出た妻とそれを受け入れない弁護士の

夫が巻き起こす壮絶な夫婦げんかを描いたコメディ映画だった。ローズ夫

妻のげんかはエスカレートし、家中が戦場となり、最後はすべてが破壊し

尽された。私は二人が巨大なシャンデリアに飛び乗って格闘するシーンを

白昼夢のように最近よく思い出す。こんな修羅場はまんざら映画の中だけ

の話ではないのかもしれない。それとも私の深層心理のある願望だろうか?


            


 
人生でおそらく最後となるだろうパリへの移住を決めた時からおよそ

1年間。その1年で私たち夫婦それぞれの生活感、考え方の違いがあらわ

になった。そんな中、自慢ではないが、アドラー哲学に根差して人間関係

をとらえる私の引き際のよさでローズ家の戦争を免れてきたと言っていい

と思っている。


            


 
結局、私の個室を除いて間取りもインテリアも、すべて妻とタッグを

組んだ設計士が勝手にやってしまった。そして最後に残ったリビングの

壁を塗るところで、私は妻に自分の意見を言った。「濃いネイビーブル

ーに塗りたいんだが」と。予想通り、妻は反対した。そして、ピーコ

ックブルーがいいと言った。しかし、こればかりは私は譲らない覚悟だっ

た。その他はすべて譲歩してきたのだから。妻はなかなか折れなかった。

それでも私は負けなかった。最後は沈黙で抗議した。


            


 「わかりました」妻はとうとう妥協の意思を示した。「それならダイ

ニングチェアをピーコックブルーさせて。でも、壁の色は濃いネイビー

ブルーだけはいや。グレージュなら妥協できるけど」「そうか、ネイビー

ブルーはどうしてもダメか、」普段の私なら、争いを避けてすぐに「わか

った、いいよ」と言うところだが、と言うのも、インテリアのセンス、

ことに色のセンスにおいては絶対の自信を持っている彼女は、壁、カーテ

ン、ブラインドなどはもちろん、マグカップ1個の色でさえ、彼女が決定

権を持っているのだから。だから、彼女がインテリアや色で譲歩すること

は考えられなかった。


            


 私は黙ったまま、グレージュという洒落た響き色の上に前の家から唯

一持ち出した絵が合うのかと想像した。しかし妻は前の自宅の
2階の廊

下に長く掛かっていたその絵にまるで関心を寄せていなかったし、どんな

絵だったかまるで憶えてもいないようだった。


             


 妻は無名の作家による絵などは芸術とはみなしていなかったことが今回

の引っ越しでわかった事実の一つだった。彼女はルーブルやオルセー美術

館に掛かっている絵こそが絵画と思う人間で、そんな教科書に出てくるよ

うな絵画においては評論家のような一家言を持っていた。


            


 しかし、私は「あの絵」が好きだった。2羽の白鳥が泳ぐ池とその向こ

うの森に隠れた2軒の家。その景色を開かれた窓を通して見たような絵は

どこで描かれたのかとずっと好奇心を抱きながらおよそ30年の時を過ご

してきた。


            


 ”まあ、グレージュも悪くはないだろう私はそう、結論づけると

「わかった。グレージュで行こう」とあっさり言った。そうして、リビン

グの壁はグレージュに決まった。しかし、その時、私はまだあの絵を掛け

ることを妻には言わなかった。絵画とはみなされないあの絵をダイニング

の壁に掛けると言えばどんな反応がやって来るのか、私は空恐ろしい気分

だったのだ。情けないが、センスにおいて絶対の自信を持っている妻を持

つ夫はきっとごまんといるはずだから、常に妻の顔色を伺いながら生活を

しているのは私だけではないはずだ。そう思うとこの憂鬱な気分も少しは

楽になった。


            


 
1週間ほど後、リビングの壁はグレージュに塗られ、楕円のテーブル

にピーコックブルーの椅子4脚が揃い、ベージュホワイトのテーブルクロ

スが掛けられた。その翌日、私は先生の目を盗んでいたずらをする子供の

よう妻が外出している隙を見計らって庭の物置から「あの絵」を運び出

し、リビング壁にくぎを打ち付け、早速、掛けてみた。それから少し離れ

たキッチンカウンターのあたりから眺めた。


 すると絵はまるでグレージュの壁に窓があいてその向こうの池に2羽

の白鳥たちが泳いでいるように見えた。


            


 
「なんて、いい風景だ」私はあれほど見慣れた絵を新鮮な感動で長い

時間見つめ続けた。その内、私の頭の中には南フランスの田舎町から出

てきた日のこと、そしてパリ見物と新居探しを兼ねて、6区の

サンジェルマン・デ・プレから始め半時計周りにホテルを点々とした

こと、そして20区の庭付きのアパルトマンに落ち着くことになるまで

のあれこれを映画のシーンのよう思い浮かべた。すると、その前の住み

慣れた片田舎の町での出来事など遠い昔の、まるで前世のようにさえ思

えた。なるほど、これがパリで暮らすということなのかと私は思った。


             


 
私がそんな物思いに浸っていると妻が外出先から戻って来た。

「おかえり」私が振り返ると、彼女は顔が埋まるほど花束を抱えてい

た。「今日は私の誕生日だったけ?」私は妻の位置から絵が見えないよ

うな場所に立って、まずはジョークを言った。「花屋のミカエルがおまけ

をたくさんくれたの。だって、私、毎日が誕生日だから、ははは

そう言うと彼女はキッチンのシンクの中に花束を入れてパチン、パチンと

茎を切リ始めた。そしてすぐに私の座るキッチンカウンターの天板の上に

大きなユリの花瓶を置いた。ぷうんと澄んだ清楚な花の香りが私の鼻孔に

侵入してきた。


            


 やっと妻はダイニングの壁の絵に気づいて、「あら、この絵、

いいわね」と、30年間も自宅にあった絵をまるで初めて見るかのよ

うに眺めた。私は内心ほっとした。それから彼女はすぐにまたキッチンに

戻ると、別の花をパチンパチンとやり始めたので、私は妻に向かって

「前のオーナーが置いて行ったらしいね。庭の物置で見つけたよ」と、

私は用意しておいたウソを言った。「どうりで!」妻は次にバラの花を

どっさり挿した花瓶を抱えて、ダイニングテーブルの上に置くと、また

ちらっと絵を眺めて、「設計士さんから伺ったのだけど、前のオーナー

は画家だったらしいわ。きっとあの窓から見た風景を描いたんでしょ。

私たちの寝室の変わった窓枠に似てるし、池はないけど、向こうの家も

そっくりだし」言ったのだ。私ははっとして、また絵を見た。

「なるほど、そうか」私はその後、何食わぬ顔で寝室に行くと窓か

ら外を見た。


            


 
「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン」私の頭の中でベー

トーヴェンの交響曲第五番、運命が鳴り響いた。「この絵がここに呼び

寄せたというのか?ここに来たのは運命だったとでもいうのか?

そんな、まさかそんなことはあり得ない。運命だなんて、

ばかばかしい!」私はそうは言ったものの、何かぞくっとしたもの

感じながらそこから動けずにいた.



  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 この世から「ローズ家の戦争」をなくすには
 譲り合い、みんなで家事を分担することだと思いいます。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年7月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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