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リサコラム
連載770回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第7話

「サティ氏の夢」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





美形の若い男性がひとり
長椅子に腰かけています。
膝の上には開かれたのノート
緑色のシャツ、ベージュのズボン
横の丸テーブルには濃いブルーの
テーブルクロス
その上には
シャンパン
ボトル

シャンパングラス。
背景の茶色の壁には
落書きが見られますが、
さて、この人は誰なのでしょうか?



 







        

 第7話 「サティ氏の夢」




  

 ラララららら、らららら~開け放した私の寝室のドアの向こうから

妻のハミングする声と同時にピアノが音を立て始めた。

            


 
サティだ。パリに来てからというもの、モーツァルトもショパンもほ

とんど弾かず、サティだけが彼女のお気に入りになったようだ。その理由

のひとつには、パリに住んだら、パリで一生を過ごしたフランス人音楽家

の方が身近に感じるのだろうと思う。


           


 
私は以前からクラシック音楽にはほとんど興味もなかったが、妻は

このところ毎回のように、夕食のテーブルで、庭でのお茶の時間に、

サティの人となりや音楽について微かな嘲笑を交えて話をする。しかし、

それには多分な愛着が込められているのだが。私がつい上の空になって

いると、妻はまるで出来の悪い生徒を叱るようにちゃんとこちらを向い

て聞きなさいと言わんばかりに諭すのだった。


             


 
彼女が言うにはサティという人物は第一次世界大戦前後のパリで作曲

家として活躍したが、その変った音楽性から当時は異端児として蔑まれて

いたともいう。しかし、彼女が風変わりな人物の風変りなタイトルの現代

音楽のような音に惹かれるようになった心境が私にもなんとなくわかる

気がする。


            


 
南フランスに住んでいた頃、私はパリに対して一種の反感のような、

妬みのような感情さえ持ちながら、この先、一生パリに住むことなどない

だろうと思いながら、片田舎の暮らしを送ってきた。その間、パリを訪れ

たことも2回しかなかった。しかし、パリに住んでみると、そこは想像し

ていたより遥かに豊かで楽しい場所だったし、街を歩くと通りには多くの

文人、音楽家の名前が付けられているし、彼らの生家はまさに犬も歩けば

生家に当たるくらいあちこちにある。すると、今まで抱いていた妬みの感

情はパリに住むと決めた途端に、文化の中心地にいるという誇りと優越感

に変り、私はパリで活躍した文人や音楽家などと肩を並べているような錯

覚に陥ったのだった。きっと妻も近い感情を抱いていたのだろうと思う。


            


 
そんな風に日々、パリの生活になじんでゆく私は次第に私たちをパリ

に引き寄せた理由を考えるようになっていた。そんな時、私たちの南フ

ランスの家の壁に長年、ほぼ見捨てられるように掛かっていた絵が、

なんと、絵について何も知らない妻が、この家の前のオーナーが描いた絵

だと無邪気に言い出したのだ。私はそのとき、この因果めいたミステリア

スな推測に不思議なほど興奮を感じた。


            


 
ほんとうに私たちのこの新居の元のオーナーが描いた絵だったとした

ら、どういういきさつで元の家にあったのだろうか?妻はこの絵を初め

て見たように感じ、そしてその絵がこの部屋から見た景色にそっくりだ

と言ったのだから、実際にそうなのかもしれない。いや、単なる偶然な

のか?あるいはまるで無関係なのか?私は探偵にでもなったつもりでこ

のミステリーを自分で解きたいと思った。


            


 そして絵を掛けた日から虫眼鏡を使って細部を見たり、庭にある倉庫

を「調査」さえしたりしたが、そこには芝刈りの道具とスコップなどの庭

いじりの道具が入った古びた木箱以外は何もめぼしいものはなかった。


            


 また、度々、私の寝室の窓から外を眺めた。確かに絵と同じような黒い

窓枠、開かれた窓から向こうには赤い屋根の家と黄色い屋根に赤い煙突の

ある家がある。もしも、想像をたくましくした画家がこの窓の外が池だっ

たらきっと素敵だろうと思って池と2羽の白鳥を描いたのだとしたら?

この降ってわいた事件ともいうべきミステリーに私は昼も夜も、妻に内緒

で夢中になっていった。


            


 
そんな折、リビングからいきなり甲高いピアノの音が響いてきた。

それは、ガンガンガンとしか聞こえない怒号のような強烈な響きだっ

た。私は驚いてすぐに音源に走り寄ると、妻は涼しい顔をしてピアノを

弾き続けていた。「『犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲』なんてい

うのよ、ね、変わってるでしょ、サティって」と妻は笑いながら言った。

この頃はこんな強烈な現代アートのような、変わったタイトルの弾きに

くい曲にもトライしているらしい。しかし、いきなりガンガンと鳴り響く

転調に、サティという異端児のミステリアスな雰囲気が、今の私の心境に

妙に取り入ってしまったのだ。それからというもの、サティという風変り

な人物像と、この家の画家だという前のオーナーが重なって思えるように

なった。


            


 
元オーナーはこの絵のようなどこかミステリアスな不思議な絵を描く

作家だったのではないか、どんな風貌だったのか、こんな変わった形の家

を建てるのだから、きっと変人に違いない。おそらく美形だっただろうと

か、さまざまに想像をめぐらせながら、最後は、いや、間違いない、この

絵は前オーナーが描いたものだと決めつけては、また、無限の迷路に迷い

こんでゆくのだった。


            


 
ドビュッシーのサンサーンスやショパンのノクターンという穏やかな

曲調の音楽を好んでいた妻が、奇妙なサティの曲ばかりを弾くようになっ

たのも、この元オーナーの見えざる何かの力が働いているに違いないと

か、そんな怪しげなまじない師のようなことさせ私は考えるように

なっていた。



  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 サティの曲は分裂症的とも、超現代音楽とも。
でも、これが聞きなれると癖になるのです。
ミステリアスな映画のBGMにぴったりな感じですね~。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年7月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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