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リサコラム
連載771回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第8話

「予想」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





開いた本から
生まれるのは
紅茶に浸したプチットマドレーヌ
ドガの絵の中から抜け出してきた
バレリーナ
セザンヌの
りんご
マスカ
ットの
入った
シャン
パングラ
スの中で
ビールマン
スピンをして
いるスケーター
空想はどんどん広がり
予想から解は生まれるのでしょうか?



 







        

 第8話 「予想」




  

 不思議な因果を秘めているかもしれない、そんな気持ちで、あの絵と

日々対峙するうちに私は何か大きな秘密を持ってしまったような気にな

っていた。しかし、どんなに考えても何も思い浮かばなかった。


             


 
妻はと言えば、あの絵を掛けてから2、3日もすると、また以前の

私たちの自宅にあった時のように絵など全く目に入らない様子で、

相変わらず日中は友人たちとパリ見物かたがた、カフェで私の悪口を延々

とまくし立てることで日々を優雅に楽しんでいるようだった。


            


 
私はと言えば、パリジェンヌ化した妻とは正反対に、同じ20区にある

エディット・ピアフの生家を訪れたりすることもなく、ひたすら庭仕事に

精を出していた。いつか完成した美しい庭で読書ができるようにと、

まずは小さな木のベンチとテーブルを作った。そこで図書館や預けた本を

借りだしては読書にふけるつもりだったのだが、どんな本を開いても目は

字面を追うばかり。頭ではつい、あの絵のことばかりを考えてしまう

のだった。


             


 私はとうとう、本を投げ出して、友人で数学者のアンリという男に

電話をかけた。きっと彼なら、数学的にこの絵の謎を解き明かしてくれ

るのではないかというのと、私と同年代だから、いずれにしても暇を持て

余しているだろうと思ったのだ。しかし、万一、妻がパリ見物に飽きて

早めに家に戻ってくることがあるかもしれないと案じて彼を家に呼ばず、

ルーブルの近所のホテルのブラッスリーで待ち合わせることにした。

地下鉄の駅に直結しているし、きっと来てくれると思ったのだ。


            


 
しかしアンリは長距離をタクシーでやって来た。その理由を尋ねる

と、彼は第6感で地下鉄に爆薬が仕掛けられているような気がしたか

らだと言った。私はそれを軽く笑い飛ばし、すぐに世間話に移ったが

彼は真剣な表情を崩さなかったばかりか、こんなことを言い出した。


            


 「君は、第5感までしかないと思っているのかな?人間には見えない

ものも見える、聞こえないものも聞こえる、匂わないものを感じること

のできる能力が備わっているんだよ!」私は真剣にびっくりした。そし

て丸い小さなテーブル越しに彼の顔を覗き込んだ。彼は本気で言ってい

るのか、それとも2,3年会わない間に彼に何か変化が起きたのかを探

ろうと冗談めかして尋ねた。


           


 
「いや、気を悪くしたのなら謝るよ。僕は君がまだ数学者だと思って

いたが、霊能者にでもなったのかい?」しかし、彼は相変わらず真顔で

答えた。「まあ、両方の世界で生きてはいると言った方が近いかね。

君は、数学者と言えば、すべてを数式と記号で解決する人間だと思って

いるかもしれないが、実は数学者と霊能者は紙一重なんだよ。いや、

裏表といった方がいいだろう」と、驚くようなことを言った。


             


 「数学者と、霊能者の両方をやっているというのか?」と私が呆れた

顔で聞くと、数学者アンリは、「そうとも言える。数学には未解決の

テーマがたくさんある。つまり、証明できていないことがたくさんある

んだ。中でも160年以上前から多くの著名な数学者が証明を試みて来

た、素数の分布に関するリーマン予想というやつがある。それを証明

したらノーベル賞ものだが、世界中の数学者がどんなに血眼になって

証明しようとしても、みんな失敗している。それだけならいいが、

精神に異常をきたしたり、原因不明の病に侵されたり、非業の死を遂げ

たりしているのだから穏やかじゃない。だから、最近、その証明は不吉

だと敬遠されているし、この世には踏み越えは行けない領域があるんじ

ゃないか、そんな神の領域に足を踏み入れようとしたものは、死を持っ

て報いられると言う数学者もいるんだ」


             


 
私は予想外の展開に驚いて尋ねた。「つまり、数学と霊的なものが表裏

一体をなしているとでも言うのか?」私は混み合うカフェの隅のテーブル

でげらげら笑い出したが、しかし、相変わらずアンリは真顔だった。

「それなら、君の家の不思議な絵をどう説明する?あの絵が君たちを

パリに引き寄せたと本気で思っているんだろう?ほら、数式では説明で

きないことが身近にあるじゃないか」


            


 
私はその時、彼を呼び出したのは間違いだったと思った。

「僕は現実的な可能性を君に聞きたいと思ったんだが、無理な相談をし

てほんとに悪かった。わざわざタクシーで来てくれたのに、申し訳なか

った。でも時間をつくってくれてありがとう。会えてうれしかったよ」

と、伝票を持って席を立とうとした。


            


 
「おい、おい、ちょっと待てよ。実は、その絵の話、面白そうだから

わざわざタクシーで来たんだよ!」友人は薄くなった頭を撫でながら、

謝った。「そうか、興味を持ってくれたのなら、うれしいよ」立ちかけ

た私はゆっくりと腰を下ろし、諦める前に少しだけ話してみようと思っ

た。


            


 「もしも、ミステリーが隠されているとしたら、という条件でいろい

ろ思い出しながら考えてみたんだが、実は私の両親がまだ健在だった頃

日本人女性がしばらくホームステイしていたことがあって、その彼女が絵

を描いていたことを思い出したんだ。しかし、その絵がその女性の描いた

ものかどうかはわからない。今は音信不通になっているし。しかし、

いつだったか、その彼女から手紙が来たことがあって、それには、日本

で画家とか彫刻家の志望の若者限定のシェアハウスを始めたと書いてあ

ったらしい。だからって、あの絵と直接結びつくものがあるかどうかは

わからないが」私が言い終わらない内に、アンリは身を乗り出した。


            


 「それはますます面白くなってきた。なあ、一緒に解いてみないか?

解が見つかるかもしれない」「解?」私は不安な気持ちもあったが、

どうせ暇だし、彼と解とやらを見つけてやろうという気になっていた。



  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 好きな素数の話、リーマン予想ですが
これもミステリーの一つと言えるのではないでしょうか?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年7月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



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  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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