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リサコラム
連載774回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第11話

「パリ見物」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




青々
とした
緑の庭園
もしかして
ここは
パリの
どこかでしょ
うか?
向こうに見える塔は
見たことあるような
何の塔でしょうか?
もしかして
日本にもイミ
テーションが
たくさんある
あの塔でしょうか?


 







        

 第11話 「パリ見物」




  

 「そんなこと、心配するなよ」アンリは私の送ったメッセージに即座

に返事をしてきた。「と、言うか、僕はもう先に来て、テーブルについ

ているからね」アンリが時間より早く来るなんてことは未だかつてなか

ったことだったので私は驚いた。


            


 
私は慌てて店の中に入ると、窓際の小さな四角いテーブル席にこ

ぢんまりと座ったアンリを見つけた。彼も私を見つけると手を挙げた。


             


 
「悪かったね。僕の都合であれこれと振り回してしまって」私は

素直に謝った。「いや、全然。それより、例の絵の件、

何かわかったか?」私は口ごもって、「いや、別に。というか、

もういいんだよ」と言った。「もったいぶらず、言ってみろよ!」

と、アンリはちょっと冷やかした風に言った。


            


 「いや、たいしたことじゃないから。ちょっとしたひらめきという

か思いつきと言うか、まあ、そんなものだよ。その内、真実がわかる

日が来るのか、あるいは謎のままなのか、いっそ、そっちの方がいい

かもしれないしね」私は小さく笑ってごまかしてみせた。ところが

アンリは興味津々で私の顔を覗き込んだまま、運ばれてきたコーヒー

にさえ口をつけない。私は仕方なく白状した。「いや、実は、あの

プルーストの長たらしい本を読み始めたら、いきなり、ひらめいた

というか、あの、プルーストの生家のあるイリエ=コンブレーの家

と近所に住むスワンの家が、あの絵の中に表現されているんじゃな

いかってね、実によく似ているような気がしてね」アンリはげら

げらと笑い出した。「なるほど、いや、笑って悪いけど、まあ、

よく聞く話だよね。小説の中では家の外見もインテリアも詳細に

書かれていないから、自分の祖父母の家がそのモデルになっていた

とか言う人もいるし、架空の家もたくさんあるし、模型さえある。

あの本は空想の世界で遊んでしまいたくなるらしい。まあ、よくあ

ることだよ、ははは」私はアンリに言ったことを後悔した。

と同時に、アンリにあの絵のことを相談する気分ではなくなり、

私は話題を変えようと思った。


            


 「ところで、今日は何時までいいんだ?」「暇だよ。1日ね」

「だって、メールでは朝の時間しかないって」「まあ、時間を

有効に使う手段だよ。自分にも相手にもそう言ってね」私はなにか

解せなかったが、こちらだって、暇を持て余して、呼び出したの

だから文句は言えなかった。


            


 「それなら相談だけど、君にパリの観光案内をして欲しいんだ」

「僕に?」「ああ。実は、パリ観光したのは、デモに参加した時と、

親戚の結婚式くらいなものだから、」「はあ、なるほど。よくある

ケースだね。安心したまえ、ニューヨークのタイムズスクエアに行った

ことのあるアメリカ人だって少数派なんだから。それじゃ、エッフェル

塔も上ったことがないとか?」「実はそうだ。近く迄行ったことさえ

ないよ。レザバリッドの前は通過したけど」「レザンバリッド?って

なんだっけ?」アンリは真顔で言った。私は驚いて聞き返した。

「ナポレオンの霊廟のある場所だよ。君が知らないなんて、」

「ナポレオン?興味ないからね。だって僕はリヨン出身なんだよ」

「それはそうかもしれないけど」私はなんだか当てにならない観光ガイド

を見つけたような気がした。するとアンリは私の表情を察知して

すぐに言った。


            


 「今日は天気もいいことだし、それじゃ、イケメンおやじ2人、

パリ見物とするか!」それを聞いて私はふき出した。彼も笑いだした。

「いいね。ふたりとも時間があることだし、散歩がてら、てくてく歩いて

エッフェル塔まで行くのはどうだろう?」私もすぐに賛同した。


            


 
「それじゃ、その前に腹ごしらえだね」アンリはすぐに席を立ち、

私も皿を持つとアンリに従った。「ホテルの朝食はいいね。いろいろ

うまそうなものがあって」アンリはバイキングの朝食を眺めながら、

舌なめずりをした。私は悲しいかな、ダイエット中の身だった。

しかし、今朝は二人とも皿いっぱいの食事を乗せて席に戻って来た。



            


 
アンリはテーブルにつくと、私に小さなスープカップのようなもの

を差し出して、「これ、パンにつけて食べたらうまいよ。

セルベル・ド・カニュだよ。リヨン名物の」と言った。

「ああ、あれか、美味しそうだ」私はクリーム状のチーズの中に緑色の

小さく刻んだ野菜が入ったディップをパンにつけてかじった。

「なかなかうまいね」そうして私たちはたっぷりの朝食で腹ごしらえ

をするとパリ見物に出発した。


            


 
外に出ると観光客や通勤、通学で混み合い始めたルーブルを抜けて、

セーヌに架かるロワイヤル橋を渡り、夏の日差しできらめく川沿いを

ゆっくりと歩いた。そしてオルセー美術館の近くまでやって来た時、

「入るか?」とアンリが聞いた。「いや、興味ないね。私の妻は大好

きなようだけどね」と私が言うと、「僕もだ」とアンリは言った。

「だって、絵画もアートもパリ中にあるじゃないか!美術館にわざわざ

足を運ぶ必要なんてないさ」と彼は言い、私たちは行列を横目で見

ながら、セーヌ川沿いを歩き続けた。そしてブルボン宮、国民議会下院

の壮麗な外観を眺めながら、レザンバリッドの前の芝生の広場まで行って

やっと腰を下ろすとしばらく休憩した。


            


 アンリは、「中に入るのはまたにしよう、時間がもったいないぜ」

と言った。彼は私と同様に時間なんて売るほどあるにもかかわらず、

歴史ある建物や教会、美術館など、過去の遺産にほとんど興味を抱かな

い。それは彼が数学には興味があっても、歴史には興味がないのかも

しれないと私は常々思っていた。


            


 そして面倒くさがりのおやじふたりは、道々、多くの他のフランス人

同様に、自転車専用道を作ったパリ市長の批判、マクロン大統領の

移民政策批判など、誰もがするような話題に終始した。そんなとりとめ

のない会話を交わしながら、てくてくと歩いてゆくと、ようやく目の前

にエッフェル塔が現れた。


            


 広々とした芝生のシャン・ド・マルス公園を歩きながら、私は

「やっぱり綺麗だね、こうしてみると」と言った。「周囲に高いものを

作らないように規制しているからいいように見えるんだろう」と

アンリが言った。「登ろうか?」「カフェに行くなら、その価値

もあるね」とアンリが返した。「登るには結構、待ち時間があるけど、

時間は大丈夫か?」私は冗談交じりにアンリに聞くと、「相変わらず、

毎日忙しいけど、今日はなんとか時間を作って来たから、辛抱強く待

とうじゃないか!」と相変わらずニヒルな返事が返した。そうして二人

のイケメンリタイヤ組はエッフェル塔をバックに、代わる代わる相手の

写真を撮った。


            


 
「ええ~?私はこんなもんか?」私はスマホの中の自分の姿を見て

ちょっと愕然とした。「もっと若いつもりでいたのか?」アンリは

ゲラゲラ笑い出し、私も笑った。私たちはその日、70才を目前に

して、まるで子供のようにパリ見物を楽しんでいた
.。




  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 アメリカ人でセントラルパークに行ったことのない人
日本人で東京タワーに登ったことのない人、
フランス人でエッフェル塔に登ったことのない人
いっぱいいるようです。
私は日本人ですが、上の3つ全部ありません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年8月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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