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リサコラム
連載775回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第12話

「バトビュスで」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



バトビュスの
乗り場から
ほど近い
ゆるい
登り坂
右手に
そのホテルの
ブラッスリーは
100年も前から
そこにあるようです
赤いテントとピンク色の
メッシュのペーパーウィッカー
の椅子が目印です。地元の人々が多く
集まるために
顔見知りが
多いようです。
まだランチまで少々間がありそうですね。


 







        

 第12話 「バトビュスで」




  

 私たちはエッフェル塔の真下までまたてくてく歩いた。そして塔の下

のガラスのフェンス越しにとぐろを巻くように並んでいる人々の行列の

最後尾に並んだ。列の人々は海外からの観光客、それと私と同じく田舎

から出て来てパリ見物中の人々のようだった。それを見ていると、さっき

まで少年のように盛り上がっていた気分は一気になえた。


            


 「やっぱりやめようか?」私が言った。「いいよ」アンリが言った。

「この5分間で約5m進んだから、この行列の長さがおよそ300mと

すると、つまり、」「わかった。やめよう」私は数学者に待ち時間を計算

されるまでもなく、気持ちはとうにギブアップしていた。「予約すべき

だね、登りたければね」というアンリに「予約?そんな暇はないね」

と、暇しかない私は言った。「それに塔に上るだけで、€19.7も

らとられるんなんて、ばかばかしいしね」アンリは辛抱強く待とうじゃない

かと言った割には、私にすぐに同意した。そして何の未練もなく、

列から出ると、公園の入り口方向に歩き出した。


            



アンリとエッフェル塔に登らないなら、この先も登ることはないだろ

う。さらに、新しもの好きなくせにその他大勢に嫌悪感を示す個人主義

を標榜する妻と、エッフェル塔登山をわざわざ予約してまで登るなんて

ことは想像もつかなかった。私は後ろ髪を引かれる思いもあったが、

割り切りのいいアンリの後を追った。アンリはサンジェルマン・デ・

プレを歩くルートでまた同じブラッスリーに引き返えそうと言った。

しかし、私はすでに朝から2時間も散歩していたのだから、もう歩く

のには正直、疲れていた。


            


 「バトビュスに乗ろうか?」私は水上バスで戻る案を提案した。

「ああ、いいね、そうしよう。そっちが疲れなくていい。

それに€19.7節約できたからね」アンリはすぐに水上バスの乗り場

に向かって歩き出した。しかし、美術館だけでなく、どこに行っても、

パリは並ばねばならない。大した行列でなくても、田舎暮らしが長かっ

た私はすぐに何かができないことにいらだちを覚える人間になっていた。

その点、アンリは私より多少、都会人と言えるのかもしれないが、並ん

でいる間も、のべつ幕無しにいろんな不満をぶつぶつつぶやく。

政治批判、社会批判、議員や大統領の悪口、そんなものを言ったところ

でお上に届くわけでもないのだが。そうは言っても集会やデモなんかに

参加するつもりはまるでなく、「あんなの、時間の無駄だよ。そんな時

間があれば、ミステリー映画でも見ていた方がましだね」と言う。


            


 ようやく私たちはバトビュスの2枚のチケットを買って乗り込んだ。

「エッフェル塔から乗ったのは初めてだ」アンリが言った。「僕はバト

ビュス自体が生まれて初めてだけどね。パリでこんなゆっくりした時間

がなかったし、南にいるころは、観光客が乗るものだと思っていたからね」


            


 アンリと私はバトビュスのデッキに出たが、アンリは、相変わらず

よくもまあこんなにあらゆることに文句をつけられると思うほど、絶え

間なく話し続けていた。私は聞いているふりをして涼しい風に吹かれ

ていた。


            


 「なあ、新しい塔はどう思う?」私は話題を変えたくて、遠くに

ノートルダムの塔が見えて来たとき、アンリを遮った。「さあ、僕は

無神論者だし、リヨン出身だからね、どうって感覚はないけどね。同じ

ように修復するより、斬新なアイデアで改造した方がよかったんじゃな

いかな?天まで届く細い尖塔の案もよかったし。あれなんて21世紀風

だと思うけどね」アンリは左手の人差し指をピンと立ててノートルダム

の塔の上に重ねて見せた。


             


 「僕は、屋根全部がクリスタルで、ガラス張りの庭園にするってい

う、イタリア人デザイナーのがよかったな。きっと夜はライトアップさ

れて美しかっただろうね」「ああ、あれもよかったね、マクロンはコンペ

で決定した中国人二人の案を無視して、大統領権限で元通りに修復する

と決めてしまってさ。そんなことになるんだったらコンペなんかやらな

きゃよかったんじゃないのか?時間と経費の無駄だよ。それにコンペに

参加した人たちもいい迷惑じゃないのか?」アンリはまたマクロン批判

を展開し始めた。「それに、フランス人の魂の拠り所なんて言うけど、

本音は観光収入の拠り所じゃないのか?まあ、僕はリヨン出身だしね、

蚊帳の外だけどね。それより、いったいどれだけかかかるのかだよ。

寄付で集めた€8億の半分を使って修復したら、残りを難民支援に振り

分けたほうがいいんじゃないのか?職と住居を与えるとかにね。フランス

は観光客に優しく、難民に辛いっていうじゃないか。そのイメージを

払拭するいい機会だったのにね」


            


 「私だっていつテント生活になるかわらいないけどね…。妻はあの通

り、パリジェンヌを気取ってパリの暮らしを謳歌しているが、私はまだ

パリになじんでいるとはいえないし。たった1枚の絵だけ持って、他の

すべてのものを焼き捨てパリに移住して来たわけだから、彼らとかわら

ないよ。家と多少のたくわえがあるだけでね。この分じゃ、私がこの世

を去るのが早いか、そのたくわえが底をつくのが早いのかの競争だよ」

私は川面を白く泡立てる波を見ながら、ノートルダムの炎上で焼け落ち

たステンドグラスと私自身の思い出の喪失を重ね合わせていた。


            


 「かたちあるものはいつかなくなる。でも思いは残る、それでいいん

じゃないのか。あの絵の中に何か重要な思い出が残っているから、

あれだけ持ち出したんだろう」アンリは私の背中をポンポンと軽く

2,3回叩いた。


            


 「まあ、そうだろうけど…」私は言葉を濁したままで黙っていた。

アンリも黙って、植物園とパリ市庁舎が遠ざかってゆくのをじっと見

ていた。そして私たちは次のルーブルでバトビュスを降り、階段を上

ると、ルーブルの門をくぐり、あのブラッスリーの方へと向かって無言

で歩き出した。     



   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
ノートルダム、
2024年の完成を目指して修復中のようです。
正面の美しいバラの窓は奇跡的に難を逃れたようですが
日本で言えば、法隆寺のような感覚でしょうか。
法隆寺には1度しか行ったことがありません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年8月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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