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リサコラム
連載778回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第15話

「いい部屋をひとつ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



フレ
ンチ
窓の
から
ルーヴルが
見える部屋
男性がひとり
読書をしている
自分の失われた時を
求めているかのように




 







        

 第15話 「いい部屋をひとつ」




  

 黄金色に染まった街のカフェで、私はやっとビールにありついた。

ちょうどアペリティフが始まった時間帯で、外の小さなテーブルでは若い

人たちが仕事を終えて喉を潤しながら会話に花を咲かせている。


            


 
これから映画か、ショッピングか、あるいはオペラでも見に行くのだ

ろうか?田舎生まれ、田舎育ち、田舎で仕事人生を終えた私にはそんな

おしゃれで愉快な時間はなかったが、他人と他愛のない噂話や不平不満

をしゃべって時間をつぶすくらいなら、一人、古本屋で過ごしたり、

まっすぐに家に帰って書斎で静に本を読んだりする方が好きだった。

その気持ちはもちろん今も変わらない。それどころか、やっと仕事人生

から解放されて思い描いてきた退職後の第二の人生のシナリオ、ユング

フラウを見ながらロッキングチェアに揺られ、『失われた時を求めて』

の時間とはならなかった。その穏やかで静かな時間と引き換えに、

騒々しい世界屈指の観光地、パリという街で余生を送ることになってしまった。


            


 
私はただ単に、自分の不本意をなだめるために、持参した唯一の絵と

組み合って、私の人生と絵の間に潜んでいるかのような謎を作り出し、

その謎解きをしようとしただけなのかもしれない。そうして理想の生き方

とは違った理由を正当化しようとしたのだろう。


            


 
私は、口角泡を飛ばしながら意見を言い合う若い男女2人を見やりな

がら、あのように、妻に反論し、反駁し、意見することをよしとして来

なかった自分の生き方がほんとうによかったのだろうかと自問した。

口げんかになりそうな予感を感じると、ウイリアム・ジェームスの

習慣の哲学やアドラー哲学のどちらか都合にいい方を持ち出して、常に

私が折れて来た。それこそが大人物のような気がしていたのだ。しかし

それがために、私には自分の不満をさらけ出せるパディントンという

相棒が必要になった。クマのぬいぐるみに語り掛けて憂さを晴らすのは

子供だけではない。大人だって、いや、男性はきっとみんなそんなペット

やビールやワインが必要なのだ。そんなことを思いながら、私はしばらく

ぼんやり通りを眺めていた。


            


 
パリの街は常に我先に行かんとする車のクラクションがあちらこちら

で鳴り響き、その間隙を縫うように、
最近やたらと増えたと言われる

キックスケーターがすり抜けて行く。もう、交通ルールもあったものじ
ゃない。郷に入っては郷に従えと
言われても、私はまだこの街にはなじ

めないと感じていた。


            


 
その時、ある言葉が私の頭にひらめいた。そうか、「家出」しよう。

私は70歳という年齢を前に、まだ一度も家出というものをしたことが

なかったことに気づいた。と同時に、「もう、自由なのだ」という認識

が浮かんできた。


            


 私は支払いを済ませるとすぐにカフェを出た。次に私の頭に浮かん

だのが、「手っ取り早く街を知るには、タクシーに乗れ」ということだ

った。私は、カフェの外に出るとすぐにタクシーを拾った。


            


 「市庁舎に」私はシートにおさまるとすぐに運転手に伝えた。

「わかりました」そこで私は「左岸からゆきたいんだが」と付け加え

た。右岸から右岸に移動するのに、なぜ、左岸からゆくのかとバック

ミラーの中で彼は不思議な表情を浮かべると「パリは初めてですか?」

と聞いた。「いや、20区に住んでいる」と答えると、運転手は

「それではどのようなご用で?」と聞き返した。私は「ただ、なんとな

く、パリの街をドライブしたくて」と答えた。彼はにっこり笑うと、

「それなら、凱旋門を抜けて橋を渡って左岸へ出て、レザバリッド経由

でどうですか?ライトアップされてきれいですよ」と言った。私は

「おまかせするよ」と言ってバックシートにもたれかかった。


            


 すでに日は暮れて、中世の建物に灯りが灯るとパリの街はまた違う

妖艶な魅力を見せ始めた。「ムッシュ、ついでにパンテオンも寄りま

すかね?」「いいね。霊廟巡りといこうか」と私は賛成した。左岸に

出る橋を渡ると、左右の芝生の公園を突っ切るように広い道に出る。

その突き当りにレザンバリッドの建物が見えて来た。


            


 
「うつくしいね」私は感嘆した。「ええ、美しいですね。ここは何度

通っても、毎回、感動しますよ。私はね、ナポレオン1世のファンで

してね、いや、子供の頃から。だって、男の子にとって、英雄と言えば

ナポレオンですよ。机の前に、あの、アルプス越えの絵を貼ってました

からね。もちろん、現物も見に行きましたよ。すばらしい迫力でした

ね。彼はコルシカ出身の一兵卒でしたけどね、私は7歳でアルジェリア

から両親とフランスに移住して来ました。父が初めて連れて来てくれた

パリがここ、レザンバリッドでしたからね。ナポレオンはずっとフラン

ス語が下手だったらしいですね。私は学校で習ってましたから、ほとん

ど不都合はなかったのですけど、両親は最初、けっこう苦労していまし

たね。だからいい職業につけず、朝から晩まで働き詰めで、私たち兄弟

3人を育ってくれたんです。私も40年タクシー運転手をやっています

けどね、まあ、パリは隅から隅まで行きましたね。それに、いろんなお

客さんを乗せましたよ」パリのタクシー運転手よくしゃべることで有

名だが、その例に漏れず、彼も饒舌にしゃべり続け、疲れ切っていた私

は適当に相槌を打ちながら、軽く聞き流しながら観光客気分でパリの夜

景を静かに楽しんだ。


            


 
そしてパンテオンに来ると、「ちょっと降りますか?」と彼は聞い

た。「いや、そのまま市庁舎へ」。私はまたシートにぐったりと背をも

たせ掛けて、輝くばかりに美しい19世紀のルネッサンス様式の市庁舎

を眺めた。「ちょっと降りてみられますか?」運転手はまた聞いたが、

「いや、結構。それより、このままルーヴル近辺のホテルまで連れて行

ってもらえないか?」と私は言った。


            


 
「かしこまりました。」どう見ても私より年上に見える運転手はそれ

以上聞かず、ささっとスマホを操作すると、部屋の空き状況を調べてすぐ

にホテルに連絡を取って私をルーヴルの近所のホテルまで連れて行って

くれた。


 
「このホテルなんてどうです?窓からルーヴルが見えますし、最近

リニューアルしたから部屋がかび臭いなんてことはありませんよ。自信

をもっておすすめできますよ」と笑った。私はそのくったくのない、

しわだらけの笑顔を見て、私には他人のことまで心配する精神的な余裕

が欠けていることに気づいて、愕然とした。


            


 「ありがとう」私は多めにチップを払って、タクシー運転手に礼を

言った。


 それからすぐにホテルに入ると、カウンターで私を待っていたにこや

かなマダムに部屋を申し出た。「家出人、男性一人、ルーヴルが見える

一番いい部屋をひとつお願いします。




   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.2
 
物思いに耽る男性の顔の絵に、
とても時間がかかりました。
70前には見えませんか?30代にも見える?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年9月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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