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リサコラム
連載791回
      本日のオードブル

5つのクリスマス

第2話

「バーの二人」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




二人
を除いて
誰もいない
夕方の静かなバー
2mを越える大きな
クリスマスツリーからは
白い光が放たれています。
この若い二人の男女は暖炉で
あたたまりながらあるミステリー
を読み解こうとしているようです。
それでは地獄耳をすませてみましょう。



 


 第2話 「バーの二人



 「吉里吉里人、って知ってる?」やすこは、白い両手をオレンジ

色の炎にかざしながら、テーブル越しの男性に微笑みを送った。


            


 
「『吉里吉里人』?なんだっけ?クリスマスにひとりきりで過ごす

人のことだっけ?」やすこはけらけらと声を上げて笑った。「それは

クリぼっちでしょ?」「ああ、そっか、そっか、でも、いきなり変な

ことを言うね~。それで、え~と、そのきりきり、って何なの?」

みのるは一瞬、やすこのオレンジ色に染まったあどけない横顔とは

裏腹のものをちらっと垣間見た気がした。


            


 「吉里吉里人はもう、ずいぶん前からウィキに入っているのよ。

知っている人は知っているわ。まあ、それはさておき、おかわり、

何にする?」やすこはやさしくほほえみを浮かべながらみのるの顔

を覗きこむと、みのるは間髪入れず、「お汁粉!」と答えた。


           


 
Ok, but, It’ll become thirds, right? これで3杯目だよ」

やすこはちょっと心配げな顔でみのるを見た。「大丈夫に決まって

るさ、僕、こんなに小っさなころからお汁粉で育ったんだから」

みのるは座った自分の腰のあたりに手を置いて小さな子供を示し

た。「なるほどね、そうか、クリスマスでもシャンパンじゃなくて、

おしるこなんだね」やすこはまるで5歳の子供に話しかけるかのよう

にみのるの方に身をかがめながらまた、やさしくほほえみかけた。


            


 すっかり日が落ちて、照明を落としたバーには静かなクリスマスソ

ングが流れている。しかし、不思議なことに12月というのに、人気

のバーにはやすことみのる以外、誰も客がいなかった。


 実はね、昨日は想像学の講義だったの。それで教授がとてもおもし

ろい課題を出したのよ。「総合学?」「ううん、総合学じゃなくて、

想像学」「想像学?聞いたことないな~」みのるはおしるこを、

ずずっと音を立ててすすってから、やすこの方に首を傾げた。


「そうだと思う。先生の造語だから。想像力を学問にしようという

チャレンジらしいわ」「なるほどね、それは面白いね」「それで、

具体的にどんな授業なの?」みのるは興味を惹かれた。「まるで謎解

きゲームみたいなのよ。いうなれば、アガサクリスティーとかシャー

ロックホームズみたいな、古典的な感じのミステリーを話したあと、

その謎解きを課題として学生たちに提出させるの」「へ~、変ってる

ね、すっごくおもしろそうだけど」「でしょ?毎回、立ち見も出るく

らいの盛況でね。すり鉢状の教室にひしめいている学生たちが息も止

めているかと思うくらいにし~んとして聞いているのよ。ストーリー

は全部、先生の自作フィクションなんだけど、それが、実に、」やす

こはじっとガラス越しの暖炉の火を眺めた。それから、みのるの顔を

きっと見ると、「生々しいのよ~!」と脅すような声を上げた。みの

るはビクッとした。「それって、もしかゆうれいとか怖い話なの?」

「ううん」やすこは短い髪の毛を左右に振るとゆっくり話し始めた。


            


「怖い方じゃなくて、摩訶不思議な方。昨日のはね、31人しか

住んでいない過疎の村に、堅固な城壁で囲まれた家が建築された話

なの。でも、村人は家だと思っていたのに、門にはホテルという看

板が出されたのよ。それからしばらくたった12月の1日から、村

人が毎日ひとりずつ、そのホテルという家に招かれてお泊りする話

しなの。でも、泊まった人はその内容は誰にも語らず、そして次々

と毎日、その城壁の家に招かれて美味しい食事をいただくのよ。

でも、最後の人が招かれた後、その門は閉じられたままで開かなかっ

たんだって」


            


 「へ~、気味悪いけどどうゆうことなの?誘拐されたってこと?」

「そこらへんを解き明かすのが目的、つまり想像学なのよ」

「それで答えは出たの?」みのるは身を乗り出した。

「実は答えは一つじゃないの。つまり、数学みたいに解がひとつ

ではないということなの。どんな解釈もできるから、ユニークな

解釈をした人が高得点を得られるということよ。次の授業までに

想像力を駆使して、深層に迫る説を展開するってことなの」やす

この顔はある種、知的なひらめきを得た人の表情に変わっていた。

みのるはその横顔を見ながら、冷え始めた3杯目のおしるこを飲

み干した。


            


 「それで、やすこちゃんはどう思うの?」みのるはふ~と息を吐き

ながらお腹のあたりをポンポンとたたきがら言った。「わたしはね」

やすこはそこで意味ありげな間を置いた。そしてみのるのクールな広

い額を見つめた。


            


 「ひ、み、つ、はっ、はっ、はっ~」「いゃ~、それはないよ。

どこかで聞いたセリフだけど、それは、ないよ、ここまで話したの

に~」「ふふふ、それじゃあね、まずは、きぬちゃんの説から紹介

するわね、これもなかなかのものだから」「へ~、きぬちゃんの

ね、いいよ」


            


 やすこは居住まいを正すと、「きぬ説によれば、最後に招かれた

女性がその城壁の家の持ち主の男性が探していた婚約者の女性だっ

たというものなの。持ち主の男性は30年前に戦死したって思われ

ていたのよ。でも、戦地の女性と恋仲になって結婚して家庭を持っ

ていたから、戦死したことにして、現地で何不自由なく、ずっと幸

せに暮らしていたのよ。でも、ある日、風の便りで、まあ、今で言

えば、SNSを経由してね、その女性が未婚でずっとその男性を待

ち続けていることを知ったというの。それを知ると男性はもう、居て

も立っても居られなくて、黙って財産の半分を持って生まれ故郷に

帰って来たそうなの。そして、彼は考えついた。名乗る前にこっそり

家を建てて、それから彼女に再プロポーズしようと。いわば、サプラ

イズね、でも、あまりに小さな村だからきっとすぐに、自分の身元も

知られてしまう。さらに現地の妻と子供たちが探しにやって来るかも

しれない。彼はそれを恐れて高い城壁のある家を作ったんだって。

そして、12月1日から年長者ひとりひとりを家に招いて、村人と仲

よくなるふりをして、情報収集をしながら、12月31日目に31

番目の当時15歳だった婚約者と30年前ぶり対面することになっ

た。そこで彼はすべてを話し、彼女の意思を確認した上で、男性は

その女性と住むことに決めて、お正月を迎える、めでたしめでたし

ってこと!」


            


 「なるほどね、きぬちゃんが好きそうなロマンチックな説だね~、

なかなか想像力、たくましいと思うけど、ハッピーエンドなのかな~

?それで、やすこちゃんはどうなの?教えてよ~」「私はね、」

やすこは一呼吸おいてから、暖炉で温めていた手をゆっくりと膝

の上に置いた。


            


 「最後に招かれた女性が、その家のオーナーだったと思う。そう考

えるとつじつまが合うでしょ?そんな過疎の村なら、年功序列が厳し

いから、まずは100歳の長老から順番に懐柔して行ったのだと

思う。そして、ここはホテルだからまた来年の12月1日から長老

を先頭に順々に家に招いて食事と心地よいベッドを提供すると

約束するのよ」


            


 「ははは、何のため?そんなのありえる?」「あり得なくてもい

いのよ、とにかく、想像学だから自由に想像していいってことだ

もん」「ふ~ん」みのるは腕組みをした。僕なら、映画監督をす

るよ、『過疎の村の31人』なんてタイトルの映画を撮るよ。

ドロドロの人間模様を展開させてね。そんなの流行らないかな?」

やすこは、1回大きくうなずくと、また手のひらを暖炉に当てた。

そしてゆっくりと手のひらを回転させた。


            


 
「私はその31番目の女性が世界を変えることになるのだと思う。

過疎の村でも、別世界を作り出せばきっと他の人も、私もあんな

生活したい、どうしたらできるの?と考えるだろうし。だって、

歴史は示しているわ。城壁の街、そして、未だその発祥から消滅

までが謎に包まれている、マヤ文明、高山の上にできた文明よ。

それにアルハンブラ。城壁の街はつまり、その中で独自の進化を遂

げて、ガラパゴス化するわけでしょ。過疎の村の31人をきっかけ

に独自の文明が生まれるってことなの。つまり、日本国政府から独立

した吉里吉里国の誕生なのよ。吉里吉里国は、東北の寒村が独立国を

宣言するという井上ひさしの小説だけど、例えばアマゾンの奥地と

か、モンゴルとか中国の山間部なんかにそんな独立国家みたいのが

存在しているんだと思うわ。つまり、私の説はね、過疎の村に独立

国家がはじめて誕生した物語っていうことなのよ、ふふふふふ~」


            


 
やすこの不気味な高笑いが、静かなクリスマスソングの流れる

バーに響き渡った



   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 大変失礼ながら、朝ドラにはまりすぎて
主人公をやすことみのるにしてしまいました。
さて、朝ドラとラジオでカムカムエブリバディ、
続きはいかに?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年12月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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