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リサコラム
連載792回
      本日のオードブル

5つのクリスマス

第3話

「ローズラッシュ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




バラ色のシーツの上で
眠る女性は誰なの?
手には本を持って
眠る傍らには
ツリーが。
謎めいて
香しい


 


 第3話 「ローズラッシュ」



 「桃源郷って、信じる?」Ruiは友人のYukieとクリスマスのイルミネ

ーションが輝く通りをカフェのガラス越しに眺めながら切り出した。


            


 
「桃源郷って、何?リゾートってこと?」「リゾートは人間が作っ

たものでしょ?でも、桃源郷は精霊が作ったものなの」「セイレイ?

ああ、精霊ね、まっさか!」Yukieは笑い転げた。しかし、Ruiの真剣

な表情を見て、Yukieは黙った。


            


 
「実はね、今日の想像学の講義のテーマがその桃源郷だったのよ。

まあ、作り話だと思って聞いてくれる?」「いいわよ」Yukieは興味

をそそられたような表情でRuiの目をじっと見つめた。Ruiは手元の薄

い本を開くと情感を込めて読み始めた。


            


 
「野鳥の合唱がこだまする山の中で、一人、道に迷った女性が大き

なリュックサックを背負ってあてどもなく歩いていた。大学の山岳部

数人で山に登り、そして下山する途中、はぐれたらしかった。女性は

しばらく山道を歩き回ったあと、ようやく、深い谷底を流れる川にか

かる吊り橋を見つけ、ほっとした。人家の匂いを感じたからだった。

しかし、ほっとしたのも束の間、渡り始めると、その橋は半分壊れか

かっていることに気づいた。一歩踏み出すごとに橋が立てる不気味な

きしみ音は彼女の心臓に突き刺さった。しかし、もう引き返すのも恐

ろしかった。


             


 
ようやく渡り切ったところで、彼女は家らしきものを見つけた。

誰かいるかもしれない。道を尋ねてみようと思った彼女はその古び

た家に近づくと、「すみません」と外から呼びかけてみた。


しかし、返事はなかった。彼女は裏庭に回って声を掛けてみたが、

やはり返事はなかった。「出かけているのかな?」彼女は雨戸が閉じ

られたその隙間から中を覗きこんだ。その時、女性の背後から声が聞

こえてきた。「誰も住んでいませんよ」女性はびっくっとして振り向

いた。そこには彼女と同い年くらいの女性が立っていた。


            


 「ああ、そう、そうですか」迷い人の女性は頭を下げた。

「実は、下山の途中で道に迷って、駅のある町までの道を教えていた

だければと思うのですが」「ああ、それは、」そう言ったまま、村の

女性は何か考えるようなそぶりを見せた。そして、「日が暮れるまで

に町にたどり着くは絶対に無理です」と断言した。「ここからずいぶ

んありますか?」「そうですね。そのリュックを背負って徒歩では、

夜通し歩いても半分くらいしか行けないでしょう。それに携帯電話も

通じないのです」「ああ、なるほどね、そうですか、それならこの辺

りでテントを張れるような安全な場所を教えていただければ」と女

性が言いかけると、「安全とは、獣から身を守るということですか?

それとも、森の精霊からですか?」迷い人の女性はくすっと笑ってか

ら、どちらかといえば、獣ですが」と言った。しかし、村人の女性は

笑わなかった。そのかわりに、「もしもよろしければ、もっと安全な

場所があります。この辺りで野宿するよりは、そちらの方が、」と言

った。女性は助かったと言いたげな声で、「そうですか、山小屋でも

なんでも、屋根があれば、食料と水はまだ多少残っていますから」と

いうと安堵の表情を浮かべた。「わかりました。それなら、私につい

てきてください」村人の女性はそう言うと、迷い人の女性をやぶにお

おわれた道をかき分けながら先導した。


            


 道なき道を歩きながら、村人の女性は後ろをついてくる都会の女性

に話しかけた。「この辺りは今から30年くらい前まではまだ数十人

住んでいたようですが、話によると長老の方がいなくなると、村人が

いきなり争いを始めて、それでひとり減り、二人減り、あとは雲散霧

消したように、村人も村落も消えたそうなのです。」村人の女性は村

の不思議な伝承のような話を、後ろをついて来る都会の女性にしなが

ら先を歩いて。そして、少し開けた場所に来ると、村人の女性はいき

なり指笛を吹いた。その透明な高い音色は山々の間にこだまし、都会

の女性はびっくりして、次に何が起きるのかと震える体で後ろを歩き

続けた。


            


 またしばらく歩くと、ようやくアスファルトで舗装された山道に出

た。その時になってやっと都会の女性は、村人の女性がバラ色のほほ

をもつとても美しい女性であることに気づいた。


            


 女性はある大きな木の下でピタリと歩みを止めた。そして、

「まもなく、迎えの車が来ます」と都会の女性に言った。信じられな

いことに、それから3分ほどで、黒塗りの車が二人の女性の前に止ま

った。そして運転手が降りて来て、二人を乗せると走り去った。

その後、その車がどこへ行ったのかはわからない。


            


 1週間後、女性が大学に戻ると、大騒動になっていた。友人たち

や先生もみんな彼女は山で遭難して死んでしまったと思っていたから

だった。しかし、彼女は幸せそうな顔をして、信じられないような

話を始めた。


           


 彼女が山の中で出会った女性と一緒に連れられて行った場所がバラの

花が咲く庭のある城壁に囲まれたホテルのようなところだったというの

だ。そこで彼女は手厚いもてなしを受け、バラの香りのする清潔な部

屋に通され、バラの花びらを浮かべたバスタブに浸かり、そして、

バラのデザートを食べ、バラ色のシーツで眠ったと言った。そこで

3日間か4日間過ごし、彼女は町までリムジンで送り届けられ、

無事に家路ついたというのだ。


            


 しかし、誰も彼女の話を信じなかった。きっと山の中をさまよい歩

き、倒れていたところを誰かに助けられて、なんとか帰りついたのだ

ろうが、きっと妄想を見たのだろうと思った。しかし、彼女のリュッ

クにはバラの花びらが数枚挟まっていたし、衣服には汚れもなく、

着ていたシャツにはバラの香りさえ漂っていた。その後、何人もが

その山を捜索したが、そんな城壁のあるホテルもバラの庭も発見する

ことはできなかった。」


            



 Ruiはパタンと本を閉じた。そして首をかしげるYukieに向かって

「どう思う?」と聞いた。「作り話でしょ?」「それがね、そうとも

言えないのは、それから20数年後、その村はバラの栽培が盛んにな

って、今ではバラ園がたくさんあるらしいのよ。その桃源郷は今でも

どこかに存在するんじゃないかって、いきなり、ゴールドラッシュな

らぬ、ローズラッシュが起きてるんだって!」Ruiはにっこり微笑む

と立ち上がり、「さあ、クリスマスだし、私たちも桃源郷を探しに行

こう!」とYukieを急き立てた。そしてふたりはイルミネーションと

人混みの中に消えて行った。





   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 今回もRuiとYukieというカムカムエブリバディ、の
登場人物の名前をお借りしました。
バラ色の桃源郷、あれば行ってみたい。
なければ自分の家に作りたい。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年12月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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