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リサコラム
連載794回
      本日のオードブル

5つのクリスマス

第5話

「On The Sunny Side Of The Street」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




小雪舞う
パリの街の
アパルトマン
おや、ツリーが
そして
誰かトランペッットを
演奏しているみたいですよ。
早速、耳を傾けてみましょうか?


 


 第5話 「On The Sunny Side Of The Street」



 落胆しました。そして、がっくりとうなだれたまま、非常階段の

方に歩き出しました。


            


 いえ、そのつもりだったのです。しかし、現実は手も足も氷のよ

うに冷えて固まったまま、他人の手足のように動かないのです。それ

もそうでしょう。零下2度の寒空の下、私はふきっさらしのビルの

屋上で2時間もじっとしていたのですから。パリの冬は残酷にも私

の擦り切れたスーツを嘲笑うかのように骨の髄まで浸透していまし

た。私は嫌でも子供の頃に読んだ物語のあるシーンを思わずにはい

られませんでした。それは少年ネロとおじいさんが深い雪の中、食

べ物もなく今晩のねぐらを求めてさまよい、やっと教会までやっと

たどり着いた時、その扉にはびくともしない錠がかけられていたと

いう衝撃のあの場面です。おじいさんは、去年までは誰でも中で寝

泊りできたのにと、最後の落胆の吐息を吐いて、その晩、凍死しま

す。この世には腹いっぱい食べすぎて寿命を縮める人間たちがたく

さんいる一方で、明日の食べ物に絶望して飢え死にする罪なき人間

がその何倍もいるのです。


             


 
それでも、都会なら、そしていつものクリスマスなら、余った食糧

を分けてくれる親切な人たちがいたのですが、クーブル・フとやら

で、家々のドアも固く閉ざされ、じっとひきこもっていました。家族

だけで温かな食事をしているのでしょう。それは、残酷なことに私た

ちにはおこぼれさえ回ってはこない結果をもたらしました。


            


 
だからクリスマスシーズンだというのに、レストランもバーも午後

8時前には閉店し、裏口のドアはそれ以降開くことがありませんでし

た。それでも、私には秘かに当てがあったのです。それは私のいとこ

のルイが住んでいる邸宅です。そこに行けば、彼が私を招き入れてく

れて、燃え盛る暖炉の前に座らせ、ブランデーが染み込んだケーキに

コーヒーを出してくれるだろうという当てにはならない当てでした。


            


 
ルイと私は同い年で、子供の頃は今のように服を汚して一緒に遊ん

だ仲でもありました。しかし、彼はトランペッタとして有名になる

と世界中を飛び回るようになりました。たまに電話やメールのやり取

りをしていたことはあったのですが、そのうち私のことなどはすっか

り忘れてしまったようでした。その間、私はと言えば、普通の庶民の

生活に嫌気がさし、正道から脇道にそれてしまったのです。すると、

まともな職業にはつけず、とうとうホームレスになり、人生のどん底

を味わいました。そんな時、私はルイがこのパリにいて、高級住宅地

に住んでいることを知ったのです。


             


 
その翌日から私はルイのアパルトマンの玄関脇で彼が帰って来るの

を辛抱強く待っていました。雨の日も嵐の日も毎日、毎日です。しか

し、ある日、私はアパルトマンの門番に見つかり問い詰められまし

た。それでも、私は度胸だけはありましたから、胸を張って事情を

説明すると、門番は悪い人間ではなかったようで、私の話をほぼ、

まともに聞いてくれました。彼は、ルイは12月28日まではコン

サートツアーで飛び回っているから、29日の夜にしか帰ってこな

いと教えてくれたのです。


            


 
私は子供時代、誰とでも仲良く、気軽に話ができた人気者のルイを

思い出しました。きっとあの性格は変わっていないはずだと。だか

ら、天と地とも言えるほど住む世界が違う、薄汚れた私だって、昔

のよしみで、いや、いとこ同士ということで、さらには子供時代の

遊び仲間ということで、大理石のエントラストに招き入れてくれる

はずだと信じたのです。それでも、一抹の不安がなかったわけでは

ありませんでした。


            


 
第一に門番が嘘をついている可能性がありました。29日の夜より

前にルイをこっそり裏口から入れて、私に会わせないようにするとい

う可能性と、ルイの警護をしているガードマン兼、運転手が私を追い

払う可能性、そして、これだけは信じたくなかった可能性が、ルイ本

人が私を追い返すということでした。それでも、長年、このホームレ

スを続けてきた私はどうやれば門番にうまく取り入れるかの術は身に

つけてきたつもりでした。だから、第一の、門番が嘘をついていると

いう可能性はないと思いました。そうなると、やるべき作戦はルイの

ガードマンに取り入ることです。簡単な方法は、アパルトマンの手前

でルイの車の前に飛び出し、倒れることです。しかし、実際に身の危

険を冒しても、ルイのアパルトマンに運び込まれる可能性は低いと思

いました。ドライバーは私がわざと車の前に飛び出して来たことをす

ぐに悟るでしょう。それから救急車を呼ぶでしょう。万一のために。

しかし、私が偽装工作をしたことはおそらくすぐにばれて、救急病院

につく前に降ろされるかもしれないのです。しかし、私はどうしても

3番目のルイが私を追い払うことだけは想像したくなかったのです。


             


 
そして待ちに待った12月29日の晩がやって来ました、午後9時

頃、黒塗りのリムジンがゆっくりと走って来て、アパルトマンの門の

前で待ち構えていた門番の前にぴたりと止まりました。私は俊敏さを

発揮しました。通行人を装って、いかにも偶然のように、「おお、

もしかしたら、ルイじゃないか?ルイ、覚えているか、私だよ、

ロバートだよ、懐かしいな!こんなところで会うなんて!」と叫び

ました。もちろん、その時、私はスーツにネクタイ姿でした。そう

でなければ、ルイのガードマンが私を不審者として、つまみ出すに違

いありませんから。まあ、スーツといっても古着屋のゴミ箱から拾い

上げて来た代物でしたから、もちろん、ヨレヨレでところどころすれ

て生地が薄くはなっていました。それでも夜の灯りではそれとは気づ

かないはずだと思っていたのです。間違いなく、ルイは私と気づいた

ようでした。私にはその瞳のきらめきでわかったのです。しかし、私

の感性は長年の浮浪者生活で鈍感になっていたのでしょう。まさ

に、「貧すれば鈍する」です。


              


 ルイの前に仁王立ちしていたガードマンが私から顔をそむけたので

す。つまり私の発する悪臭にです。私はガードマンにべもなく追い返

されてしまいました。ほとんど丸1年待ち続けたルイとの再会はほと

んど数十秒であっけなく終わろうとしたのです。しかし、そんなこと

では簡単にはあきらめませんでした。もしかしたら、ルイから私にメ

ッセージが届けられるかもしれないとはかない望みを託しました。


             


 
私は建物を見上げてじっと待ち続けました。しかし、1時間経って

も、2時間経っても音沙汰なしでした。私はそれでも諦めきれず、

門番にアパルトマンが見えるビルの屋上を教えてくれるように懇願

したのです。彼は渋々、斜め前のビルの屋上を探しました。私はすぐ

に外階段からその屋上に忍び込みました。



            


 屋上に上がると、パリの街並が一望の下でした。建物の窓にはあた

たかな灯りが灯っていました。そして、半円に張り出したバルコニー

のあるもっとも広くゴージャスな部屋がルイの部屋だとすぐにわかり

ました。そのバルコニーにはまだ片付けられていない大きなツリーが

ありました。しかし、いくら待ってもルイはバルコニーに姿を現さな

いばかりか、その部屋に灯りもつかなかったのです。私の心臓は最

初、どくどくと高鳴り、そして時間が経つに従って、段々と弱くな

りました。


             


 
そしてついに、私も諦めました。その時、私がどれほど落胆の淵に

立っていたかは、固く閉ざされた教会の前に立ったネロとおじいさん

しかわからないでしょう。しかし、凍てついた私の手も足も言うこと

を聞かなったのです。私はその場に倒れ込みました。


            


 
それからほどなくして、私は、しぼり出すようなトランペットの

音色で気が付きました。紛れもなくルイのトランペットでした。

私は四つん這いになって、ルイの部屋のバルコニーを見ました。信じ

られないことにツリーの前でルイがのけぞってトランペットを吹い

ていたのです。それは♪On The Sunny Side of The Street


でした。子供時代に肩を組んでよく歌った歌でした。


            


 それからどれくらい時間が経ったのか、気がついた時は、赤く燃

える暖炉の前のソファにカシミアのガウン姿で寝かせられていたの

です。そして、今度はルイが私だけのために


♪On The Sunny Side Of The Street
を吹いていたのです



   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 カムカムエブリバディご覧、お聞きの方はきっと
お分かりの主人公の名前をお借りしました。
そしてももちろん、タイトルも、
はじめて、ホームレスが主人公の物語を書きました。
とても書きやすかったのはなぜだろうと思います。
さて、今年最後のリサコラム、楽しんで頂けましたら幸いです。
来年も引き続き、拙い物語を紡いで参ります。
ご愛読ありがとうございます。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年12月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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