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リサコラム
連載799回
      本日のオードブル

マダム・シック

第5話

「アンヌ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



淡い
ブルー
グレーの壁
リズミカルに
波打つような
濃いブルグレーの絨毯
アイボリーのベルベットが
ゆるやかにドレープを作る窓辺
白いリネンの
テーブルには
赤ピンクの花
のアレンジ。
少々クラシカルな
ピンクベージュの
ダマスク柄の椅子
清楚でモダンな雰囲気も湛えたダイニングです。


 


 第5話「アンヌ」



 「ボンジュール!」すごい勢いで玄関ドアが開いたかと思うと、

ハウスキーピングの女性と思しき女性が入って来た。彼女は玄関で靴

を脱いで、白いスニーカーに履き替えると、右手を出した。


            


 
「ボンジュール!アンヌです、はじめまして」とにっこり笑った

女性は170㎝のジェニファーを悠々と見下ろしていた。


            


 
「ああ、ボン、ボンジュール、ジェニファーです」

「マダムから聞いています。今日からですね、よろしく」と言うと、

ジェニファーは膝小僧にハープの弦のように空いた穴をまるで前衛芸

術でも見るかのように難解な表情で見つめた。


            


 
「あの、何か?」アンヌはまだじっとジェニファーの膝小僧を眺め

ている。ジェニファーは恥ずかしさで段々と膝のあたりがむずむずして

きた。できれば、どこか、身を隠す場所はないか?しかし、整然として

美しいサロンの中のどこにもそんな場所がないことくらいはさっき、

ピエールが部屋を案内してくれた時にわかっていた。


            


 
「あの、どうかされました?」ジェニファーは恐る恐る尋ねた。

「ズボンは他にお持ちじゃありませんか?あれば、脱いでください

な。後で私が繕って差し上げますから」ジェニファーに急に真っ赤

になって、「ああああ、はい。すぐに履き替えます」と言言終える

が早いか、慌てて自分の部屋に戻った。そしてトランクからごそこ

そと服を引っ張り出しながら床の上に出し散らかすと、グリーンの

デニムを探し当てた。幸いなことにそのグリーンのデニムの他、持っ

て来た3本のデニムはいずれも穴が開いていた。穴が開いていない

デニムなんて、そんなものはデニムじゃないとまで思って来た彼女に

とって、これは予想外の出来事だった。しかし、彼女は急いでパジャ

マ用のジャージのパンツに履き替えると、仕方なく穴の開いた4本の

ニムを持ってアンヌのところに戻ってきた。


            


 「すみません、アンヌ、私の持って来たデニムは膝が破れているもの

しかないんです。なのでパジャマ用のパンツしかなくて」そう言った

ジェニファーのショッキングピンクのジャージのパンツをアンヌはまた

じっと眺めた。手には刷毛のようなものを持ち、部屋中の壁や額縁の

ほこりを取っていた様子だった。


            


 
「それが?変ったパジャマですね。まあ、パジャマなら仕方ないで

すが、この家を守る者としは、昼間から穴の開いたズボンで家の中を

ウロウロさせるわけには、しかし、よりによって穴の開いたズボン

をわざわざアメリカから持って来られたのですか?」ジェニファーは

その叱責するような太い声に震えあがった。


            


 
「すみません。いや、私の地元というか、カリフォルニアと言う

か、アメリカ合衆国と言いますか、一般的にはその、穴が開いている

のがステイタスと言いますか」ジェニファーはしどろもどろのフラ

ンス語で必死の弁明を始めたが、アンヌはそれを制した。「もう、

結構です。私の仕事の邪魔です。後で私が繕って差し上げますから、

洗濯部屋のかごに入れといてくださいな」アンヌは脚立に乗ったま

まダイニングの方を指さすと、命令口調でアンヌに言った。


            


 
「あの、繕うって、もしかして、どんな風にですか?それはちょ

っと」「あっちです!」「あ、はい、はい、こちらのどこでしょ

う?」ジェニファーは淡いブルーの壁のダイニングの方を指さした。

そこはブルーグリーンのマーブル模様の絨毯が敷かれた明るい部屋

でアイボリーのベルベットのカーテンがトロンと窓辺を覆い、部屋の

真ん中には白いテーブルクロスのかかったダイニングテーブルがあっ

た。ジェニファーは白いリネンのテーブルクロスの上に置かれたバラ

の活け込みを眺めた。きっと毎晩、素晴らしいフランス料理が並ぶの

だろうか、もしかしたら、今晩、私はこのテーブルでひとり、執事を

伴い料理をいただくのかしら?そう思うと、先ほどまで萎縮していた

気分がいきなり上昇し始めた。


            


 「そこじゃなくて、そのずっと奥のほう」背後の天井辺りから

もう、聞きなれてきた太い声がした。「はい、この奥ですか?」ジェ

ニファーはアンヌの方を振り返りながら、そっとダイニングの格子の

ドアを開けた。すると、意外にも薄暗い廊下に出た。キッチンらしき

場所はどうやら灯りが漏れている廊下の一番突き当りにあるようだっ

た。


            


 
「毎回、こんな離れた場所から食事を運んでくるのかしら?

まさかね~」しかし、キッチンに入った途端、ジェニファーはさらに

驚いた。広々とした大理石の床に光輝くステンレスの厨房が整然と並

び、キッチンカウンターにはさんさんと光が降り注ぐ、そんな南仏の

リゾートホテルの厨房のような、あるいは、ポール・ボキューズのレ

ストランの厨房のようなアーティスティックな広々とした空間を想像

していたジェニファーの思い込みはあっさりと裏切られた。それどこ

ろかカリフォルニアではもう見かけないような旧式で年代物の狭いキ

ッチンだった。


            


 
「改装する前のおばあちゃん家(ち)のキッチンそっくりじゃな

い?」とジェニファーはつぶやいた。「ほんと?ここでフランス料

理ができるの?料理人はどこにいるの?執事は?」ジェニファーは

デニムを手に持ったままで、あ然としていた。


            


 
「その奥の洗濯部屋の大きなかごです。繕って差し上げますから」

ジェニファーの背中からまた、アンヌの太い声が聞こえた。

「まさか、クマの継ぎ当てなんて、そんなことはしないですよね」

ジェニファーはまた恐る恐る尋ねた。「オー、ラ、ラ、冗談でしょ

マドモアゼル、クマなんて、そんな子供っぽい!ポム・ド・テール

がいいでしょ」アンヌは胸を張ると、「明日の朝までには仕上げて

おきますから安心してくださいな」と言って、ジェニファーのデニ

ムを奪い取ると、かごの中に繕い物を入れ、さっさと掃除に戻って

行った。


            


 
「ポム・ド・テール?何だっけそれ」ジェニファーは嫌な予感を

感じながら、ジャージのポケットからスマホを引っ張り出すと、

ポム・ド・テールを検索し始めた。



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 厳しいハウスキーピングさん。
でも、この家を守るという、心意気がいいですね。
まるでわたしみたい?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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