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リサコラム
連載804回
      本日のオードブル

マダム・シック

第10話

「私のスタイルじゃないわ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ダマ
スク
の壁に
一枚の絵
有名なカフェで
歓談する人々の声も
聞こえて来そうです。
絵の上には木製のレールに
どこかで見たようなショッキング
ピンクのマフラーのディスプレイ
その下には「J」のイニシャル刺繡の
入ったピーコックブルーのクッション
えつ?
「ス・ネパ・モン・スティル?」ですって?



 


 第10話「私のスタイルじゃないわ」





 

最初の1週間、ジェニファーはアンヌにとって怖い生活指導の教官

以外の何ものでもなかった。毎朝、7時ちょうどにスマホの時計と同

じくらい正確に彼女はやって来る。そして午後5時きっかりに、ボン

ソワールと言って帰ってゆく。


            


 
そんなアンヌは流暢に英語が喋れたが、英語とフランス語交じりで

話をし、ジェニファーもほぼそんな感じで返した。そのため、二人に

は意思の疎通がうまくゆかないことも多々あった。


            


 
アンヌは度々「Ce n’est pas mon style

ス・ネパ・モン・スティル」と言った。ジェニファーは、

「それは私のスタイルではない」、つまり、「私の流儀ではない」と

理解した。しかし、最初はその真意がつかめなかった。アンヌは彼女

のアイロンがけの仕方や、掃除の手順などで叱るときによく

「ス・ネパ・モン・スティル!」と言ったが、ジェニファーはアンヌ

を無視してアイロンがけや掃除を続けていると、アンヌは指を立て

て、また、「ス・ネパ・モン・スティル!」を繰り返した。


             


 ジェニファーはとうとう、「OK!アンヌ、わかったわ。でもね、

マダムは南仏の別荘でしょ?だったら、そんなにがんばって、毎日、

床を磨いたり、窓を拭いたりする必要があるの?そんなの無駄じゃな

いかしら?」と切り出した。アンヌはぽかんと口を開けたが、またき

りっとした表情で「ス・ネパ・モン・スティル!」と言った後で、

「だからこそ、普段できない、いろんなことがやれるのよ」と言っ

た。その時の彼女の真剣なまなざしと強い口調にジェニファーはびく

っとしたが、そんなやり取りの間に、ジェニファーは自分のスタイル

や流儀を形成することが、フランスマダムをフランスマダムらしくさ

せているのかもと思うようになってきた。さらに、このあたりは高級

住宅地で、背筋がぴんと伸びたセンスのいいマダムがよく犬を連れて

散歩している。それぞれに独特なセンス漂うマダムの雰囲気はジェニ

ファーの地元では見られないような気がした。しかし、そんなマダム

を横目で見ながらも、「ス・ネパ・モン・スティルね~、私にはそん

なパリのマダムなスタイルなんて、似合いませんしね~」と少々、

自虐的につぶやいてみたりもしていた。


            


 
アンヌのレッスンが始まってから2週間目の朝、アンヌは脚立を持

ち出して、「これからカーテンを外します」と高らかに宣言した。

「カーテンを外す?どうして?」ジェニファーは大きな脚立を抱えた

アンヌを見て言った。「そう決まっているのよ。だって、春だから、

春のカーテンを掛け替えて、この冬のカーテンは洗濯に出すのよ」


            


 
ジェニファーは笑い出した。「まさか、なんで、今頃、カーテンを

洗濯に出すの?クリスマスでもないのに!これで十分ステキじゃない!

壁紙ともぴったり合っているし。それに、4か月もマダムは帰って

来られないんでしょ?カーテンなんてその間にいつだって替えられる

じゃない!それに、私、このサロンのラベンダー色のカーテン大好き

なんだもの!私はこのカーテンがいいわ!」ジェニファーの言外に

は、自分がアメリカに帰国した後、マダムが帰って来られる直前に勝

手にやっておいてという意味が含まれていた。


             


 
アンヌは自分の身長くらいある脚立でドンと床に足踏みさせると、

「ス・ネパ・モン・スティル!」と言った。ジェニファーはその言葉

にすでにうんざりしていた。「アンヌ、そう何度も何度も、私のスタ

イルじゃないと言われても、私の知ったことじゃないし、それにここ

は私の家でもないけどその間は家賃を払って住んでいるわけでしょ?

言わせてもらえば、ご主人様が不在の時は私のスタイルでもいいんじ

ゃないの?だって、半分は私の家でもあるんだから!私はカーテンな

んて替えなくても、このカーテンで十分素敵だと思うし、毎日、カー

テンに刷毛を掛けてほこりまで落としているわけだから、汚れてなん

かいないわよ。まあ、私の実家ではそんなのやらないけどクリスマス

前に急いで洗濯に出せば、60分で仕上げてくれるから、替えのカーテ

ンなんていらないしね。まあ、パリはロスより遅れているから、そん

なスピードクリーニング店なんてないでしょうけどね」ジェニファーは

言った後でしまったと思ったが、すでに後の祭りだった。


            


 アンヌは厳しい顔をして、無言で脚立を窓際に運ぶと私をこちらに

来るように手招きした。そして、アンヌが外したカーテンを下で受け

取るようにとまた無言で指示を出した。さすがのジェニファーもしお

れたバラのように首を垂れてアンヌに従った。


             


 
それから約4時間、二人はサロン、ダイニングから全ての部屋のカ

ーテンを取り外すと、アンヌがクローゼットから出して来た軽めのシ

ルクのカーテンにまた全部、掛け替えた。その間ずっと、アンヌは脚

立の上から指示を出し、ジェニファーは付き従った。最後にアンヌは

ジェニファーに部屋全部の掃除機を掛けるように言った。彼女が掃除

機を掛けている間に、アンヌは手早くすべてのカーテンを畳み終え、

大きな袋3つに詰め込むと、窓の近くに置いた。


            


 
ジェニファーは窓枠も丹念に掃除機で見えないほこりを吸い込ん

だ。そうでなければ、また、「ス・ネパ・モン・スティル!」が飛ん

でくるに違いなかったから。彼女はいつ終わるともしれないカーテン

の掛け替え作業にうんざりしながら窓の外を見ると、思わず声を上げた。


             


 「アンヌ、来て!何、これ?」窓にかごのようなものが伸びてきた

のだ。ジェニファーが驚いて窓の下を見ると、はしご車のようなアー

ムがスルスルと伸びていた。下にいる男性が手をあげ、何か叫びなが

らジェニファーにかごに乗せるように言っているようだった。アンヌ

はすぐに窓際にやって来ると、カーテンが入った大きな袋3つをかご

の乗せると降ろすように下に合図を送った。


            


 「アンヌ、あれは洗濯屋さん?」「うちはカーテンの洗濯物がたく

さんあるからこうやって、引っ越し屋さんをお願いするのよ。そして

引っ越し屋さんがクリーニング店に持って行ってくれるのよ。パリは

エレベーターがない分こんなやり方でみんな引っ越しもするのよ」

「ほう、なるほど、ロスよりデジタル!」ジェニファーはするすると

降りて行くかごを見送りながら感嘆の声を上げた。


             


 「あなたのお部屋の絵も春らしい絵に掛け替えたらどうかしら?」

「私の部屋の絵?」「お屋敷の絵も掛け替えるのよ。来客に合わせ

たり、季節にあわせたりね」ジェニファーはまたその流儀にびっくり

した。


            


 ジェニファーはアンヌが帰ると、春風を感じながらセーヌ川のあた

りを散歩しようと思った。そして、橋の上の露店の店で1枚の絵を買

った。1軒のカフェで歓談する人々の雰囲気がまさに、ジェニファー

のイメージの中にあるパリの雰囲気だった。


            


 
「お土産に持って帰るまで壁に掛けておこうかな?」彼女は自分の

部屋の絵を買って来た絵に掛け替え、絵の上のレールに掛かっていた

ブラウンのスカーフのようなものを外すと、彼女が首に巻いて来たシ

ョッキングピンクの長いマフラーを巻きつけてみた。それから絵の下

に椅子を置き、マダムからの置き土産のJの頭文字が刺繡されたクッ

ションをひとつ置いから、少し離れて壁を眺めた。


             


 「なかなかパリぽいセンスじゃない?」彼女はじっと絵を見つめな

がら秘かなリベンジを誓った。それはアンヌに、

「ス・ネパ・モン・スティル!」と言うことだった



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 「私のスタイルじゃない!」と言えるくらいに確立すべきものが
先にありそうです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年3月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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