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リサコラム
連載808回
      本日のオードブル

マダム・シック

第14話

「Chez Anne アンヌの家で」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ダイニングには
半円にカールした
かわいい椅子が2つ。
庭で積んだ花の花瓶に
ガラスのクーラーには
冷えた
シードル
白い窓の
向こうは
芝生の庭
モダンで
キュートだけど
ここはハウスキーピング
アンヌの家のようです。



 


 第14話「Chez Anne アンヌの家で」





 ジェニファーは次の日曜、パリ郊外にあるアンヌの家の明るいリビ

ングにいた。窓の外は芝生と木々の緑が心地よい木陰を作っている。


            


 「アンヌ、ここ、ほんとうにアンヌのお家なの?」アンヌはキッチ

ンから笑い声で返事をした。「そうよね、でも、まさか、こんなポップ

なお部屋で暮らしているなんて!」アンヌはまた笑い声を上げた。その

声は高い天井に届き、反響した。「それじゃ、どんな部屋に住んでいる

って思っていたの?」アンヌが笑いながらキッチンの中からジェニフ

ァーに尋ねた。



            


 
「う~ん、そのう、なんていうか~」ジェニファーは答えに窮し

た。「清潔できちんとしてるのはわかっていたんだけど、その、

マダム・シックのお部屋みたいなクラシカルを簡素にした雰囲気っ

ていうのかしら?そう、どちらかっていうと、南フランスの田舎の

お家みたいな?」「ここはパリ郊外よ!」「ええ、もちろん、その

田舎臭いって意味じゃなくて、カントリースタイルのクラシカルイ

ンテリアっていうのかしら?ええと、ごめんなさい。私、歴史ボキ

ャ貧なんです。あの、SNS世代のアメリカ人って、概して歴史ボ

キャ貧なの。それに、アメリカは建国からたかだか250年だけ

フランスの歴史って、ええっと、建国は8世紀?フランク王国

だったけ?」「いいえ、5世紀よ。シャルルマーニュ、つまりカール

一世の時代がフランスの領土の全盛期。それが8世紀。今のドイツ、

イタリア北部から、オランダ、ベルギー・ルクセンブルク、スイス、

オーストリア、スロベニアまでずっとフランク王国だったのだから。

まあ、ヨーロッパの国々って、どこも侵略の歴史だから国境線はごろ

ごろ変るけどね。でも侵略されると、男性は皆殺し、女性は召使にさ

せられてきたのよ。だから、一度も本土で侵略戦争を経験したことの

ないアメリカ人にはヨーロッパ人の苦悩はわからないでしょうね」そ

う言い終えると、アンヌはキッチンから大きなコーヒーポットとカッ

プを乗せたトレイを抱えて来た。


            


 「ごめんなさい。あ~あ、勉強不足!」ジェニファーはぺこんとう

なだれた。「いいのよ。そんなこと。私だって歴史の授業で学んだだ

けなんだから」アンヌはトレイをテーブルの上に乗せると、ジェニフ

ァーに鮮やかなラズベリーピンク色の変ったデザインの椅子を引きな

がら、「さあ、私の手作り椅子ですけど、おかけなさい」と言った。

「えっ、アンヌ、今、手作り椅子って?」「ええ、そうよ。私の手作

りよ」「へ~!こんなかわいいアートな椅子をアンヌが?」ジェニフ

ァーは7,8cmの半円で背もたれが丸く縁どられた椅子の背を持って

しげしげと眺めた。


            


 「そんなに不思議かしら?」「いえ、その、もちろん、アンヌの手

の器用さはわかっていたけど、まさか、こんなキュートで今風の椅子

まで作るなんて、ちょっと想定外で…」アンヌは大きなカップをジェ

ニファーの前に置くと、「カフェ・クレーム?」とジェニファーにコ

ーヒーの好みを尋ねた。「ええ、お願いします」


            


 ジェニファーは、アンヌが温めたミルクの上に香ばしい熱いコーヒ

ーを注ぐのを黙って見ながら、久しぶりに家族のことを思い出してい

た。明るい陽射しが降り注ぐダイニングの窓。カリフォルニアの家族

は元気だろうか?


           



 「アンヌ、お子さんは?」「4人の子供はすっかり大人になって、

全員巣立って行ったわ」「4人?それって、すごいことじゃない?」

「そうかしら?だって、ここでは3人目の子供から補助金がもらえる

から、私のような移民2世の家族はみんな子供が多いのよ。それに、

早く巣立って一人で生計を立てて行けるようにならないと困るでし

ょ。だから、どんどん追い立てるみたいに出て行かせるのよ。自立し

なきゃ、ここでは生きていけないからね。それに私みたいな黒人は、

やっぱり仕事の幅も狭まるものよ。そんな中でもなんとかやって行か

なくちゃならないし、幸せな人生を送るためには努力しなさい、誰も

やりたがらない仕事でも進んでやるのよ、って私は子供たちにずっと

教えてきたつもりなのよ」「ふ~ん、なるほどね~」ジェニファーは

両手の平でカップ持ってアンヌの話に真剣に耳を傾けようと思った。


            


 「私の両親はギニアからベルギーにやって来て、それからEUになっ

てフランスにやって来たのよ。ギニアもフランコフォニーなのよ。

ヨーロッパの人だって知らない人がいるから、アメリカ人のあなた

も当然知らないと思うけど、西アフリカにはフランコフォンが多い

のよ」ジェニファーは黙って聞いていたが、「あの、いまさらなんだ

けど、フランコフォニーって、何です?」「フランス語話者のことを

フランコフォニー、そして、その国や共同体のことをフランコフォン

って言うのよ」「ああ、そうか、フランス語ってフランスとカナダだ

けかと思ってたけど、違うんだ」「あなたもヨーロッパの歴史を学べ

ば、そこでおのずとフランス語が世界のどこで話されているかわかる

わ。でも、今は、それより先にデザートタイムにしない?」アンヌは

またキッチンに入って行った。「アプリコットのタルト焼いたのよ」


            


 「実を言うと…、」ジェニファーは舌なめずりをしていた。

「さっきから甘酸っぱい匂いがいっぱいして…

たから、今か、今かって待っていたの。パリのケーキはどれもこれも

おいしそうだけど、16区のパティスリーなんて、宝石みたいに繊細

で美しいケーキばかりで、高いのよね。それに、ダイエット中の私に

はまさに目の毒なんです。でも、今日は特別ってことで!」とろとろ

になったアプリコットが甘い香りをふりまく熱々のタルト。それを

さくさくと切り分けるアンヌ。ジェニファーはそれをうっとり見つ

めていた。


            


 ジェニファーはあっという間に3切れ目をペロリと食べ終わると、

「ああ、ほんと、おいしかった~!」と満足げなため息を吐いた。

「こんな素敵なおもてなしをしてくださって、アンヌ、ほんとうに

ありがとう。アンヌがこんなにステキで優しいママだったなんて、

知らなかったわ!」アンヌはちょっと怖そうな表情をわざと作っ

て、「そうなのよ、実は。でも、仕事の時はもちろん厳しくやりま

すからね」と脅すかのように言った。「お手柔らかにお願いします」

ジェニファーもちょっとふざけて言い返した。


            


 「でも、パリの郊外もいいものですね、アンヌ、」ジェニファー

は掃除の行き届いた窓ガラス越しに芝生の庭と緑の生垣を眺めた。

「なんだか私も住みつきたくなっちゃった。きっとパリに来たら、

みんなそんな風に思うんでしょうね。でも、フランスは旅行者には

優しくて、移民には厳しい国って言うじゃない?それでも、滞在許

可証のビザがみんな欲しいわよね~」「まあね~、」アンヌは一呼

吸おくと、穏やかな声で続けた。


            


 「聞くところによると、結婚詐欺も結構あるらしいわね。特に

白人のフランス人女性がモロッコなんかに遊びに行って、彼氏がで

きて、結婚なんて話になったら要注意なのよ。フランスに戻って結婚

して一緒に住み始めたらいきなり人間が変ったみたいになって、そし

てある日、突然いなくなるってこともあるのよ。まさしく、ポケット

に滞在許可証を入れたらドロンってことよ」「なるほどね~、私は学

生ビザで来たんですけどね、長く居たかったら、彼氏を見つけて結婚

できれば、仕事しながら住めるってことかしら?」ジェニファーはぼ

んやり壁のアーティスティックな抽象画を眺めた。


            


 「そう簡単に行けばいいけど。ビザ取得にはフランス語の試験もあ

るし、まあ、それはがんばればできなくはないとは思うけど。でも、

アメリカンドリームのあるアメリカの方がいいんじゃない?」「それ

はもう、過去のものよ、アンヌ…実は、私のアルバイト先の上司のキ

ャサリンに、パリの最新情報みたいな報告がなかなかできない理由を

聞かれて、アンヌの厳しい指導を受けているからって、それはもちろ

んありがたいことで私にとっても勉強になっているんですけどね、

そう報告したら、パリの最新情報なんてSNSでも読めるけど、それよ

り、アンヌの厳しい指導を受けて変わったカリフォルニアガールの私

について日々レポートせよなんて、言われちゃって…きっとおもしろ

い比較文化ができるし、もしかしたら本になるかもなんていうのよ」


            


 アンヌはそれを聞いてすっと背筋を伸ばすと、

「オー、ラララララ~」と言い始めた。それはなかなか止まらなかっ

た。そして、やっと止むと「それはすごくいいアイデアね。そんな

ことなら、私、どんどん協力するわ。『パリのマダムの家でしごかれ

るカリフォルニアガール』なんて、おもしろいんじゃない?これから

はどんどん厳しくいきましょうね、ジェニファー!」


            


 
「これからって?さらにってこと?」

「もちろん!」アンヌはまた「オー、ラララララ~」を始めた



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 Chez Anne(シェ・アンヌ)アンヌの家で。
シェだけで○○の家でと表されるということは
よほどよく使われる言葉なんだろうとフランス語を
習いたての頃、思いました。
家族が基本でマダムになればなるほど、つまり、年長者は
敬意を持って扱われる社会。
そこはすごく好きなところです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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