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リサコラム
連載809回
      本日のオードブル

マダム・シック

第15話

「グラス・ア・モア
私のおかげ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





赤紫
ピンク
オレンジ
朱色のピンク
世界遺産の古い町並み
に点々と明かりが灯ります。
そして同時にエッフェル塔にも
その頂点をかすめるように飛ぶ飛行機
パリの夕暮れはなんて美しいキャンバス!


 


 第15話「グラス・ア・モア 私のおかげ」



 ジェニファーは急に忙しくなった。それは学校に通い始めたからと

いうこともあったが、加えて、パリでのハウスキーピング生活を描い

たストーリーを書き始めたことが主な理由だった。


            


 
ジェニファーが数ページのコラムを書いて、編集者キャロラインに

送ると、彼女は、「すごく面白い!どんどん書いて!」とすぐに返事

をしてきた。そして、「次の編集会議にかけるけど、きっと本になる

わ」と言ってくれたのだった。


            


 
ジェニファーは一気に色めき立った。そして今までのようにベッド

でジャンプして喜びを表現しようとした途端、「いや、いや、だめ

よ」とやめた。「ベッドを乱すなんて、マダムじゃないわ!」そう

言うと、机に向かうと、「カリフォルニアガールの、『パリのハウ

スキーピング奮闘日記』、本になりそうなのよ!絶対ベストセラー

にしてやるわ!」と、まだ出版が決まる前に早々に友人たちに前宣

伝のメールを送り始めた。しかし、返ってきた返事はジェニファー

の期待とは正反対だった。


            


 「ジェニファーがハウスキーピング?まっさか?あなたがそんなこ

とできるわけない(笑)それに、そんな家事本、誰が読むの?」とい

うようなものだった。ジェニファーはそのことをアンヌに言った。し

かし、アンヌは「最初の2週間は、私だってそんな風に思ったわよ。

あなたにこの家を任せるなんて、マダムはいったいどうしたのかしら

?とんでもないことだって、そう思ったものよ」と逆にジェニファー

の期待とはまるで逆の反応が返ってきた。


            


 「それじゃ、私って、どんな風に見えていたの?」ジェニファー

は恐る恐るアンヌに聞いてみた。アンヌは「しゃべってるだけじゃ

仕事、進まないでしょ?はい、はい、手を動かしながらね!」と、

窓拭き用のクロスと専用のスプレーをジェニファーに手渡すと、

「そうね、ジャングルでキャンプ生活を長く送って来た若者って感

じかしら?」と言った。


            


 「はっ?何?ジャングル、キャンプ生活?」「まあ、野蛮な若者

って感じかしら?」「野蛮アンヌ、それはあんまりじゃないの?

おっしゃる通り、南カリフォルニアの能天気ガールだったかもしれ

ませんけど、一応、マダムの厳しい質問にはちゃんと答えられたか

ら、このお屋敷のホームステイ兼、留守番に雇われたんですもの!

それに、掃除だって、アイロンがけだって、アンヌ、パイだって焼

けるようになったでしょ?素質十分だったてことじゃないの?」


            


 
「それは、私のおかげよ、ジェニファー」アンヌは冷淡に答える

と、窓ガラスの上の方も拭くようにとジェニファーに無言のジェス

チャーを加えた。ジェニファーも素直に脚立に上ると、キュッキュッ

と力を込めて窓ガラスを拭き始めた。


            


 「アンヌ、あなたのおかげってことはわかっているわ、でも

「ジェニファー、あなたは、最初、床磨きも窓ガラス磨きも、自分

の人生には関係ないことみたいな風だったわよ」ジェニファーは手

を動かしながら、「まあ、そう言われれば、確かに、きちんとした

掃除なんてやったことなかったものだから、当然そうね」と、ジェ

ニファーは手を止めることなく、脚立を上り下りしながら答えた。


            


 
アンヌは穏やかな笑みを浮かべると言った。「あなたは知らない

けど、このお屋敷のマダムだって、毎日朝5時半に起きて、パンを

買いに行ってから、ムッシュの朝食の支度をして一緒に朝食をする

のよ。その後、後片付けに、お掃除にアイロンがけを終えてからお

仕事に出掛けられるんだから」「えっ?マダムはお仕事をなさって

らっしゃるんですか?こんなお屋敷に住んでいて、お仕事されてる

なんて、ほんと?」「ええ、もちろん。フランス人の女性のほとん

どが何らかの仕事をしているわよ。femme au foyer

(ファム・オ・フォワイエ)、ハウスワイフ、主婦って言葉も

最近、聞かないわよね。死語になりつつあるんじゃないかしら?

だから家をきれいに掃除することも、お気に入りの花瓶に花を活け

ることも、自分なりのインテリアで楽しむこともフランス人にとっ

てごく、普通のことだもの。まあ、人によりレベルの差はもちろん

あるわよ。でも、お屋敷に住んでいるからって、掃除も洗濯もお料

理もお手伝いさん任せなんてことはほとんどないわね。まあ、お金

持ちって言ったって、引っ越しした人が路上に捨てて行った家具だ

って家にもってちゃうんだから!」


            


 
「えっ、それ、ほんと?神様に誓ってほんと?お屋敷の人がほんと

にそんなことするの?人が捨てた家具を拾って家に持って帰るなんて

!」「ええ、もちろん。中には年代物もあるし、きれいに掃除すれば

使えるものもあるからね。あなたも新学期が始まる前の6、7月にな

れば、道端に家具や雑貨やらがどんどん置かれている光景を目にする

と思うけど、誰もそれに対して不法投棄なんて言わないのよ。

だって、次に日にはきれいさっぱりなくなっているんだから、

ははは」アンヌは軽く笑ったが、ジェニファーはあんぐり口を開

けたままで、首を左右に振った。


            


 「信じらない!アメリカでは、裕福な人が捨てられた家具を拾って

持って帰るなんて、そんな話、誰も信じないわよ!」

「そうでしょう、あなたのお国では。一般にフランス人はケチだって

言われるけど、物を大事に使うし、簡単に新しいものを買わないし、

新しいメカに飛びつくこともないし、古い=流行おくれと違うと思っ

ているのよ。だから、あなたの破れたひざにジャガイモの当てをつけ

てあげたけど、セーターの肘には最初から肘合当てをするのはごく

普通のことよ」


            


 ジェニファーの瞳はパティスリーのガラスケースを覗きこんでいる

時そっくりにきらめいた。「それ、それ、それよ、そんな話がいい

わ。アンヌ、そんな話し、もっと聞かせて!それってアメリカ人に

とってカルチャーショックだけど、うける、絶対うける!

そう言えば、私、学校で習ったことあるけど、フランス語にはチープ

って言葉がないのよね。チープって言いたい時は、

”pas cher (
パ・シェー)”、「高くない」言わなくちゃいけないだっ

てね。先生がそれ言ったとき、みんな大笑いしたものよ!フランス

人って、どケチなんだな~って。全部高いって思っているんだな~

ってね。でも、単にどケチじゃなくて、物を大事に使うってことかも

ね。クローゼットだって全然広くないから、服も簡単には買わないの

かもね。でも、みんなちゃんとしたかっこしてしてるし、センスいい

し、おしゃれよね。それに私、ここにきて、初めてパジャマってもの

を買ったのよ。今まではTシャツと短パンで寝ていたから、その方が

便利だって思ってたから。それにもちろん、エプロンも買ったしね…

アンヌ、ほんとうにありがとう。ジャングルのキャンプから出て来た

みたいな荒くれカリフォルニアガールをこんなに洗練されたお屋敷で

教育していただいて、ほんとうに感謝してもしきれないわ。アンヌか

らもっともっと学びたいから、もっと一緒にいて、私にスパルタ教育

して頂戴。それを無事卒業できたら、一緒にリッツのレストランで食

事をして、オペラを見たいわ。それに」ジェニファーは脚立の上で

薄紫からピンク色、朱色へと順々に変化している空と街と空気と、そ

してエッフェル塔を眺めていた。


            


 「もちろんよ、ジェニファー、でも忘れないで、ほんとうにあなた

が劇的ビフォーアフターを果たしたら、それは”Grace a moi!”

(グラス、ア、モア!)私のおかげ。それだけは忘れないでね。

でも、あなたがマナーで恥をかいたり、失敗しても、それは 

”C’est pas moi!”
(私のせいじゃないわ)この二つの言葉、いつも

心に留めて置いてね、フランス人はこの言葉の応酬で会話をする

んだから!



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 「私のおかげ」、「私のせいじゃない」
これをうまく遣えば、責任転嫁にならず、謙遜を含んだ
いい言葉になりますね。
ジェニファー、がんばれ!


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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