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マダム・ワトソン　My Style

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	連載８８９回　　　　　　『夜更けのバーで』第１回「ティアドロップス」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

クリスマスツリーが

きらめく夜更けのバーに

ラベンダー色のドレスの女性

美しいピンク色の

カクテルを手に

さて、何思う？

第１回　「ティアドロップス」

　　都会の中の瀟洒なホテルの瀟洒なバー。

夜１０時過ぎ、清楚に着飾ったひとりの美しい女性がやって来た。

カウンター席の周りには２、３の空いているテーブル席があったが、

女性はすっとカウンター席についた。そのとたん、暖炉の近くに陣

取ったテーブル席の常連の女性二人は見知らぬ来訪者に注目の視線

を投げた。もちろん、それとなく。

　　　　　　　　　　　　

　サラリーマン歴１５年のこよみという名の女性は、同じテーブルの

同期のしおりの耳元でささやいた。「ねえ、ねえ、しおり、あの人、

女優さん？」しおりは、「さあ～」と言ったきり、自分のジンベース

のカクテルを一口すすって、「あ～、おいしい」と興味なさげに答え

ると自分のスマホを開いた。こよみはそれでもしおりの肩を軽く叩き

ながら、「ねえ、ねえ、すごい綺麗なひと～、あの人知ってる？」と

聞いたが、「さあ、どうかな？いくら常連の私でも、女性の顔みんな

覚えてるわけないし」と、さもうるさそうに返事をした。

　　　　　　　　　　　　

　「いや～、この店にはちょっと合わないくらい、きれいじゃない？

もしかしたら、女優さんかも？いや、モデルさんかな？」こよみはち

らちらと女性に視線を注ぐと、「セレブかなんかじゃない？だって、

あんなドレス、既製品じゃないし、片方の肩は出てて、背中半分見え

るでしょ。あのカッティングはパリコレみたいなやつじゃないの？」

こよみは「パリコレ」を強調して言ったため、テーブルの数人がこよ

みの方をじろりと見た。

　　　　　　　　　　　

　

　「声、おっきいわよ！それに、パリコレみたいじゃなくてさ、

オートクチュールとか、カスタムメイドとか言ってよ。こっちが恥ず

かしくなるわよ」しおりはこよみの耳元で注意するように険しい顔を

してささやいた。「ごめん、ごめん、だってさ、冬の時期にあんなも

のを着るってことは、やっぱ、女優さんかなんかじゃない？」こよみ

が首をかしげると、しおりは首を振った。「私は違う気がするなぁ。

女優さんだったらまず目立ちたくないんじゃないの。こんな小さなバ

ーでさ、あんな目立つ格好してカウンターに座るってことは、モデル

も女優も違うと思うね」「わかった！インフルエンサーじゃない？」

こよみがまた大きな声を出しそうになるのをしおりは手で制した。

　　　　　　　　　　　　

　「わかったわよ、ちょっとトーンダウンしてよ！」「ごめん、

つい…もしかしたら、あんなドレスを着てインスタとかに出て、そ

れで、ブランドからギャラをもらってるんじゃない？」こよみがそう

言うと、しおりもスマホを置いてこよみの話に乗ってきた。「インフ

ルエンサーかぁ、確かにあんなドレス着てビデオに映ってるってこと

かもね」ふたりは横目で女性をちらちら見ながら話題はその女性に集

中した。

　　　　　　　　　　　　

　「ほら、見て、見て、あんなカクテル、知ってる？」こよみとしお

りとまたそれとなく、女性の前に出されたピンク色のカクテルに注目

した。「あんなの見たことないよ。もしかして、スペシャル？私た

ち、かれこれ１０年はここ、来ているけど、あんなのはじめて見た。

なんかお花が刺さってわよ～」こよみはしおりの手をとんとんとたた

きながら、うらやまし気な表情で言った。「やっぱり、セレブなのか

な？どこかのプリンセスとか？」しおりは腕組みをした。しかし、そ

の、２，３分後、女性はピンク色のカクテルを一気飲みして、テーブ

ルにお金だけ置いてすっと出て行った。女性のピンヒールの音が聞こ

えなくなると、二人は同時に立ち上がって、カウンターに移動した。

　　　　　　　　　　　　

　「ねえ、あれ、あのカクテル、何？」こよみはなじみのバーテン

に詰め寄った。「それに、あの人、だあれ？」しおりは女性が座っ

ていた席の隣に陣取ると、「私にも同じもの頂戴！」と言った。バー

テンは、「あれは、おすすめできません」と言った。「えっ？なんで！

なんで？」「あれ、やっぱり、スペシャルなの？」ふたりは交互に矢

のように疑問をバーテンに投げつけた。「あれは、まあ、カクテルと

言えば、カクテルですが、実は漢方薬のようなものですから」「漢方

薬？そんなの聞いたことないよ」「ええ、そうだと思います。だから

、おいしくはありませんから」バーテンはそう言ってから、涼しい顔

をして付け加えた。「水をピンク色のシロップで薄めただけです」

「えっ？どうゆうこと？」しおりはバーテンを問い詰めた。

　　　　　　　　　　　　

　「実は、１週間前から毎日、このくらいの時間にお越しになりま

す。ホテルの部屋にお泊りなのです。それで、寝る前に飲む漢方薬

を飲むための水なんです。でも、残念ながらもう大丈夫だと思いま

す。今日は早かったですから」バーテンがそう言うと、女性二人は

顔を見合わせた。「個人情報だとは思うけど、その先、聞きたいな

～」こよみはカウンターに両肘を乗せ、その上に顎を乗せるとバー

テンに甘えるように言った。「まあ、もうお越しにはなられないで

しょうから、言いますけど、とてもショックなことがあって、それ

から立ち直るために、このホテルに宿泊されていたのです。家で悶

々としていたら、立ち直れないからとおっしゃってました。だから

夜、寝る前に漢方薬をこのバーで飲むために、色付きの水をと言

われましたので、毎日、色を変えて飲みやすく味をつけてお出しし

ていました」ふたりはぽかんと口を開けたままで聴き入っていたが

こよみは「毎日、あんなおしゃれな恰好で？」と聞いた。

　　　　　　　　　　　　

　バーテンは、「そうでした。別の自分になるためだそうで…」が

言いかけると、しおりはそれを取って、「つまり、そんなクールな

立ち直り方があるのよね～こんど、真似してみよう！」と言うと、

さっさと席に戻った。こよみはカウンターに残って、バーテンに、

「あれ、なんて言えば出してくれるの？私なんてショックなことな

んて毎日だし！」と言った。

　　　　　　　　　　　　

　「『ティアドロップス』って勝手に変な名前を付けました。」

「ティアドロップス？ああ、なるほど、涙薬ってこと！」「でも、

明日からもう来られないでしょう。今日は特別に着飾っておいでで

したから、別のパートナーが見つかったのか、あるいは、完全に吹

っ切れたのか、今日は何も話しをされず、お薬も飲まれず、涙のカ

クテルを一気飲みでしたから」というと、バーテンはちょっと寂し

気な表情を浮かべた。

　

上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.１

　新シリーズのバーでのショートショートをはじめました。

　立ち直るための心の薬は環境を変えたり、

おしゃれをしたりすることかもしれませｎ。

p.s. 2　　インスタグラム、私の日常です。

　　
「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０２３年１１月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」

　　　　の英語版です。

　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”

　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。

　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」

　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　
　　　　お申込はこちら→「Contact Us」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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