MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載888回
      本日のオードブル

『夢、描きます。』

第17回

「アップルパイを持って」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ごつごつの
岩肌に灌木
切り立った
断崖の壁には
今は緑が覆う世界遺産
その外から眺めるのも
楽しいかもしれません




 



第17回 「アップルパイを持って」




 アトリエに来た女性は椅子に掛けたまま、ブラインドの細い隙間

から細い日差しが床に作り出すストライプの模様をじっと眺めてい

た。小一時間も。


            


 室内には画家の筆が時折、かさっ、かさっとキャンバスをこする

音がするだけで、何の音もしない。そろそろ待ちくたびれたのか、

女性は、「先生、お疲れではございませんか?ちょっと休憩なさい

ません?家で焼いたパイを持ちしたんですけど。よろしければ、

いかがですか?」と切り出した。


            


 画家はちょっとだけキャンバスの向こうから顔を出すと、

「そうですね、それはうれしいですね。それじゃあ、お言葉に

甘えて」と言うと、筆を置いた。女性はうれしそうな表情で、

「先生、テーブルか何か、お借りできるもの、ありますか?」

と何もないアトリエを見渡した。「ええ、小さいのなら」画家

は隣の小部屋に入り、小ぶりな丸いコーヒーテーブルを持って来

ると、女性の椅子の前あたりに置き、自分の椅子もテーブルの前

に置いた。そしてキャンバスの脇にかけてあった白い布をコーヒ

ーテーブルの上にふわっと落とすような感じで掛けると、「こん

なカフェでよろしいでしょうか?」とあ然としている女性ににっこ

り笑いかけた。


            


 「ええ、もちろん、でも、先生、おもてなしのお心遣い、ずいぶん

慣れておいでのようですね。そんな風にぱぱっとテーブルセットがお

できになる男性って、めったにいらっしゃいませんでしょう?」女性

はそう言うと、椅子のそばに置いたバスケットから紙包みを出してペ

ーパートレイ、紙コップとフォークを2人分テーブルに並べた。その

後、四角な紙箱からカットしたパイを皿の上に乗せ、最後に魔法ビン

から熱いお茶を紙コップに注いだ。


            


 「先生、今朝、焼いたアップルパイなんですけど…」「アップル

パイ、ですか?」「お嫌いですか?」「とんでもない。大好きです

よ、もちろん。ただ、手作りのアップルパイなんて、いつ以来でし

ょうかね~。思い出せないぐらい昔ですね。若かりし頃、彼女がよ

く焼いてくれてはいたんですけどね…」「あら、まあ、先生、なん

かロマンチックなお話ですね」「いえいえ、そうではありませんよ。

彼女と言うのは、私が子供の頃通っていた教会のお手伝いさんのこと

です。真面目な信徒ではなく、ハロウィンとか、サンクスギビングと

か、クリスマスとか、彼女の手作りお菓子目当てに教会に行っていた

ようもので…昔話で失礼いたしました」画家は懐かしいような照れく

さいような表情を浮かべると、フォークでぱくりとパイのひとかけら

を口に運んだ。


            


 「まあ、いいお話しですね。それなら、私のこのアップルパイなん

て、先生のお口に合うかしら?」「小、中学生の食いしん坊な悪ガキ

の思い出ですよ」「そのお手伝いさんのアップルパイはどんなお味だ

ったんでしょうね?」「子供ですから、微妙な味のニュアンスなんて

、あってないようなもので、ただゴロゴロとリンゴの煮たのがたくさ

ん入っていて、甘くて、酸っぱくて皮がパリパリっとしていて、まぁ

よく言うところの、普通のアップルパイでしょう」「そうなんです

ね、私のはちょっと違って、カントリーアップルパイというようなも

ので、パリパリの皮ではなくて、タルトみたいな生地にりんごを並べ

て焼いただけなので、素朴なものですよ。これしか自慢できるレパー

トリーがないんです。でも、先生にぜひ食べていただきたくて、朝か

らがんばって焼いてみました…そのお手伝いさんは純粋に子供たちに

食べさせたくてアップルパイを焼いておられたのでしょうけど、私は

人と話をするのが苦手なので、それでも仲間外れになりたくなくて、

学校にクッキーとか簡単なマフィンケーキのようなシンプルなものを

焼いて持って行っていました。…思い出すと、寂しいというか、悲し

い子供時代ですよね。仲間外れにはなりたくない、でも積極的な行動

はできない、それでお菓子でごまかして、その時だけ、ちょっと人気

者になったりして、そんなような意気地なしの姑息な手段ですよ」

女性は、パクパクとお菓子を口に運ぶ画家の顔をちらちら見ながら、

「ひさしぶりなので、あの、味はいかがでしょうか?」と尋ねた。


            


 「とってもおいしいです。甘酸っぱくて柔らかくてサクサクして、

お世辞抜きに、最高ですよ。ほんと、おいしいです。とっても、とっ

ても、おいしいです」画家は何度も褒め言葉を繰り返した。「ほんと

ですか?そんなに喜んでいただけたら、うれしいですね。そうなんで

すよ、お菓子って人とつながる手助けをしてくれますから。

でも先生、お菓子にずっと頼っていると、自分自身が誰なのかわから

なくなるってこと、ご存知ですか?」画家は食べる手を休めて、女性

の顔を見ると、女性は「ふふふ」と笑った。そして、魔法ビンのふた

を取ると、お茶を画家のカップにつぎ足した。「アップルパイには、

やっぱりアップルティが合いますでしょう?」女性はお茶を注ぎなが

ら微笑んでいた。「ええ、香りもいいですね。秋はアップルパイにア

ップルティ、すばらしいコンビですね」「おほめのお言葉、うれしい

です。それで、先生、お尋ねですけど、」女性は柔らかに話しの向き

を変えた。「私がどうしてそんな夢の絵に風景画を選んだのかって聞

かれませんけど…」


            


 「まあ、当てずっぽうでよければ当ててみましょうか?」画家の言

葉に女性はクスクス笑い始めた。「カルカッソンヌみたいな城壁の街

が夢の絵だという理由ですよ、そんなの、当てずっぽうでわかるとは

とても思えませんけど…」「だから当てずっぽうなんですよ。ええと

まず、城壁の街を好む方は、攻撃は最大の防御なりの逆ですから、自

分自身に攻撃の矢が飛んで来ることを恐れて、自分を守る固い鎧をま

とっている。その城壁の内側で、他人とは仲よくなりたい。でも、人

間関係は上手ではないから、お菓子にあなたの代理をさせている。ひ

とつ私が思うことは、手土産を持って来られる方は自分をどう見て欲

しいかをいつも考えておいでだということです。相手への心遣いを生

き方の中心に置いておられる方もおいでです。だからよく言われるプ

レゼント好きな方は社交的な方とはちょっと違うような気がします。

どちらからと言えば、限られた方とだけ親密な関係を構築して、その

中に安住の地を求める方だと思います。だから、城壁の中で生まれ、

死ぬまでその中だけで生きた人にとって、世界は城壁の中だったはず

です。そんな冒険を嫌う人は安全地帯を選ぶでしょうから、あなたも

きっと安住の地で生きる方法を考え、選択してきたのではないかと、

まあ、ここまではいかがでしょうか?当たらずとも遠からずではあり

ませんか?」それに対して女性はにこやかな笑みを浮かべただけだっ

た。


            


 画家は続けた。「でも、ここいらで城壁の外に出たいと思われてい

るのではありませんか?」女性はじっと画家の手元を見た。「私も同じ

だから、わかるんです。私もこのアトリエからほとんど外に出ていま

せん。もう数年も。もちろん、その辺りに買い物くらいには行きます

が、ただ、人間関係がうっとうしくて。特別な友人もいませんし、何

かのグループや組織なんかに所属したこともありません。旅は常にひ

とり旅で、カルカッソンヌには2回行ったことがあるのです」




            


 「先生、ご明察です」女性の目が輝いた。「やはり、類は友を呼ぶ

というのか…私もカルカッソンヌに3回、それもひとりで行きまし

た。城壁の街が私を呼んでいるような気がしているのです。実は

来月、異動で知らない街に引っ越すことになりまして、それで、

今は毎日が不安で仕方なくて…両親も転勤族でしたから、私には

故郷のようなものがまるでないので、常にジプシー気分なのです。

そんなことを思っていたら、あの城壁の街が私の心の中の故郷のよ

うな気がしてきて、それで大好きなカルカッソンヌの街の絵を描い

ていただこうと、ああ、自分から答えを言ってしまいましたね、

ははは、でも、先生、大正解です!当てずっぽうなんかじゃなく」

画家はそれを聞くと、さっと立ち上がり、キャンバスを女性の方

に向けた。


            


 「城壁の街を外から眺めるのもいいのかもしれないと思って、

窓枠を描いてみました。新しい街にも同じ言葉をしゃべる、親切

な人がきっとたくさんいますよ。その人たちとまずは仲よくなっ

たらいかがですか?」女性は無言で数回うなずくと笑み浮かべ、

画家の言葉に付け加えた。「アップルパイを持ってでしょう?



 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1


 料理やお菓子作りに挑戦したいと思いつつも、

一度もやれていません。

 今日でリサコラム888回になりました。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年10月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.