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リサコラム
連載890回
      本日のオードブル

『夜更けのバーで』

第2回

「ガラスの天井」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



クリスマスツリーが

きらめきを放ち

スタンドガラスの天井から

怪しげな光が

ダークピンクの

ベルベットのカーテンを

輝かせる

都会の夜更けのバー

 



第2回 「ガラスの天井」



  都会の真ん中の瀟洒なバーにはいつも3つのあるものが渦巻い

ている。ひとつは愚痴、不満、そしてもうひとつは?


 足音を響かせてやって来た、がっしりした体格の男性は、バーカ

ウンターのいつもの席に座ると「ふ~、疲れた~」と言いながら背

広を脱いだ。


            


 「先生、こんばんは。背広、お預かりいたしましょうか?」カウン

ターの向こうからバーテンが声をかけると、男性は無言で左手を挙げ

て、椅子の背に引っ掛けた。


            


 「いつものやつを」男性はウェイターにそう言うと、腕組みをして

天井を見上げた。オレンジ色のハロゲンライトが薄暗いバーを暖かに

照らし出している。


            


 「実は、今日、昔のクライアントにばったり会ってね、それもジム

のサウナでさ!なんか前に会ったことあるな~って感じはしてたんだ

けど、どうしも思い出せなくて、まあ、つまんない昔話だけどね、そ

れにしても、今日は参ったな~」「先生、何があったんです?」

バーテンは、グラスの中でカラカラと丸い氷をかき混ぜてから、

グラスの縁にスライスしたライムを差して、男性に差し出した。


            


 男性は無言でひと口すすると、目つぶったままで、「君はパリの

バーで修行したって言ってたよね」と切り出した。「まぁ修行とい

いますか、アルバイトといいますか、フランス語もわからず、役に

はたたなかったと思いますが、私自身はとても得難い経験だったと

思います」「どんな意味で?」「そうですね~、たくさんありすぎ

て、まずは言葉の問題は大変でした。オーダーも聞き取れないし、

しょっちゅう間違えてよく怒鳴られましたけど、でも幸いなことに

何に怒られているのかわからないもんですから、そんなに悩まず

に済んだんですけどね。それに、極貧生活でしたけど、でも、若い

からできたと思いますね」「なるほどね。まぁ、そういうことか…

それでパリはどれぐらいいたの?」「3年いました」「3年は結構長

いんじゃないかな?」「まっ、そうですかね~」「よくがんばった

と思うよ」「ありがとうございます」「夢があったからこそ、がん

ばれたんだろうからね、それが、今では取材が来るくらいの有名な

バーテンダーだから!」「先生にそう言われると照れますけど」

バーテンはにこにこして「やっぱりうれしいですね」と言った。


            


 「私にもね、そんな時期があったんだよ。夢を抱いて、荒唐無稽

なことをやった時代がね」「へ~、先生にも?それで、どんな夢で

すか?」「今となっては笑い話だからいいけどね。まぁ、設計士を

目指す人間は荒唐無稽な夢を持っているものだと思う。まずは、

『設計士』から、名刺に堂々と『建築家』の3文字が書けるよう

になりたいとね、公共建築物を設計したいとかね、でも、現実は、

マンションの一部屋とか、民家のリフォームとか、小さな商店街の

小さな居酒屋の設計なんかで終わる人が大半なんだけど。私自身は

建築家なんて呼ばれるのは好きじゃないよ。画家とか、作家とかア

ーティストみたいな呼び方をされるような身分でも、風貌でもない

し。でも、やっぱり若い頃は建築家の3文字に憧れて、クライアン

トに自分のやりたいデザインを押し付けてみたりもしたよね。でも

そんなデザインって、だいだいコストがかかる。だから、予算で

却下されるのがオチなんだけどね、でも一度は、注目を集めるよう

なかっこいい意匠を作りたいとか、まだだれも引いてないような線

を引きたいとか思って、隙あらば、自分の夢を実現したい、この一

心なんだよね」


            


 「なるほどね~、いずこも同じ、わかりますね。規模が違います

けど、私なんかも新しいカクテルをいろいろ試してみては、お客様

に飲んでもらったりして、でも、まあ、8割方は受けなかったです

から、はははは…」「そんなもんさ。自分の好みとお客さんの好み

が一致することなんて、まずないからね。ある設計士は、家は作れ

ば作るほどお客さんを1人ずつ失っていくようなものだって言って

たけど、実際、そうだと思うよ」「そうなんですか?でも、先生は

そうではないでしょう?」「いや、私だって例外じゃないよ。手痛

い失敗も色々あるしね、そのひとつが今日ばったり会ったクライア

ントだったってことだよ」「は~、そうだったんですね」男性は「

ふ~ん」と鼻を鳴らすと、またグラスを口に運んだ。


            


 「実は、その人にバーの設計を頼まれたんだよね」「ほお~先生

が、バーを?なんだか、すごく、興味湧いてきました。それで、

どんなバーですか?」「笑わないでくれよ」「笑いなんかしません

よ、先生」バーテンは男性の丸い眼鏡の二つのガラス窓からほぼ1

本線になったような細い目を見た。その目はすでに過去のある時点

にワープしているようだった。


            



 「それは、私が渾身の思いで描いたデッサンだったんだけど、

見上げれば天国が見えるようなって意味で『ヘブンリー・バー』

って名前つけてね、ははははは、今でも笑っちゃうけどね、でも

その時は自分なりにはとてもよくできたって自信があったんだ。

ヘブンリー・バーの意味は、そのバーに1度は足を運んだら、

もう帰りたくなくなるようなそんな天国のような空間という意味

で、吹き抜けの6mの天井に巨大なクリスマスツリーを飾れば、

お客さんがツリーの突端を眺める。すると、そこには、天国のよ

うな虹色のドーム状のステンドガラスの天井があるんだよ。夜に

なると天井は店内の光を反射するようになっていて、反対に昼間

は美しい空が眺められる。そんな仕掛けを考えたんだけどね」

「ステンドガラスのドームの天井、ですか?すばらしい!でも、

先生、建築費高そうですね」「まあね、高いだろうね。でも私も

若かったから、コストはひとまず置いといて、とにかく自分の思

いをクライアントにぶつけようと思ってね。格子状の枠にガラス

を埋め込むんだけど、それは、あるパリのホテルのバーで一度見

たことがあって、実際はどう作るのかはわからなかったんだけど

それは後で考えようという感じでね。何としてもあの美しいガラ

スのドーム天井を作りたくて」バーテンは忙しく立ち働きながら

も男性の話に耳を傾けていた。


            


 「それで、もちろん、プレゼンでは情熱を傾けて説明をしたよ。

相手は乗って来て、これはいい調子だと思ってね、それで、その頃、

たまたま見た映画があったから、それで締めくくって、さらにゴー

ジャスなイメージを構築しようと思ったんだよね。その映画ってい

うのが、コメディタッチのアメリカ映画で、大富豪の男性が策略に

はまって、ビルの屋上から、隣のホテルのガラスの天井に投身自殺

を図るけど…」「ああ、私も覚えあります、何ていいましたけ?」

バーテンはカウンターの中をせわしく歩き回りながら、思い出そう

としていた。「先生、思い出せませんね。でも、その大富豪は

ガラスの屋根から下に落ちたと思ったら、なんと、その下には空気

が入ったエアベッドってみたいなものが用意されていて、そこに無

事着陸するってそんなストーリーだったような」「そう、そのとお

り!荒唐無稽なアメリカ映画だけどね。大富豪だから、その修理費

用も払えるだろうってね。そんな幕切れだったね。まあ、ハッピー

エンドの映画だよ」


            


 「先生、それでどうだったんですか?」男性は一気にグラスを空

にすると、バーテンにそれを押し出した。「君がクライアントだっ

たら、そんな映画の話を聞かされてどう思う?」「どうって、

先生…ヘブンリー・バーですよね、ドーム状のステンドガラスの

天井が…」「その通り、君が今、想像した通り、そのクライアン

トも想像して、『割れたりはしないんだよね』と私に言ったんだ

よ。私は返す言葉がなかった。盛り上がった気分は一気にガラス

の天井が破壊されたシーンと共に地に落ちて、それで依頼はすべ

ておじゃんだよ。まあ。言葉は矢のようだと言うけど、放たれた

ら最後、もう取り返しがつかない。ガラスの天井っていう時は、

何かの障害物があって昇進できないとか、そんな頭打ちの状態を

言うけど、まさに、私はガラスの天井でガラスの天井の意味を知

ったという、まあ、そんな若かりし頃の失態だよ」


            


 バーテンはしばらく無言だったが、脇から用意していたグラスを

すっと男性の方に差し出した。「私の試作です。おごりですから、

ご遠慮なく」男性はにっこり笑って、「おお~うれしいね」と言

うと、一口すすった。そして、「ほ~」と深いため息をついてか

ら、「うまいな~、うまいよ、これ、メニューに入れたらどうだ

ろう!きっと受けるよ」と言った。


            


 「ちょっと待った!いい名前、思いついたよ、そうそう、

これ、『ガラスのため息』なんてどうかな?」

「『ガラスのため息』ですか…うん、それ、なんかいい響きです

ね~、それ、頂きます!」バーテンは氷水を入れた自分のグラス

と男性のグラスを合わせた。


 都会のバーで渦巻いている3つ目、それは「ため息」のようだ。




 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ため息をつける場所、ありますか?

それが自宅なら幸せですね。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年11月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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