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リサコラム
連載891回
      本日のオードブル

『夜更けのバーで』

第3回

「なんとなく、シルバー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




サンセットバーには

心地よさそうな椅子3脚と、

白いクロスのテーブル

ハイビスカスのような花が

挿してある ブルーグラスが3つ

カモメもお家に帰る

美しい夕暮れです。



 



第3回 「なんとなく、シルバー」



  都会の瀟洒なバーのカウンターにひとりで座っている男性。

「君は若いから知らないと思うけど、」とバーテンダーに
前置き

してから
、テイスティングするようにピルスナーグラスビール

口に含んだ


            


 
うん、うまいね。仕事帰りのビールはほんとにうまい」バーテン

忙しく手を動かしながらも次に続く男性の言葉をじっと待った

男性は愛おしむようにビールをちびりちびりと口運びながら、ビー

ルを半分ほど飲み終えた頃、やっと口を開いた。


            


 
昔話だから、知らなくて当然だけど、1990年代、トレンディ

ードラマっていうのが
流行ってね。トレンディと言うのはまぁその

ものズバリ
流行って意味なんだけど、ただの流行ではなくて、

本人がまだそこまで洗練され
ていなかったというか、アメリカナイズ

され
ていなかった時代を象徴するようなクールな生活スタイルみたい

なものかな。その時代こそ、日本の
伝統や文化を忘れ去る走りだと私

は思ってるんだ。そのきっかけを作ったのが、田中康夫だと思う。

君、知ってる?」「ええ、もちろん、
国会議員さんですよね」

「今はね。その前は長野県知事だった。そしてその前は流行作家で

タレントだった。その田中康夫
が書いたなんとなくクリスタル

っていうベストセラー小説からトレンディな風潮が始まったんだと

思うよ。おそらくそれは
私たち前後の世代ならきっと納得すると思

うけどね。彼
は一橋大学在学中にそんな本を書いて、一世を風靡し

た。つまり、バンカラとか、学生運動を
やってたようなダサイ風貌

の若者
とはまるで違う、簡単に言えば、貧乏学生とは対極

時代の転換点その本からだったんじゃないかてことだよ。私は

田中康夫氏とはそれこそ対極にいたから、そんな
にはまるで興味

がなかった。だから
読んだのずいぶん後になってからだけど、

でも
その頃はまだ本が時代を動かすツールだったんだよね。

懐かしい、でも、もう決して戻らない時代だね」

「おもしろいです」バーテンは忙しく動きながら興味津々な

様子を見せた



            


 「そんな学生時代に、私が親友と呼べる友人はふたりいた。ひとり

裕福でいつも、いくらでも親からお金をせびっていたやつで、彼の

財布には
1万円札のいくつもあって、だから、そんなの周り

コバンザメみたいに、いろんな友人が集まってきてた。みんなか

らちやほやされるものだから、
なんとなくクリスタルじゃなくて本当

にクリスタルだったんだよ。でも
、よくあるパターンで、彼の実家

事業がうまくいかなくなったらしくて、するとみんな、潮が引く

ように離れて行ったんだよ。それは見事な引き際の美学だった

ね!」男性はカラカラと笑った。バーテンは、「さすが!座布団

1枚」と言った。


            


 「私はその引き潮の後に彼と知り合った。
彼はいきなり金欠に陥

ったものだから、
今までみたいな遊びもちろんできないどうな

るだろう
って、みんな噂していたら、彼なんとか乗り越えたんだ

よ。
きっと人生を棒に振るんじゃないかって、ほくそ笑んで見てい

たやからも多かったと思うけど、いかんせん、彼はいきなり
真面目

になってアルバイトとか家庭教師とか
までこなして、まともな学生

になってしまったんだよね。
今じゃぁ大企業の社長なんかなっ

ちゃって
、人間ってつくづくわからないものですよ」男性は一段落

ついたようで、残りの
ビールを飲み干すと、次は何にしようかと

ーテンに尋ねた



            


 「
ルビー色のきれいなビールがあるんですけどいかがです

か?
」バーテンは瓶を男性に見せた。「ほう、おいしそうだね。

じゃぁ、それをお願いしようかな」
「かしこまりました」バーデン

ゆっくりと栓を抜くと、細長いグラスを男性に少し押してから、

とても穏やかに
繊細美しいピンク色の泡を立てた。その下にはル

ビー色の赤い液体が静かに沈んでいた。


            


 「美味しそうだ男性はつぶやいてから、くいっっと、ひと口

飲ん
で、「とてもフルーティだね。こんな夜にはいいもんだね

と言うと、バーテンは「よかったです。
それでそのもう1人の

方ってどんな方なんですか?
」と聞いた。「あぁ、もう1人のや

は非常に運がいいやつでね」男性はそう言うと目を閉じてゆっ

くりゆっくりまたグラスを口につけた。
「さっきの友人正反

対っていうのが1番わかりやすいだろうと思うけど、
貧しい家の

出だったけど、頭がよくて勉強もできた優秀な人間だった。だか

ら、
人望もあった。勉強できて、人望がある人間は運がいいんだ

よ。
まぁ人徳って言うんだろうかね私にはないものだよね」


            


 「
そんな事はないでしょう」「いやいや、謙遜ではなく、そう

なんだよね」「彼はスポーツ万能で、球技も水泳も陸上もできたか

らいろんなクラブを掛け持ちしてた。私は水泳部で知りあったんだ

けど。
彼はその後、人徳とを味方につけてスポーツ業界で成功し

よ。スポーツ用品を販売する会社に入社してそこの経営者になっ

ちゃったんだ
から、すごいよね」バーテンは興味津々で男性の言葉

にじっと耳を傾けながら
飲み物作り続けていた。


            


 「ああ、どうもここにくると昔話ばかりしていけないね」「いけ

ないことはありませんよ。どんどんしてくださいよ」「『
いけない

って言い方は
の好きなセリフのひとつだけど、それはダメだって

いう意味じゃないってことを知ってるかな?」「ダメだって意味じ

ゃないんですか
?」「そうだよ。昔の日本人は『いけないね』使っ

ていた
けどそれはしょうがないねとか、『どうしてもそうや

っちゃ
うんだよ』って言う人間のさがを表す艶のある言葉なんだ

よね。
いけない』は夏目漱石の小説の中でよく出てくる。明治の

頃まではもっとふくよかな感性を持っていたのかな、日本人も」

「そうですか。勉強になります。それで、今日はそのお友達
とお

話しされた
とかですか?」バーテンが聞くと男性はちょっと薄ら

笑いをしたような感じで
「いや」といった。そうですか、それ

では、」とバーテンは言いかけて、
あまり深入りしない方がいい

ような気がしてそこで言葉を切った。


            


 「それでさ
」しばらくして男性はまた口を開いた。「僕ら3人

で海を見に行ったことがあった。すごく
よく晴れた日で、目いっぱ

い泳いだ後で、ビーチフロントのデッキのあるバーでカクテルなん

か飲んだんだけど、その夕日は言葉を失うくらいに美しくて、男3

人、黙ったまま、じっと日が沈むまで一言もしゃべれなかった。


のアウトドアの席みたいな雰囲気だったなその時の甘酸っぱい

カクテルを
ちょっと思い出したもんだから。でも、後の彼とは、こ

こ10年、年賀状のやりとりだけで
それで、最近、年賀状が来な

かった
から、どうしたんだろうと思いつつも、忙しさにかまけてさ

。それでつい昨日だけど、『年賀状ご遠慮しますって

案内が彼の息子さんから届いてね。つまり亡くなっていたんだ

よ。それも
半年前に。


            


 そんなもっと早く
知らせてくれればよかったのにせめて生きて

いるうちに
そういう状況にあることぐらいは言って欲しかったなぁ

ってね」男性は深いため息をついた。「だってさ、
学生時代とか青

春時代に無心になって遊んだ
りした人間とはなんかつながってるん

よね。改めてそんな気がしてね。あんなに仲が良かったのに

なんで
10年も音信不通にしたんだろうとか、後悔先に立たず。い

なくなってからわかるもんなんだ
それがちょっと悲しくて悔し

くて
…」男性は急に押し黙った。


            


 「それ、どんなカクテルでした?色とか味とか?」「ああ、味は

甘酸っぱい。花が、黄色い花が挿してあった。でも、もう、色は忘

れたよ」「わかりました。」バーテンは次から次に少量ずつリキュ

ールを足して、最後はグレープフルーツジュースで割った。シャカ

シャカというシェイカーの音がしばらく続いたあと、カクテルグラ

スに注ぐと、エディーブルフラワーをグラスの縁に挿した。


            


 「なんとなく、クリスタルな感じのカクテル、作ってみました」

そして男性の方にすっと差し出した。「それじゃ、天国のあいつと

乾杯だね」男性はそう言うと、一口、口に含むと、余韻を味わって

いるように見えた。「どうでしょう?」「うん、味わい深い、すば

らしいよ。口中に残る感じがさわやかで、サンセットのようだ」

「ああ、よかった。ありがとうございます」


            


 「もしかしたら、友人って、親より、兄弟姉妹よりかけがえの

ないものだから、君も大事にしたほうがいいよ」バーテンは静か

にうなずいた。「でもね、」男性は顔を上げると、「このカクテ

ル、なんとなく、クリスタルなって言うより、なんとなく、シル

バーって感じだよ。残念ながら、この年齢の私にとってはね」と

言うと、大笑いして、一気に飲み干した




 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 「年賀状、ご遠慮いたします」のはがきが

届く季節になりました。友人とはかけがえのないものだと

つくづく感じています。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年11月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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