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リサコラム
連載892回
      本日のオードブル

『夜更けのバーで』

第4回

「中庸のカクテル」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




クリスマス
シーズンは
ひときわ豪華な輝きを
帯びていたというタワーは
なんといいましったっけ?
その昔、そんな塔が
パリの街の
真ん中にあったらしいですよ。


 



第4回 「中庸のカクテル」



  夜更けのバーには普通の変った人々が集うようです。その人々

とは、饒舌な人のことを言うようです。


            


 仕立てのいいスーツを着た女性はカウンターにひとりで座り、

物憂げに考え込んでいるような様子でパープルのカクテルをちびり

ちびりと味わっていた。そして、すっと顔を上げると、最初と途中

を全部省いていきなり結論を出した。


            


 「結果、東京タワーに登るってことよ、わかるかしら?」いきなり

向けられた質問にバーテンは何と答えていいかわからず、

「と、おっしゃいますと?」と無難に聞き返した。「つまり、なんか

問題を抱えていたら、そればっかり考えていても答えを導き出すこと

はできないってこと」バーテンはそれでも脈略がつかめなかったが、

「わかります。私にも経験あります。人間関係で悩んで、そればっか

り考えていたら他のことが全くできなくなるって感じですよね?」

「そう。どうしたらいいかわからなくなった状態を『見つめる鍋は

煮えない』とか言うらしいわよ。私なんかは失敗から立ち直れなく

てずっと後悔の念に苛まれて、メビウスの輪みたいな思考の輪を

ぐるぐる回り続けていた時が若い頃にあったのよ。周りの人たちは

なんやかんやと気分転換を持ちかけても、体が言うことを聞かなく

て、それで見かねた友人が一緒に東京タワーに登ろうっと誘ってく

れたの。その頃はまだスカイツリーはない時代だから、東京タワー

と言えば一番高い場所のことだったのよ。私はそんな気分じゃなか

ったけど彼女に無理矢理連れて行かれたのよ。高い山に登ったら自

分のちっぽけさがわかるって、俗に言えばそんな感じよね。でも、

彼女の意図とはまったく別のことを私は発見したのよ!」「何の発

見ですか?」


            


 「そう、友人は東京の街を望遠鏡で見てはしゃいでたけど、私は

そこに来ている人たちを見渡していたの。ここまで登ってきた人

たちの何人かはきっと私とおんなじで、悩みを抱えていて、東京

タワーに登って来てるんじゃないかなってね。何の気なしに東京

タワーに登りに行こうってならないと思うから。その時、仲間意

識というか、親近感が湧いて来ちゃて。そんな経験、あなた、な

いでしょう?」バーテンはちょっと手を止めて、カウンターの先

のテラス席を眺めてから、「さあ、どうでしょう?でも、もし自

分が行き詰まったら、思いっきり部屋の掃除しますね。私、行動

派なんですよ。だから陰にこもるより、走りに行くとかジムに行

くとか、体を動かして切り替えるかもしれないですね」バトラー

が静かに言い終えると、女性はショートカットの頭をちょっと傾

けて、「なるほどね。それは素晴らしいわ」と言った。しかし、

バトラーは軽く右手を振って、「とんでもない。私なんか失敗と

後悔とやり直しと、また失敗と後悔とやり直しとその繰り返しで

ここまで来たようなものですよ。よくもまぁ、今まで生きてきた

なと思ってます」


            


 「そうなの?あなたを見てるとスムーズに美しいスラロームを描

いてここまで来たような気がするわ」「その反対ですよ。すでに幼

稚園生で失恋という失敗をしましたから。幼稚園生でも傷つくもの

なんですよ。それはその後の人生に長く尾を引きましたよ。私は誰

にもモテないんだって。友人にはほんとにモテるやつがいましたか

ら、同性にも異性にも。神様は人間を元々不平等作られているんだ

って、そう私は思ってましたね」「なるほどね。あなたもそんな時

期があったのね」「そうですよ」「でも、今は克服したっていうこ

とでしょ?」「いえ、克服も納得もしていません」「それはどうい

う意味?」バトラーは振り返って、自分の背中にある写真のような

絵を指差した。


             


 「あれ見ながら、いつも思うんですけど、目立ってるのはエッフ

ェル塔だけですよね。つまり、ほかの建物はその他大勢でしょ」

「まぁ、そう見ればそうね」「つまり、エッフェル塔を目立たせ

るために、他の人はお控えなさいって感じに私には見えるんです」

「なるほど、そういう考え方もあるのね」「だから、その他大勢の

人たちがどんな気分でいるのか、エッフェル塔はわかんないでしょ

う。それがトップスターとか、スター選手とか、そして独裁者とか

の意識なのかなって思うんですよ。だってずっと見下ろしてるわけ

ですから」「私は反対に、見下ろしているばかりのエッフェル塔も

時々は休みたいんじゃないかなって思うんじゃないのかなって思っ

ているのよ。だって、常に見上げられ、輝き続ける人生は苦しいも

のよ。時々、真っ暗になって自分の世界に浸っていたいときもある

と思う」「そうでしょうか?」バトラーはシェイカーをふり終える

と、黙ってグラスに緑色の液体を注いだ。


           


 「あなたの言う独裁者って自分の思い通りに人も物事も動かせる

幸せな人のように見えるけど、でも、実は、すごく孤独で恐ろしい

不安と戦っているんだと思う。周りの人間たちが自分の顔色だけを

伺ってるってわかるほど、その反動で、独裁色を強めていくんじゃ

ないかなって。歴史を遡れば、ルイ16世とか、ロシアのロマノフ

家の皇帝一家みたいに無残な死に方をしている王様とか皇帝とかた

くさんいるでしょ。ある日、クーデターが、革命が、下剋上が起き

て、勝者と敗者が入れ替わるのよ。世の中って、ある日突然、手の

平を返したみたいに勝者と敗者が入れ替わるってことを歴史は証明

しているじゃない。だから、私みたいなこんなボロ負けした人間が

東京タワーに登って、世界を上から見た時に、もしかしたら勝者と

敗者はオセロゲームみたいに、ある日、簡単に入れ替わるんじゃな

いかって、はっと気づいたの。それまで何も手がつかなかった私が

開眼したんだから、我ながら驚きだったわ」


            


 「なるほど、お話し、納得しますね。でも、その切り替えはすご

いですよ!」「ありがとう。でもね、そんな革命が起きる瞬間って

みんなにあるんだと思う。今まで仕事で大失敗をしでかしたあの私

が次から、なぜかうまくいくようになっちゃってね。するとどこか

らともなく、運が巡ってくるっていうのかしら。だから、どん底の

時には東京タワーに登るのよ、もちろん、スカイツリーでも、エッ

フェル塔でもいいけど」ていいたかったの。


            


 「そうなんですかね~。それなら私にも運が巡ってきているの

に、気づかないってことでしょうか?」「一生、陽の当たらない場

所ってないと思う。開発が進んだり、大きな木が斬られたり、災害

が起きて山が崩されたりして日当たりがよくなったりもするもの

よ。それから、私はコンサルタント会社に入り直して、15年後

に独立したってことなのです。でもね、人は他人のサクセススト

ーリーはあんまり聞きたくないでしょう。人の失敗談を聞くのは

愉快だけどね~」女性はいきなりテンションが上がったようにち

ょっと叫んでから、はっとして、「失礼しました」とカウンター

の周りに他のゲストに謝った。


           


 「今、光輝いているエッフェル塔も150年前はあんな醜いも

の、壊しちゃえ!って散々こき下ろされたんだから。それでもい

つかは壊される時が来るでしょう。時代は変わるんだから。後世

の人がなんら価値を見出さくなった時に世の中が変ってゆくの

よ。そうして歴史は塗り替えられてゆく…そう考えたときにね、

勝者と敗者は簡単に入れ替わることが自然の摂理だとわかるのよ。

勝者と敗者のどちらにも属さず、流れのゆるやかな川の中ほどを静

かに流れ続けて、人生の最後という海に行きつけたらいいけどね。

でも、過度に走らず浮き沈みなく人生を続けるのが一番難しいこと

だと思う。つまりは中庸の徳を身につけることの難しさがそこだと

思う。ほら、鉄棒の演技で、ぐるぐる回って、ハイって降りるんじ

ゃなくて、ずっと鉄棒で懸垂したまでぶら下がっている感じよね。

話が飛躍しちゃったけど…」


            


 バトラーは女性に、「おもしろいです。懸垂できませんから、

実に納得しました。中庸の徳の意味が。そして、それがいかに難し

いかってことを」と言った。そしてシェイカーから透明な液体をカ

クテルグラスに注ぎ、すっと女性の方に差し出した。


            


 「新しいカクテルです」「あら、そう」女性は目をつぶって

一口、口に含んだ。「なんだか…甘くもなく、酸っぱくもなく、

苦くもなく、いったい、なに?」バトラーは「『中庸のカクテル』

です。天然水にシロップを足しただけですから」とくすりともせず

静かに言い放った




 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 エッフェル塔、私がこの世にいる間はいて欲しいですが、

どうでしょう?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年12月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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