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リサコラム
連載912回
      本日のオードブル

『Audrey』

第2回

「ムーンリバーのあとで」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ターバンを巻いた女性が

窓辺でギター片手に歌う

そのシーンを

真似て

過去にいったいどのくらいの人が

窓辺でムーンリバーを

歌ったことでしょう。



 



第2回 「ムーンリバーのあとで」



 議長の熱唱の『ムーンリバー』は拍手喝采で迎えられ、開会を宣言

したのちは大きなどよめきが起きた。そのどよめきが収束したあたり

で、これで無事、先にすすめると、議長はほっと胸をなでおろした。

しかし、その矢先、ひとりの女性が挙手をした。「あなた、元々のや

り方が間違っているわよ」


            


 そう、言ったのは95と言う番号札を胸につけた女性だった。彼女

はその名前名札に振られた番号95を指差し指しながら、「あなた

ね、なんで私は95番なの?」と言うと、そのブルーのドレスの裾

をちょっと持ち上げつつ、ゆっくりと檀上に向かって進み出た。

彼女が足を前に進める度、彼女を支える黒い3つ目の脚は、元、

小学校の教室の床をカタ、カタと鳴らした。


            


 「おっしゃりたい事はなんとなく想像がつきますが、それはもう

すでにご承知の上だと思っておりました」「承知、ですって?」95

番の女性は檀上近くまでやってくると、「確かにあなたは年端もゆか

ない若造ですからね、多少は大目に見てあげてもよろしいですけど

ね、言わせていただきますが、わたくし、95って言う番号が大っ

嫌いなのよ。54に変更してくださいな」「あの、しかし、54番

はですね…」議長がそう言いかけると、「はい!」と、黒いスレン

ダーなドレスの女性がさっと立ち上がった。彼女は自分の名札につ

けられた54を差しながら、「わたしが、その54番なんですけ

ど、残念ながら、私はこの番号を譲るわけにはゆきません」と言っ

た。すると、もう1人の女性が手を挙げて「私も54番を希望した

のですが、この方が先に54番を取られたものですから、第二希望

の29番になりました」と言った。


            


 議長は両手で2人を座るように、という仕草をしてから、「オード

リー・クラブにおきましては、規約にも盛られておりますが、番号の

ご希望が重なった場合、発起人とその役員に一任とすると明記されて

おります。そのため、番号の変更は致しかねます」は言った。する

と、95番の女性は壇上にある椅子を指さして、「その椅子、こちら

にくださいな」と言ってから、議長に杖を向けながら、問い詰める

ような表情で、「それは、誰が決めたの?」と言った。「はい、

発起人代表のわたくしでございます」と議長がそう言うと、

「だいたい、この中にオードリーを名乗る者は一体何人いると思っ

てらっしゃるのかしら?」とさらに厳しい口調で詰め寄った。


            


 「はい、本日のご出席はこの支部の40名様でございますが、

全国で100名様でございます」と言うと、95番の女性は、

「100人の中で下から5番目なんて、そんな番号、私は希望なん

てしなかったわ。私が希望したのは54番だったのよ。それなのに

なぜ95番になるの?」「はい。ご説明いたします。番号はご希望

も含めて決めさせてさせていただきました」「だから、さっきから

言っているように、私の第一希望は54番で、次が29番。95番

なんて、私の希望の中にはなかったはずよ!」


            


 「はい、存じて上げております。ただ抽選と熟慮の末、95番に

させていただきました」「だからね、95番なんて、そんな番号を

希望した覚えはありませんことよ」「はい、それも存じておりま

す。しかし、お年が95歳でいらしたものですから、これはとても

良い番号ではないかとなり、そのようにさせていただきました」

「あなたね、堂々とプライバシーの侵害をするおつもり?女性の

年齢をそのように言いふらすものじゃないんじゃないわよ!」


            


 「はい。お気に触ったのであればお詫び申し上げます。しかしこの

オードリー・クラブに発足の年、つまり、パリオリンピック、

パラリンピックの2024年におきましては、95と言う数字は非常

に意味のある数字でございます。ご存知の通り、95番様、あなた

様はオードリーと同じ年のお生まれ、つまり、1929年で今年、

95歳でいらっしゃいますね。しかも、54日。オードリーと全

く同じお誕生日でいらっしゃいますね」


            


 「さようです!私自身、オードリーとふたごの姉妹と思っている

わ。一卵性双生児よ」95番の女性は堂々と言った。議長は大き

くうなづくと、「ただ、54日生まれの方はあとお二人いらっし

ゃったのです。そのため、第一希望の54番の番号をご希望の方

3名様で抽選とさせていただきました。あいにく、54番は先ほ

どの方になりましたため、第二ご希望の1929年の29番の番号

にさせていただこうと思いましたが、ただ29番の番号は先に第一

希望の方がいらっしゃいました。それも最年少29歳の方でした

ので、そちらの29歳の方に29番の番号はお譲りいたしました」

会場はどっと笑いが起き、すぐにざわめきはじめた。


            


 「静粛になさってくださいませ」議長は声を張り上げた。

「もちろん、みなさまにオードリーというお名前だけを付けたい

と思ってはおりますが、何しろ、100名のオードリーがいても、

まったく区別がつかないわけでございます。それなら、オードリー

が主役をつとめた映画の中の名前、たとえば、ホリーとかゴライトリ

ーとか、イライザなんていう有名な名前は100名分もございません

し、もし、そうしたといしたら、いい役の名前にご希望が集中する

のは目に見えておりましたので…」「私は、アン王女がいいわ~」

と一人が声を張り上げると、また、どっと笑いが起きた。


            


 「会員番号の付け方を見直すべきよ!」また別の一人が声を上

げると、「そうよ、そうよ、公平じゃないわ!」という声が続

き、「ご静粛に!ご静粛に!」と議長は場を制しようとしたが、

すでに、会場は勝手な会話で収集がつかない状態にまた戻って

しまった。


            


 「自称オードリー・ヘップバーンを名乗る女性に番号をつける

こと自体に無理があったのかしら…」ムーンリバーを歌い終わった

あとで、どうやって次の戦略に出ればいいのか、議長は額に手を置

くと、個性ほとばしる40人のオードリーを眺めながら先ほどより

さらに深いため息をついた





  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

自称オードリーの方、世界中でどのくらいいらっしゃる

でしょうか?想像もつきませんがきっとすごくたくさん

だと思います。

『ムーンリバー』を歌うオードリーの顔、難しくて

全然似ていません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年4月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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