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リサコラム
連載914回
      本日のオードブル

『Audrey』

第4回

「オードリーとピンク」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ピンクの

ミニ丈のドレスは

大きなリボンが前についた

サッシュでキュッと結んで

セクシー?いやいや、

もっとキュート!


 



第4回 「オードリーとピンク」




 
「みなさま!そろそろ、お戻りください!」議長はそれでも、まだ、

議事進行をあきらめていなかった。そうして中庭でダンスに興じて

いる40人のオードリーを教室に連れ戻そうと、およそ3分おき

に「みなさま!そろそろ、お戻りください!」と叫んでみた。

時にはなだめるような声で、そして時には懇願するような声で。

しかし、何ら効果はなかった。「暖簾に腕押し、豚に真珠か…、

いやいや、めっそうもない、オードリーに向かって!」と独り言

を言った後に、慌てて打ち消した。


            


 ただ1人、後者の教室の中で宿題の居残りさせられた生徒の議長

は中庭で遊ぶ友人たちを眺めるしか術がなかった。議事録はひとつ

として、まともに議論されなかったが、その後、議長である彼女の

研究発表に移る予定だった。その研究発表というのはいわば統計だ

った。オードリー・クラブへのメンバーとて入会を認められた、選

ばれし面々が提出した、自分の好きなオードリーの姿、言葉、

衣装、生き方、家族、ライフスタイル、引退後のユニセフ親善大使

として、そして彼女が絶対に口にしなかった真実、破綻した結婚生

活、結婚相手などなどのいろんな論文の中で浮かび上がってきたデ

ータをまとめて発表しようと思っていたのだった。


            


 中庭では議長のそんないらだちをよそに、インストラクターの踊

りを見よう見まねで真似たり、芝生に座って談笑したり、議論を戦

わせたりするメンバーの熱気が最高潮に達していた。そんな中、

今更、統計データだのを述べて、場をしらけさすほど野暮なことは

ない気がした。ここに集う人々は、オードリーに関することは誰よ

りも知り尽くしていると自負している人間ばかり。そんなオードリ

ーの分身のような人間たちに番号をふることはできそうにないこと

はわかったが、本名で呼び合うことも不自然な感じがする。かとい

って、みながオードリーでは区別がつかない。オードリーの中の好

きな登場人物を選ばせるにしても偏りが生まれる。つまり、何かの

規則によって並べることなど不可能なのだ。理想と空想と創造の自

由な海で泳いでいる魚に番号をつけることは不可能だと思った。

それぞれが我こそは最もオードリーに近い生き方、スタイル(そう

でない方も、かなり大勢) だと思っているのだから。


            


 議長は椅子に腰掛けると、また、ため息をついた。その時、背後

からかすかな声が聞こえた。何を言っているのか、また誰に向かっ

ても言っているのかもわからないまま振り返ると、そこにはピンク

のドレスを着た女性がいた。もちろんオードリー・クラブのメンバ

ーに他ならないが、さっきまではこんな衣装を着た人はいなかった

はずなのにと議長は思った。


            


 「ため息は命のカンナ」女性はそう言った。「はい?」何を言っ

ているのか、議長はさっぱりわからず、ポカンとした顔で、女性を

見ると、「ため息は、命のカンナ」と彼女は同じ言葉を繰り返し

た。「ため息がなんですって?」女性はにっこり微笑むと、また、

ゆっくり、「ため息は、命のカンナです。ため息をつくのは止めた

ほうがいいですよ。命を削るだけです。1回のため息が、1日、

命を縮めます。だから…」大きないちご色のサテンのリボンがウ

ェストの上に乗ったようなスタイルの際立つピンクのドレスの女

性は、バルーンのように広がったドレスのスカートをちょっとつ

まむと、お辞儀をしながらにっこり笑った。


            


 「まあ、素敵ですね、それは、『ティファニーで朝食を』の中

で、ホリーが興奮して暴れるシーンで着ていた衣装ですね」

「ええ、私はこのドレスが一番好きなんです。オードリーが着た

全てのジバンシーのドレスの中で一番好きです」女性はくるっと

1回転してみせた。「私のお手製なんです」「まあ!なんてこと

!」議長は椅子から立ち上がると、ピンクのドレスの周りをゆっ

くりぐるっと回った。「すばらしい出来だわ。私にはとても作れ

そうにないから、評価する資格さえないけれど、それでもすばら

しいことはだけはわかります」ピンクのドレスはうれしそうにに

っこり笑うと、「ありがとうございます。趣味でドレス作りを始

めたのも、『ティファニー』でこのドレスを見た時からです。

もう、衝撃でした。まだ小学3年生だったのですが、こんなドレ

スを着てみたいと。友人はみんな黒、グレー、ブラウンみたいな

渋い色の服とか、ものとかを好きとか言って、大人ぶっていまし

たけど、私はまったくそんな色に興味がなかったのです。絵の時

間に絵を描くときもピンクばかり。先生に他の色も使いなさいと

言われても、やっぱり、ピンクの世界を描いていました」


            


 「そうなんですね。そんなにピンクがお好きですか?」

「ピンクが好きなわけではないのです。オードリーとピンクが私の

中では一体化しているのです。オードリーほど、ピンクを嫌味な

く、清楚に美しく着こなせる人はいないと思っていますから」

「ああ、あなたが、『オードリーとピンク』という論文をお書

きになった方ね!」「そうです」「ああ、そうでしたか。なぜ、

オードリーはピンクが似合うのかという下りは大変興味深かった

ですよ」「ありがとうございます。私は幸せな人はピンクを選ぶ

というのはあながち間違いではないと思うのですが、それより、

幸せを希求する人はピンクを選ぶと言った方がよいのではないか

と思っています。きっと、ここに来ているみなさまもそうだと思

いますが、オードリーはカメラが回っているときと、実際の人物

とはまるで違っていたと言われます。フイルムの中の彼女は凛と

して、かわいく、清楚で、時におどけた、でも芯の強いという、

そんないわば固定観念に近いイメージがありますが、実際はいつ

も気弱で、おどおどして、他人をずっと気遣う人だったようです

から。強さより、弱さが勝っていたのだと思います。そんな人に

こそ、ピンクが最も似合うのだと私は思うんですよ」「そうです

か。でも、あなたは、気弱そうではありませんし、お育ちのよさ

そうな雰囲気がむんむんしていますね」議長がそう言うと、ピン

クドレスの女性は首をふった。そして議長の前に両手を出して裏

返して見せた。


            


 「傷だらけで、ごつごつしていますでしょ。魚屋なんです。

朝から晩まで、冷たい水と包丁で格闘しています。父も母もそう

です。祖父も。もう、亡くなりましたが、祖父の手はいつもボロ

ボロにふやけていました。今はビニール手袋をしますが、昔は素

手でしたから…私、自信あります、議長さん、ここのメンバーの

中に私みたいに家業が、きつい、きたない、給料が安い仕事をや

っている人、いるはずです。きっと『○○臭い!』とか言ってい

じめられていたと思いますよ、子供の頃に。私の場合は、『魚臭い』

です。はははは。だから、ピンクのドレスを着て、その魚臭さを消

しているんですよ。ピンク色には、そんな消臭効果があるんです!』

そう言い終えると、ピンクのドレスの女性は身をくねらせると、

飛び跳ねるように踊りながらまた、中庭の仲間の元に戻った。

そして、「みんな、教室、もどろうよ!先生が心配してるわよ~」

と叫んだ。すると、みんな一斉にピンクのドレスの女性に注目し

た。


            


 「きゃあ~、なに!すてき!いつ、着替えたの?わ~、

見せて!」40人の大人たちは小学3年生の顔に戻っていた。

ピンクのドレスは議長の方に振り返って言った。


            


 「先生、ピンクには、玉手箱効果もあるんです。少女に戻れ

るってことです!



  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

ジバンシーのドレスがオードリーとセットに

なっていますが、このピンクのドレスもかわいい!

最近、オークションで高額で落札されたようです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年5月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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