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リサコラム
連載917回
      本日のオードブル

『Audrey』

第7回

「ホリー・ゴライトリー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ホリー・ゴライトリー

どうしてすぐにわかるの?

それは、もう、

長いキセルに

髪飾りにパールのネックレスに

黒い手袋に

その笑顔よね。


 



第7回 「ホリー・ゴライトリー」




 
 「あの、よろしいでしょうか?」黒い長い手を議長に向かって

真っすぐに挙げた女性は「どうぞ!」という議長の快い発言の

許可を得て、ギイと椅子を引く音をさせて立ち上がった。その

スレンダーな黒いドレスは紛れもなく『ティファニーで朝食を』

のホリー・ゴライトリーそのままだった。


            


 彼女は少し緊張した面持ちで、「僭越ながら、」と言う固い

言葉から始めた。「私たちは、つまり、ここに集う私たちはと

いう意味ですが、オードリーの姿を常に頭の片隅に置いているの

ではないでしょうか?」そう言ってから、会場内を見渡した。

中には黙ってうなずく者もいたが、あえて反対意見を言いたげな

顔はなさそうだと判断すると、「それでは、」と続けた。


            


 「その姿とは、引退した60代のオードリーではなく、永遠の

ミューズと言われるオードリーの若い頃の美しい姿形なのではあ

りませんか?しかし、今までのお話しを伺っていますと、そんな

オードリーだけがオードリーの真の姿ではないから、若い頃のオ

ードリーを偶像化してはいけないような、まあ、言い過ぎかもし

れませんが、そんな感じを受けたのですが…しかし、それのどこ

が悪いんでしょう?どんなに憧れても、偶像崇拝しても、オード

リーはこの世にはいないのですから、まさに、ご本人にとっては

、『勝手にどうぞ』という感じではないでしょうか?さらに彼女

亡き後、すでに30年も経つのに、未だに私たちを含め、まるで

生きているかのように彼女の存在を消すことができない人たちが

世界中に大勢いて、彼女から常に刺激を受け、影響を受け続けて

いるのですから…」


            


 最前列から手が挙がった。「ちょっと待ってください。もう少し

喋らせてください。ここまで来る私の道のりはかなりの長旅だった

のです。私は離島に住んでいます。本土にたどり着くまでに船で

8時間かかりました。そこからここまで来るのに4時間の道の

りでした。ですから言いたいことを言わなければ、とても、帰れ

ません」会場内から、拍手と笑いが起きた。議長は「遠慮なく、

続けてください」と促した。


            


 「ありがとうございます。この場所が東京ではないから、

さらに、移動距離が長いことにちょっと躊躇しましたが、それでも

なお、オードリー・クラブの最初の会合に参加したいと思ったの

は、どうしても言いたいことがあったからなのです。先ほど発言

なさった方はオードリーの美しい輝かしい栄誉に満ちた半生と

その後の献身的なボランティア活動の両面に焦点を当てて人生

を語るべきだと言われておられましたが、私は彼女の厳格で潔

癖さの中にこそ、彼女の独特な魅力の秘密を探るキーワードが

あると思うのです」演説者はそこまで一気に言うと、ほっと安

堵のため息をついた。


           


 「オードリーは撮影現場が外国であることがほとんどでしたか

ら、撮影の数か月間をずっとホテルで暮らさざるを得なかったの

です。そんな時、彼女は自宅から必要な生活の道具を、テーブ

ル、椅子、テーブルクロス、食器、寝具、ベッドリネンまでを

も持って来ていたそうです。その家具、備品すべてに番号をふ

ったノートを持ち、同じノートを自分の秘書にも持たせ、その

番号で撮影現場のホテルに備品を集めさせていたそうですから

、すごいことだと思います。もちろん、ご存じの方は多いでし

ょうけれど…。おそらく食器一つ一つにも番号をつけて、自分

で管理していたのでしょうから、几帳面な性格というだけでは

理解できないと思ったのです。そこまでやるのは何のためだっ

たのだろうか?また、同じように収納するためだったのだろう

か?と、私は私自身の仕事に置き換えて考えてみました。


            


 まず、どんな仕事も几帳面でなくてはできないと思いました。

どんな職業においても、基本的に数字の間違いは許されません。

なのに、エンターテイメント業界にいる人々は常に数字を扱っ

ているサラリーマンのようではないと思ってしまいがちです。

彼女も私のようなサラリーマンと同じように、間違ったら、誰

かに怒られる。間違わないように正確に仕事をこなさなければ

ならない。単に、そう、単にそういうことだったではないかと

思ったのです。だけど、私自身は身の回りのものに番号をふっ

た事はありませんでした。おそらくこちらにいらっしゃる方も

そういう事はなさってらっしゃらないのではないかと思うので

すが、いかがでしょうか?」くすくす、はははは、という笑い

声が挙がった。


           


 「そうですよね。でも、あるとき、思ったのです。私もオード

リーのように番号をつけて家にあるもの全てを管理したら、もし

かしたら、人生が変わるのではないかって。そこで、持ち物ひと

つひとつに番号をふりました。実際に食器の裏に番号を書いて、

パソコンに入力してみたら、なんと35,627個もありました!」

会場からどっと拍手と歓声が挙がった。演説者は少し照れたよう

な表情を見せてから、お辞儀をすると、「ありがとうございま

す。膨大な数に思えますが、実際は普通だと思います。ほんと

に大変でしたが、やってみたら、なんとかできました。オード

リーはこれをアナログでやっていたのだと思いますから、かな

り大変な作業だったでしょう。だって、私は途中で何度もあき

らめようかと思いましたから。と言うことは、オードリーにと

って、自分のホームベースという家が常にそこになくては、正

確な仕事が、つまり演技がそして女優業ができなかったのでは

ないかと思いました。美しい容姿を維持し、よく言われるよう

に、常に周りに気を使いながら、最後は恵まれない子供たちに

残りの自分の時間を使い尽くすことで終えた人は、いつでも注

目の的ですから、常に人に見られるという私生活のなさに対す

るいらだちや葛藤、ストレスもたくさんあっただろうと思いま

す。人目を気にせず、ほっと解放される、自分自身に戻れるホ

ームベースがなくてはならないものだったのではないか、それ

がすべての生活のものに番号をつけさせたのではないかとそう

思います。


            


 また、私自身、番号をつけてわかったことは不要なものをいかに

多く持ちすぎているかということでした。番号を付けるのも面倒で、

処分したくなるものがたくさんありました。実際にかなりのものを

処分しました。それでまたわかったことは、無駄なものそぎ落とし

ながら、彼女は数学的に物事を考えていたのではないか?というこ

とでした。1 +1 = 2であり2 × 3 = 6であり、だから、これとこ

れを足せばこうなり、これにこれを掛ければこうなるというふう

に、言葉遣い、振る舞い、演技、すべてのものに数式を当てはめ

つつ、緻密な計算をしていたのではないかということです。これ

が、このオードリー・クラブへの入会が許された私の論文の趣旨

です。


            


 オードリーと言えば、永遠のミューズ、あどけないピュアな美

しさと言われます。しかし、あのミューズのような表情ですら、

オードリー自身が計算し尽くした上で生み出した表情ではなかった

のか?と。まぁこんなことを申しますと、彼女の美しさは彼女の精

神の表れだから、計算づくなんて、そんな失敬な、という反論も、

もちろん、覚悟の上です。しかし、彼女はプロフェッショナルで

す。女優の中の5つ星プロフェッショナルです。彼女の職業意識

の基盤にあるのは緻密な計算とひたむきさ、努力だろう思いま

す。そこまで結論づけたのは、私はものに番号をふり、不要な

ものを排除してゆく中で、これからは自分の生活を律して、丁寧

に生活していこうという覚悟を決めたからです。まだ走り出した

ばっかりですが、これが私自身、オードリーから学んだ最大のも

のなのです。


            


 『ティファニーで朝食を』の映画の中では出てこなかった、

あのキセルを持ってレストランで微笑む有名なホリー・ゴライトリ

ー役の彼女の写真は、100年後も売られているかもしれません。

あの笑顔を見ているだけで、なんでこんなに幸せな気分になるんだ

ろう?この人の顔を見ていると、どうしてこんなに豊かな気持ちに

なるんだろう?嫌味なく可愛く、美しく清らかで、同じ女性とし

て、嫉妬すらする気になれない、それは全て緻密に計算されたひ

たむきな努力が作り出したプロフェッショナルな女優の仕事のな

せるわざだと思うのです。ご清聴ありがとうございました」そう

言い終えると、割れるような拍手の中、黒いドレスの裾をちょっ

とだけ持ち上げてお辞儀をすると、今度は椅子の音を立てずに優

雅に腰かけた。


            


 彼女の高く結い上げた髪の中心には、ホリー・ゴライトリーの

ラインストーンの髪飾りがきらめいていた




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

オードリーの表情は描くのが簡単なようで

とても難しいです。やはり、あの表情はどうしても

描けません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年5月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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