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リサコラム
連載548回
      本日のオードブル

饒舌な場所


第12話


「マロンタルトと
いちごパフェで
うなぎの寝床」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



白い板の壁
白い床、白い最新型のバスタブ、
正面には白い格子の出窓
窓から流れ込むのは清々しい風の流れと
穏やかな時の流れ、
バラの泡の中で静かに身を任せたら
願い事を
すっかり忘れてしまったわたし。

ツインボールはあるけれど
ここはわたしだけの空間。
今はまだ夢のなかだけどね。
いつか、きっと。




 
      
  





       


第12話
  「マロンタルトといちごパフェでうなぎの寝床」

 

 「それで、それで?」すみれは肩を軽くゆするようにして、丸テーブルの向かい

のゆりの方に顔を寄せた。


              


 夕方のカフェ、甘い香り、静かなBGMが作り出すゆりかごに揺られ、ゆりはすみ

れの座る壁をじっと見つめたままでいた。


 「ゆり、だからそのすてきなバスルームはどんな風になっているのよ」すみれは

目を開けたままで眠っているように見えるゆりに続きの話を催促した。


               


 「すごいの」「だからどうすごいのよ?」「そうね


               


 カフェの高い天井で回るクラシックな扇風機はゆるやかな空気の流れを起こし、

二人の間に降りて来て沈黙に変わった。


 「ピンク色の夢みたいなバスルームよ」とゆりはそれだけ言うとまた黙った。

すみれのじりじりはさらにゆりとの間の間隔を縮める。ゆりはゆっくりした動作で

すみれのブラウスの一部分を指さした。すみれの薄紫色のブラウスが、メレンゲ仕

立てのマロンタルトの最上段のマロングラッセを押しやっていたからだった。ゆり

はしばらく紅茶を楽しんでからようやくまた口を開いた。


               


 「そのバスルームは一番奥にあるから、まずは、玄関から言うとね、天井はここ

まで高くなかったけど、なんか空気がつ~んと澄んでいるのよ。左が壁。右側は

数珠(じゅず)つなぎで部屋がつながっているの。それこそ京都の町屋みたいな狭

さだけどね、窮屈感は感じないくらいの間口かな。でも、部屋ごとにいろんな壁が

現れて、楽しかったわ。一つ目だったか二つ目だったか、その右手の部屋は天井も

壁も全部ピンクのバラなの。そしたら、その部分の廊下まで全部バラ柄に切り替わ

って、ちょうどバラのトンネルを歩いている感じね。不思議だけどぷーんとバラの

香りがしてくるのよ。どこからその香りが来ているかはわからなかったけど。だっ

て何も仕掛けはなさそうだったのよね~」ゆりはまたすみれのむこうの壁を見た。

白いテーブルクロスを囲んでアフタヌンティらしきものをしているロングドレスの

貴婦人の油絵が掛けられている。その背後にはピンク、赤、白、黄色の見事なバラ

の庭園が見える。


               


 「ああ、そうか、」ゆりは何か思い当たるものがあったという表情をした。

「そうよ。バラの壁紙からそのバラの香り、出てるんじゃない?そうよ。きっとそ

れだわ」ゆりは紅茶椀を両手で持って、やっと疑問符が外れた顔になった。「わか

った、わかった。壁にバラのにおいが塗り込まれているのね。それで?先を教えて

よ」とすみれはゆりをせかしたが、ゆりは落ち着き払って、ゆっくり一口ずつ紅茶

を飲むだけで、目の前のストロベリーパフェにもまだ手を付けていなかった。


               


 「そう….廊下を歩くたびにいろんな部屋が現れてくるって感じね。ほら、NY

高級マンションに住んでるOL の非現実みたいなストーリーがあったじゃない。あ

んな感じのおしゃれな部屋が続くのよ。壁に対して巨大すぎるくらの、でっかい、

『ティファニーで朝食』のオードリーの顔がアップされた写真とか、あんなアート

がかかった部屋がいくつも、いくつも続くのよ。でも、アートっていっても掛けて

いる本人がほんとにいいと思ってるのどうかわからないようなそんな絵じゃなくて

だれが見ても『わ~すてき』っていうような常識的な基準のアートなのよ。それも

いいなと思ったわね。そのアートを部屋の個性にしてインテリアしてる部屋が続く

のよ。そして間口が狭いからか、部屋を明るくするために廊下側の部屋の壁は全部

ガラス張りなのよ。内側からシェードとか、遮光カーテンなんかを掛けるようにな

ってるんだと思うけどね。住まいとSOHOが合体した感じかな」「ふ~ん、私、

その案、とてもいいと思うよ。空き家をかっこいいオフィスとしても貸し出せるっ

てことでしょ。それにオフィスとオフィスの間に交流も生まれるしね」すみれはお

いしそうにメレンゲをカリカリと音をたててから、手元のスマホにメモを入れた。


               


 「それに、ピンクの壁にピンクのカーテンに、巨大なピンクのケーキのポスター

の部屋もあったわね。そして壁も床もカーテンも全部がふわふわの白い生地ででき

てる白い部屋もあったわね。それに、ガラスの壁に大きく『FOREST』、森、って

書かれた部屋は私好みだったわね。壁紙は濃い緑色のベルベット調でしょ、そして

ブルーのレースカーテンにみどりの葉っぱがひらひらついているのよ。点々とね。

それが、こんな扇風機でゆらゆら揺れて、木漏れ日をイメージしているんだと思う

わ」「そっれ、気持ちよさそうだわ~」すみれはタルトのほぼ半分をたべ終えてい

た。ゆりはうんとうなずいてから詳細な解説を始めた。


               


 「そうなのよ。ほんとの森に入るより、きっと気持ちいいはずよ。だって心地よ

い森を童話的にイメージした部屋だからね。そこにある椅子はブッシュドノエルの

形よ。クリスマスケーキのね、それが本物のケーキの巨大版みたいで、おいしそう

で、でも、座るとクッションなのよ。そしてね、床、床がすごいのよ。歩くとね、

まるで落ち葉がかさかさ動く森の中みたいな、CGの床っていうのかしら?歩きな

がらその落ち葉がさくさく音をたてるのよ~。すごくない?」ゆりはやっとストロ

ベリーパフェにスプーンの一撃を加えると、すみれも、「それは、すごいわ」と言

ってから、タルトの最後の小さなひと固まりを口に入れた。それからふたりはしば

らく無言になった。


               


 ゆりが先に口を開いた。「インテリアって、固定って感じじゃない。でも、どん

どん風景が変わるのよ。あれにはびっくりしたわ。テクノロジーもああいう風にイ

ンテリアに使ったら面白いわよね」「なるほど、」すみれはまた指の先でタブレッ

トにメモを執った。


               


 「それに白黒モノトーンの部屋もあったわ。全部白と黒なのよ。床は白と黒の市

松。そこに黒い椅子と白い椅子。テーブルも、カーテンも右と左で白と黒なのよ。

変だけど、インパクトあって、面白いと私は思うな」ゆりはしゃべり終えるとスト

ロベリーパフェのカットしたいちごと生クリームをスプーンで上品にすくい、しか

し、あとは一気に食べてしまった。


              


 「あ~、おいしいわね。今、どこまで行ったんだけ?」ゆりはグラスの回りの生

クリームをスポンジケーキのかけらできれいにすくい取るとその最後の一口をゆっ

くり堪能した。


               


 「う~んと、白黒の部屋よ」すみれも皿の脇に転がしてあったマロングラッセを

丁寧にスプーンに乗せるとゆっくり口に運んだ。


 「おいしいかった!」すみれが言うとぱっとレモンのしぶきのようなものが飛び

散るような感じがする。すみれの「おいしかった」は世界でいちばんおいしそうな

表現だとゆりはいつも思う。


               


 ふたりの皿もグラスもカップも空になったところで、すみれは「お茶のおかわ

り、どうする?」と一応、ゆりに尋ねた。「うん、それが問題よね」ゆりは時計を

見た。すみれも見た。家族の夕飯の支度をする時間はもう30分も過ぎている。


               


 「まっ、次でいいか」すみれはそう言ってからボーイに手を上げると残念そうに

言った。「ゆりの『空想のうなぎの寝床プロジェクト』でいろんな部屋をもう

300mくらいは見て来た気がするけど、でも、上司の悪口とか人の噂話でお茶す

るより、100倍楽しいし、最終の素敵なバスルームはお預けにしとこうよ」すみれ

はテーブルで会計を済ませると、「さっ、行こっか!」とゆりを促した。


               


 二人そろってビルの谷間のコンコースを歩く。


 すみれが言う。「出窓から緑のそよ風が吹き抜けるバスルームで、」ゆりが応え

る。「ピンクシャンパーニュのバブルバスに首までゆっくり浸かって」すみれが応

える「バスローブが山のようにあって」ゆりが応える。「バスジェルも」すみれが

応える。「そしてひとりきりで」





      


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  カフェブームが続きます。続々とできます。
  心地よさに身をゆだねて、どんな会話をしたらいいのかと考えてみたら、
  こんな物語を作っていました。
  しかし、なぜかカフェには行ったことのない私です。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
           


p.s.2
     
お待たせをいたしましたが、
     近いうちに下のE-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。

     自分で四苦八苦して訳してネイティブの先生にチェックしてもらい
     わいこさんに編集作業をお願いしておりますものです。

   
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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