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リサコラム
連載645回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第5話

「イタリアンレストランの
常連客」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



白地に赤、グリーン、イエローの
鮮やかなテーブルクロスが
印象的なレストランは
ニョッキが人気。
真鯛のポワレ
カツレツも
オムレツも
美味。
さて、
女を
3つ書いて
「姦しい」
かしましいと
読むようです。
差別的な用語かも
しれませんが、でも、
何時だって楽しくするのが
女性ですから、3人集まれば、
もちろん、かしましいどころの騒ぎでは
ありません。


 







        

第5話  「イタリアンレストランの常連客」



 勤続28年のウェイターは『RESERVED』のプレートが置かれた4人席に

常連客4人を案内した。二人の若いウェイターも付き従った。


            


 そして、勤続28年のウェイターは、若いウェイターたちがひとりひとりを

椅子に掛けさせると、絶妙のタイミングで分厚いメニューブックを、まずは女

性3人の中の最年長のルリに、次に最も若いキコに手渡し、そして、それぞれ

がメニューブックを眺めている間、赤、グリーン、イエローのチェックのテー

ブルクロスの裾をちょっと直し、次に自分の赤、グリーン、イエローのチェッ

クの蝶ネクタイを直した。


            


 最初に口を開いたのは最年少のキコだった。「私は真鯛のポアレシャンパー

ニュソースと、カボチャのニョッキにしようかな、えっと、ちょっと待って、

カボチャはやめて、やっぱり、ジャガイモのニョッキにしよう。ニョッキのソ

ースは、ええと、ゴルゴンゾーラか、トマトソースね、う~ん、ここがいつも

迷うところなのよね。今日は赤ワインをメインに飲みたい気分だから、やっぱ

りトマトソースかな、うん。ジャガイモのニョッキにトマトソースで!」次に、

最年長のルリはメニューブックを隅から隅まで何度も目を通してからウェイタ

ーに丁寧な口調で注文した。「私は、シチリア風オムレツで。パスタは、手打

ち麺のスパゲッティでキノコとベーコン入りトマトソースで。パルミジャーノ

・レッジャーノを富士山みたいに山盛りにお願いいたします。それに、サラダ

は海の幸のサラダ…」「かしこまりました」ウェイターはそれだけ言ってメモ

をとった。


           


 しかし、ルリが言い終える前にキコが手を挙げた。「待って、待って、私の

ジャガイモのニョッキだけど、やっぱりソースはゴルゴンゾーラに変更して」

そこで、「えっ、待って、トマトソースにといてよ!」と言ったのは3人目の

ミクだった。ミクはルリとキコの間に当たる年齢と言えるだろう。「だって、

私、ゴルゴンゾーラのニョッキ、注文するから、キコのトマトソースのニョッ

キと私のゴルゴンゾーラをシェアできるじゃない」


            


 「なんでいつもシェアするの?」最年少のキコはテーブルと自分の間にメニ

ューブックを挟んだまま、正面に座るミクの方に身を乗り出した。「シェアす

れば2度おいしいわよ。お皿交換しようよ?ね、キコちゃん、」ミクは両手の

人差し指2本を車のワイパーのように左右に動かしながら表現した。


            


 「わかったわ。仕方ない。じゃ、ジャガイモのニョッキは、トマトソースの

ままで」キコはウェイターににっこり笑い、ウェイター黙ったままでうなずい

た。すると、先にオムレツとトマトソースのスパゲッティをオーダーした最年

長のルリが小さく手を挙げた。「それなら、私、トマトソースはやめて、オイ

ルベースでお願いしようかな。いつも通り、木の子のオイルベースで。実は私

もニョッキと迷ってて、でも、手打ち麺もやっぱり捨てがたいし。それなら、

3人でシェアしようよ、ね、」


            


 「え~、それはないよ!」最年少のキコが言った。「だって、今日こそ、ひ

とりでニョッキを一皿全部食べたいと思って来たのに、やっぱり3人でシェア

するの?」「ニョッキってものはね、」最年長のルリが両手を平泳ぎのように

開きながら言った。「つまり、ニョッキってものは、そんなにがぶがぶ、がぶ

がぶ食べるもんじゃないのよ。みんなでわいわい言いながら食べるものなのよ。

女子はニョッキの1個をフォークで半分に切ってソースをこうしてくるくると

絡めて、ワインと一緒にゆっくり、ゆっくり、もっちりした歯ごたえを味わっ

て食べるものなのよ。麺と違って、急いで食べなきゃ伸びるって心配もない

でしょ」ルリはフォークですくう仕草をしながら、ふたりに言い聞かせるよう

に言った。それをじっと見ていたキコはごくんと唾をのみ込んでから、「もう、

なんでもいいけど、早く食べた~いよ~」と言った。


            


 ミクは最年長のルリと最年少のキコの両方を交互に見ると、「わかった。そ

うしよう!ニョッキは2つを3人でシェする。これで決まり。それで、ええと

、どこまで行ったけ?そうそう、私、メインがまだなのよ。もう、いつもいっ

たい何やってるだか私たち、ええと、それじゃ私は、ナポリ風カツレツで、」

とミクが言うと、すかさず最年長のルリが「赤ワインソースたっぷりでしょ?」

付け加えた。ミクは「代弁しないでよ!なんだか押しつけがましくない?」と

ちょっと笑いながらも怒った風を装った。


            


 「だって、ミクはいつもそれしか食べないじゃない」と言ったのは、最年少

のキコだった。「そんなことないわよ」「いやそんなことあるよ」と最年長の

ルリは仕切るように言った。ウェイターはじっと黙って、メモをとった。


            


 「あっ、待って、サラダ、忘れた」ミクが言った。ウェイターは「シェフお

すすめグリーンサラダはいかがでしょう?」と続けて言った。「それ、それ、

それでいいわ」とミクが言い終えると、3人の女性はやっとほっとした表情で

背中を椅子の背につけた。


            


 ウェイターは次に、先ほどから無言で壁の絵を見つめている男性にそっと片

手を差し伸べると、男性は、「ゴーギャンの作ではないかな?もしかして」と

おそらく10回は繰り返しただろうセリフを言ってから、「いつもので」と一

言だけ言った。ウェイターは「かしこまりました。そうですね、もしかしたら、

ゴーギャンかもしれません」と静かに答えた。


            


 それから、ウェイターがキッチンに入ったのを確認すると、最年長のルリは

「なんだかんだって言って、いっつも同じもの注文するよね、私たち。結局、

今日もいつもと同じじゃない?パパの誕生日なのに」と言うと上品に笑った。

そしてその娘のミクとキコは「そうかな?ちょっと違うんじゃないかな?」

と同時に同じことを言うと、それぞれが自分のスマホを取り出し無言で指を

動かし始めた。


            


 この晩、ウェイターは4人に先月とも先々月とも全く同じメニューをテーブ

ルに並べた。ただ一つだけ変わっていたのは、特別な日にだけする、テーブル

クロスとコーディネートしたウェイターのイタリー製のシルクの蝶ネクタイ

だけだった




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   書いているうちにニョッキが食べたくなりました。

p.s. 2  

    迷った挙句いつも同じものを注文してしまうのは、
   きっと彼女たちとお父さんだけではないですよね。
  


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年2月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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