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リサコラム
連載628回
      本日のオードブル

2023年ある素敵な街に

第8話

「東海岸ホテルと6人」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



朝日が
降り注ぐ
東海岸のホテル
青い海をソファに
寝そべって、
天蓋ベッドに
横になって
眺める部屋は
プルシャンブルーと
シャルトリューズレモン。
カーテンはピーコックブルー。
白い床で朝日の陰を楽しみながら
過ごせるここはマダム・ワトソンという
リゾートホテル。
朝型の
あなたに
ぴったりです。
お目にかかれますことを
心より楽しみにいたしております。



 







        

第8話 「東海岸ホテルと6人」





 「今回、会議を招集いたしましたのは、東海岸の方に新たなリゾートホテル

ができるという情報が入ったからです。われわれ、西海岸ホテルアソシエー

ションにとりましては、そのための対策会議を、」その時、マイクがキーンと

不気味な音を立てた。同時に6人のホテル、旅館の支配人が集まる会議室はざ

わめいた。


            


 「ご静粛に願います」議長がまたマイクを取ると、キーンという音が長く尾

を引いた。「静粛にするのは、そのマイクじゃないのか?」老舗のA観光ホテ

ルの支配人A氏は言った。同じくB老舗ホテルで保守派として通っているB

は、「われわれの方には何らのお伺いも立てずに進められているということ

ですね?」と議長に聞いたが、その声はマイクのキーン音にかき消された。

C
観光ホテルの支配人C氏はウェイターにB氏へマイクを渡すように指示した。


            


 保守派支配人B氏は立ち上がると赤と紫のレジメンタル柄のネクタイを直し

てから、「われわれの方には何らのお伺いも立てずに進行されているというこ

とですよね?」と同じ言葉を繰り返した。議長は、「そのようです、しかし、

問題はですね、」と落ち着き払って答えたが、キーン音はさらに会場全体を包

み込んだ。「問題はですね、」議長は少しいらだちを見せた。


            


 すると支配人B氏が手を挙げた。「そのマイクは耳障りですね。やめませ

んか?」と言った。議長はマイクのスイッチを切ってから、「問題はですね」

と、やっと静かになったところで改めて言い直した。


            


 「問題はですね、つまり、東海岸は私どもの管轄外なのです。私もあらため

て協会の規約を見直しましたが、事実です。従いまして、」「我々には意見す

る権利はないということですね」とC観光ホテルの4代目支配人C氏が続けた。


            


 それに反応したのは最後列の老舗旅館支配人D氏だった。「それなら、いっ

そのこと、みんなで宿泊者第一号になりましょう!よろしいんではないです

か?敵を知らずに味方の陣地を固めることは不可能でしょう」「私は反対で

すね」と反論したのは、西海岸ホテルアソシエーションの中では一番若い支配

E氏だった。「つまりですね、もう時代遅れなんです。みんなで仲良く、

とか、みんなでアイデアを出し合ってなんてのは、」


            


 すると、改革派支配人C氏が手を挙げた。「今までもずっとみんなでアイデ

アを出し合ってうまく切り抜けて来たじゃないですか?災害あり、風評被害あ

りでもですよ。我々6軒が喧嘩もせず足並みを揃えて来たからこそ、ちょっと

は有名な観光地になったことはどうか、お忘れなきように」とE氏の方を振り

向いて言った。


            


 若支配人E氏は、「もちろん、6軒でアイデアを出し合ってやってこられた

のは先代から聞いております。しかし、芥川龍之介のゆかりの地も、川端康成

の立ち寄った宿も、三島由紀夫の愛した浜も、太宰治の密会の場所も、どんな

文豪を引っ張り出してきてイヴェントを行っても、イメージは定着しなかった

んですから」


            


 「それは文豪の人選が悪かったんでしょう。4人とも自ら命を断ってい

るしね、」と言ったのは、老舗旅館支配人D氏だった。


 E氏は続けた。「まあ、それはそうかもしれませんがね、しかし、日本の文

豪を持ち出しても、若い人が日本文学から離れてきている今、いっそのことベ

ートーヴェンの生誕祭みたいなのに乗っからないと、老舗ホテルはどうしても

不利です」それに対してD氏は落ち着き払って、「ベートーヴェンを持ち出す

のはかなり難しいね。マルセル・プルーストなんてどうかね?紅茶に浸したマ

ドレーヌなんて、」というと、お茶やお菓子の並んだテーブルの前に控えてい

るウェイターに「わたしにも、紅茶とマドレーヌをもらえないかな?」と

言った。


            


 若支配人のE氏は不満そうな顔で続けた。「その東海岸のホテルはリゾート

色を前面に打ち出してくるようです。3年後の2028年の夏開業予定です。

このままでいって、3年後に何軒残っているかですよね。つまり相手のことよ

り自分たちがどうするかってことじゃないんですかね?今までは生半可な企画

ものばかりで結局のところ、持続可能な成果を挙げられたとは思えません」


 E氏の発言が終わるのを待っていた保守派B氏が手を挙げた。「持続可能は、

2020
年までは流行語だったけどね、そもそも人間が持続可能なではない動物

である限り、持続可能とは、不条理というか、ねじれた物言いに私には感じま

すがね。自分がいなくなった後、あの世から遠隔操作できる持続可能装置でも

できれば話は別ですけどね」


            


 すると、老舗旅館支配人D氏は紅茶カップをソーサーに置くと、落ち着き払

った声で、「みんな忙しい中、集まっているんです。そんな話になるなら、こ

んな会議をやっても意味ないでしょう」と言うと、議長は、「まあ、話が飛躍

してきましたので、」と間に入って来た。しかし、すぐに、改革派C氏が発言

を求めた。


            



 「お客様が新しい設備に惹かれるのは仕方ありませんが、新しいから成功す

るわけではありません。3年前まではSNS、ネット全盛の時代でしたが、

2000年世代は物心ついた頃からスマホがあったわけですから。人々はネッ

ト社会にもう十分飽きています。時代は繰り返すで、体験型に移行しつつある

今、6軒がそれぞれ個性を出し合って、新しい価値観を生み出す今が転換期じ

ゃありませんか?」


            


 「新しい価値観ね~それってよくわからない言葉ですよ」最も若いE氏は

ため息と共に吐き捨てるように言った。室内には妙な静寂がやって来た。


            


 改革派C氏は、「それなら無視すればいいでしょう。向こうは朝日を拝む

ホテル、こちらは夕陽を愛でる西海岸のホテルと旅館だから、客層は違うで

しょう。夕陽の海はなんと言っても、リゾートに好材料ですから、ここで心

機一転、ジャパネスクリゾートみたいな切り口で私たち6軒も一斉にリニュー

アルするというのはどうでしょう?アイデアを出せば、大掛かりでなくやれる

はずですよ。温泉宿のビフォーアフターなんてテレビでいくらでもみたことあ

りますよ」それに対して手を挙げたのは、保守派B氏だった。


 「無視するのと、指をくわえて見ているのと実際はどう違うんですか?私は

そのリニューアルチームから抜けたいね」と言い放つと、場はまた静まり返

った。


            


 「私も抜けたいね」と言ったのは、A氏だった。そして老舗旅館支配人D

は「私もだね」と言った。すると議長は、「まあ、白状しますとね、孫娘がそ

のホテルで式を挙げたいっていうもんですからね。これには参りました。でも

わからんでもありません。私にはもう大規模でなくても、リニューアルの気力

はありませんね」とため息をついた。


            


 若手のE氏は「確かに若い方には新しいリゾートの方がいいでしょう。しば

らくは黙認しながら、ゴーイングマイウェイでゆくしかないようですね。もう

時代遅れなんです、みんなで仲良く、アイデアを出し合ってっていうのは」と

先ほどと同じ主張をした。


 黙って聞いていた改革派のC氏は、「なんてことですか?私以外は全部消極

派ですね!ゴーイングマイウェイ、わかりました。それならそうで。みなさん

ほんとうに、ゴーイングマイウェイでゆかれるのですね」改革派のC氏はひと

りずつ、確認を取るようなしぐさをした。


            


 A氏は「ええ、私も特段、一緒に何かをやる気はありませんね」と言い、

B氏は「右に同じ」と言った。D氏は「ええ、Cさんとこはお好きにどうぞ。

私もゴーイングマイウェイで結構」と言った。議長は「先ほど申した通りで

す」とうなだれた。Eは、「前言に誤りなし」ときっぱりと言うと、議長の閉

会宣言を待たずに、4人は部屋から出て行った。


            


 最後に議長はC氏に、「お宅の会議室を借りたのに、申しわけない」と一言

だけ言うと、部屋を出て行った。


            


 C氏は5人が出て行った部屋で、テーブルの片付けを始めたウェイターに近

くに来るように手招きした。


            


 「これでいいんだ」C氏はウィターに言った。

「いいんですね、お父さん」

「ああ、皆、東海岸のホテルには我、関せずと言ったじゃないか」

「わかりました。それでは、予定通りで」「うん。そうしよう。みんなと仲よ

く改革をやりたいと思ったんだが。まあ、これも想定内だったから仕方ない。

大手を振って彼女と結婚しない。婚姻関係により東海岸のホテルと新たな友好

関係が生まれるのだし、彼らと縁を切ったわけでもないから、これがベストな

選択だろう」C氏はそう言うと、息子のウェイターに紅茶とマドレーヌを持っ

てこさせた。


            


 「『他人をして戦わしめよ。幸福なるわがホテル、結婚に励め』ハプスブル

グ家の家訓がわがホテルの家訓だからな」C氏は少し寂し気につぶやくと、二

人は紅茶で乾杯をした




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
  
  近隣に新しいホテルができるという
  6軒の老舗ホテルの話ですが、
  架空ではありますが、
  同業のみんなと仲よく協調し合ってとは
  きっと大変に難しい課題ですね。
  仲よくを政治に上手に利用した
  ハプスブルグ家のはすごい組織だと
  思うところです。

p.s. 2

  今日もiPadで描きました。
  立ちながらも、片手間でも描ける便利さは
  素敵ですが、鉛筆と遠ざかるのは怖いです。
 

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2018年10月号です。
           
            


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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