MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載637回
      本日のオードブル

思いでの場所

第7話

「叔父のゲストルーム」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ブラック&ホワイトのインテリア。
ここはゲストルームのようです。
黒白のボーダーの壁を背景に
白いベッドが2台。
ヘッドボードは
アートな
曲線

描きながら素敵な
アクセントになっています。
黒地に白ドットのベッドスカート
白地に黒いストライプの
カーテンが
クール!
ブルーのラインで
きりっとした絨毯
ブルーのイニシャル刺繍の
ブレックファストピロー
も素敵でしょ?



 







        

第7話 「叔父のゲストルーム」



 この間、運転しながらラジオを聴いていたんだけど、すごいことになっ

ているのね、今は。人工知能が小説を書いたり、コントを作ったりするら

しいね」まこはハンドルを握っているケンタの方を向いて言った。


            


 「そんなのふつうじゃん」「そうぉ?」まこは年々会話も減って、何をし

ゃべればいいかわからなくなった弟ケンタが少しでも興味を抱きそうな話題

を見つけたつもりだったが、やはりヒットはしなかった。近隣に住んでは

いるものの、立てば見上げる感じの長身の弟、ケンタとは段々しゃべること

がおっくうになっていた。しかし、昨日から叔父の新築の別荘に一緒に招か

れてしまったために、仕方なく、行きも帰りも車中でなんとか話題を見つけ

て話をせざるを得なくなっていた。


            


 3つ違いとはいえ話が合ったことがなかった。まこはありふれたマンショ

ンで夫婦2人暮らし、ケンタは高層マンションのワンルームで独身貴族的な

ひとり暮らし。生活環境の違い以前に、理系の弟と文系の姉は子供の頃から

会話がかみ合ったことがなかった。そんな風に常に平行に流れる2つの川に

一日だけ通行できる橋を叔父が架けてくれたとしても、2日目ですでに話題

には事欠き始めていた。だからといって、昨晩一泊だけしたあの素晴らしい

叔父の家の話をまた切り出すのもおっくうに感じて、まこは黙った。


             


 しばらく沈黙が続いたあとで、まこはやっと話題を見つけた。「ケンタな

ら、どんな家に住みたい?」ケンタはまこがじりじりとするくらいに間を空

けてから返事をした。「まあ、あんな家がいいんじゃない?」「あんな家?

あんな家って、どんな風にあんな家?山の別荘ってこと?」ケンタは不機嫌

な様子で「場所じゃなくて、躯体でもなく、手触りって言うかね」まこは、

子供の頃の記憶しかない弟の趣味が今どんな風なのかわからず、その言外に

意図するところはくみ取れなかったが、やっと会話が続きそうだし、しばら

く続けてみようかと思った。


            


 「確かに。モノトーンですっきりして、いい感じの家よね。私もあのゲス

トルーム、気に入ったわ。いいな~、わたしもあんな家に住んでみたいな」

まこはそう言うと弟の顔を見たが、その表情にはまるで変化がなかった。こ

んな時、弟じゃなくて、妹か姉であれば、いや女友だちと一緒であれば、話

しも盛り上がって楽しいのに。「ふ~ん」まこはこれ見よがしにため息をつ

くと、冬枯れの窓の外を見た。


            


 叔父はこんな辺鄙な場所によく別荘を建てたものだ。車でしか行きよう

がない、夜は真っ暗な山の中で、都会に住んでいる彼の友人を呼んだとして

も、かえって迷惑だろう。


 「お買い物、どうするのかしら?」まこはふと心配になって弟の顔を見

た。「どうにでもするさ、ネットあるし」「まあね。でも、あんな山の中で

圏外にならないのかしら?ああ、パソコン、パソコンでやればいいことね」

まこはまた弟にバカにされる前に慌てて言った。そしてまた、ため息をつ

いた。


            


 まだ走り出して20分と経っていなかった。これから高速を使っても、帰

り着くまであと2時間半はかかる。まこはこの先の150分間を思うと、ど

っと倦怠感を感じて、シートを倒して目をつぶった。


 車はようやくインターまで来たようだった。「ああ、ちょっと止めて」ま

こは弟に言った。「トイレ?」「いや、後ろのシートに座っていいかしら?」

「どうぞ」ケンタの感情のない平坦な声が響いた。「ありがとう」まこは助

手席から降りて後部座席に移ると、鞄から本を出して読み始めた。
到着まで

まだたっぷり2時間もあるから、途中のサービスエリアで休憩を挟んだとし

て約3時間。その間、無理に話をする必要がないと思うと、なぜかうきう

きした。まこはこの感覚に新鮮な幸せ感を感じた。さあ、読みかけの本の世

界に入ろうかな、同じような冬枯れの寂しげな風景を見ているより、ヨーロ

ッパの美しい街並が続く、小説の世界に入り込んだ方がきっと楽しいだろう

し。


            


 しかし、5分も経つと、まこはまた叔父の家のことを考え始めている自分

に気づいた。まるで掘っ立て小屋のような、と表現できるような外観、そし

てそれを裏切る清廉な空間。外の空気よりさらに心地よい空気の流れを感じ

ながら、モノトーンの廊下を歩くと、眼下に広がる森に
方を囲まれたホテ

ルのラウンジのような空間。しかし20畳ほどのややこじんまりした広さ、

まるで有名人がお忍びでやって来るようなスキーリゾートを彷彿とさせる、

この感じがとてもよかった。そして薪の燃える暖炉、白い一人掛けのソファ

8つ。それぞれ好き勝手な方を向いて置かれていた。まこはこの風景を見た

時、いかにも叔父らしいと思った。独身で、偏屈な叔父は、一族の中では完

全に爪弾き者になっていた。しかし、誰もがアウトローだと思ったにもかか

わらず、予想外なことにある分野の仕事で成功し、そして、この叔父の山の

中の別荘は3軒目の家になった。あとの二つは海沿いの別荘地の感じのいい

小さな家とそして都会のマンションの最上階だった。まあ、よくある成功例

ね、まこは悔し紛れにそんな言葉を胸の中で吐いた。しかし、まこの暮らし

とはくらべものにはならないくらい素敵なことは自分が一番わかっている。


            


 叔父は身軽な独身だが、みんな体はひとつ。3か所の維持費より、絶対に

ホテルの方がいいんじゃない?それに、あんな不便な場所に行くのも大変だ

し。実際にその山の別荘には、叔父の車1台がやっと停められるガレージし

かなかった。そのため、来客は遥か下のほうの自由に止めていい場所に停め

てからしばらく歩かなくてはならない。叔父曰く、ここに家を建てたかっ

たから、来客の駐車場まで考えが及ばなかったと。なんとも自分勝手な叔父

らしい発言だった。


            


 「姉貴、昼、どうする?」運転席のバックミラーから、ケンタが、まこの

顔を見た。「ああ、そうね、もう、12時か、じゃ、次で休憩しようか?」

まこはそう言うとまだ字面を追うふりをした。しかし、すでに2行目の石畳

の描写から思いは叔父の家のゲストルームの様子に移っていた。叔父の家に

は3つもゲストルームがあった。どれもほぼ同じ大きさのツインルームで、

モノトーンのアーティスティックなインテリだった。それぞれにバスルーム

が備えてあり、ホテルの一室のような雰囲気に近かった。昨晩は、夕方、叔

父の別荘に息を切らして上ってゆくと、まこが持参した夕食をレンジで温め

て暖炉の前で食べた。その後は、それぞれの部屋に引っ込み、まことケンタ

は朝10時過ぎに起きて来て、キッチンでコーヒーとシリアルを食べ、そし

て、自分の部屋に籠っている叔父にドアの外からさよならを言って一緒に叔

父の家を出て来た。


             


 「なんだか、遊びに来たった感じじゃなかったよね。ホテルに泊まったっ

て感じだったよね」インターの食堂でうどんをすすりながら、まこはケンタ

に言った。「いいんじゃない?」「いいけど、話もろくにしないでさ、叔父

さん、どう思う?」まこは返事を期待したわけではないが、手ごたえのない

弟の態度に毎度ながらがっかりした。やっぱり一緒に来る相手じゃなかった

なと思った。


            


 まこは食後のコーヒーを自販機で買って来ると、車の中でイヤホンを耳に

さしていたケンタに窓から手渡した。ケンタは子供の頃から冷淡すぎるくら

い、感動を表現することが下手だった。こんな私とケンタとか、私たち夫婦

みたいな人たち、多いんだろうな?気も合わず、感性も合わず、好みも違

い、だからレスポンスも合わない、まこはそう思うと、おかしくなってひと

りでくすくす笑った。それに対しても、ケンタは当然、無反応だった。

まあ、当たり前よね、違う人間なんだから。


 まこはバタンと後部座席のドアを閉めると、妙なくらい元気な声で、

「レッゴー!」と掛け声をかけた。ハイブリッドカーは氷の上を走っている

かのように走り出した。でも、もっと叔父といろいろ話をしたかったな。

あの家のできた経緯とか、インテリアは誰がやったのかとか、これから

どんな風に3つの家を維持するつもりなのかとか。ああ、また行きたいな。

今度はいつ行けるかな?


            


 「あれが、普通なんだよ」まこは、ロボットが突然しゃべったような感じ

でびくっとした。「はっ?」まこはそれが自分のした質問に対する答えだと

わかるのにかなり時間がかかった。「だって、姉貴だって、今度はいつ行こ

うかなって、思ってるんじゃない?やっぱりあれが普通なんじゃない?誰に

も気を遣わせず、でも、また行きたいって思わせるんだから、駐車場から

えらく遠くてもさ」まこはケンタがそんなことを言うなど想像もしていなか

ったため、錯綜したまこの思いは言葉になって出てくることはなかった。


            


 ケンタもまた黙った。

 しばらく走ってビルが見え始めた時、またケンタが口を開いた。「爪弾き

って言われた叔父が一番、遠距離から人をひきつけてるってことでしょ?

あれが人の魅力ってもんじゃないの?」まこはバックミラーのケンタに軽く

うなづくと、ふっと笑った




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    寡黙なひととおしゃべりなひとが合うのか、
   おしゃべりなひととおしゃべりなひとが合うのか、
   寡黙なひとと寡黙なひととが合うのか?

p.s. 2
    ショップではほっといてもらえる方がいいですか?
   それともいろいろと相談に乗ってもらえるほうがいいですか?
   それは相手にもよりますでしょうか?難しいところですね。
   
   しかし、こんな叔父さん、うらやましい。



  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2018年12月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.