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リサコラム
連載644回
      本日のオードブル

彼女たちの部屋

第4話

「彼女のアイデア」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ブルーグリーンの
ふかふかの絨毯の
上を歩いていると
ウイーンかパリか
デュッセルドルフ
そんなヨーロッパの
街並を思い浮かびます。

チャコールグレーの
シルクのカーテンは
ゴージャス、そして
どこからともなく
カカオのいい香りが
う~ん
ここは
チョコレートショップ?
いえ、実はまだ空っぽです。
おひとつ、いかがですか?


 







        

第4話 「彼女のアイデア」



 Reiは軽自動車のハンドルを切って大通りを左に折れて細い道に入った。

そして間もなく白いペンキを刷毛でべたべた塗り付けたような古いビルの前に

やって来た。


            


 Reiは数か月前からこの地域の小さなビルの清掃を担当することになった。

このあたりは閑静な住宅街で、3階より高いマンションは見当たらないが、

その中でも最も古いと思われるマンションの一階が今日のReiの仕事場だった。


            


 Reiは隣のコインパーキングに車を停めると、車から折りたたみの脚立と

窓ふきの道具が入ったバケツを降ろした。そして慣れた様子で複数の道具を軽

々と運んでくると、ビルの1階のガラス窓の脇にセットした。そしてするする

と脚立に上り、高いガラス窓の上の方からスプレーで洗剤を吹きかけ始めた。

ほんのしばらくして洗剤が汚れを包み込み始めると、ハンディタイプのヘラで

くるくると螺旋を描きながら泡を下に降ろしてゆく。それを数十回繰り返すと

ようやく窓ガラスの向こうの端までやって来た。


            


 「ここ、よく変わるわよね~」散歩の途中らしい雰囲気の女性がReiの前

のガラス窓に映った。Reiは脚立の中間の段に足を掛けたままで振り返ると、

「ああ、ええ」と額に手をかざしながら答えた。「そんなにきれいに磨いてい

るってことは、もう次が決まりそうなのかな?」「さあ、そうかもしれません

が、私は、」「今度はどんなお店が入るのかしらね?」「さあ、どんなお店で

しょうか?私は外装の掃除だけなので、詳しいことは何も、」Reiはちょっ

と手を休めてから、また作業の続きを始めた。


            


 「このビルのこのテナントはね、妙なお店が入るときだけ、お化けが出るっ

て噂が前からあって、それでビルとこのあたりの地域の治安を保っているらし

いのよ。笑っちゃうけどね、」「そうなんですか、」Reiは笑いながらも手

を動かし続けた。


            


 「知ってるかしら?この空きが出る前はクリーニング店でその前はケーキ屋

さんだったけど、その前はパン屋さんで、その前は宅配ピザ店で、その前は、

ええと、なんだったか、ああ、不動産屋かな?いやいや、そのなんだかいかが

わしい感じの事務所で、その前はまた、老人を集めて騙す変なお店で、その前

は明太子やさんで、その前は思い出せないわ~」「もしかして、花屋さんでは

なかったでしょうか?」Reiがそう言うと、女性はパンと手をたたいて、

「そうそう、あなたよく知ってるわね」と言ってから、瞳に少しばかり怪訝の

色を加えて、「この辺の方?」と聞いた。「いえいえ。最近、このあたりの清

掃を担当することになりまして、前は別の場所でしたが、」Reiは慌てて顔

の前で手を振った。「そう、」女性はほっとしたような表情を浮かべた。

そして、「さっきの話、あれは口外しないでもらえるかしら?」とうるんだ瞳

でじっとReiの瞳を覗き込んだ。


            


 「あっ、はい。さっきの話ですね、えっと、花屋さんですか?」「いや違う

よ。その前の、変なお店が入るときだけ、お化けが出るって話よ。私が言いふ

らしていると言われちゃったら、大変なことになるかもしれないから。くれぐ

れもよろしく」Reiはさっさとこの場を繕って退散すべきかと思ったが、

「わかりました。さっきの話、忘れます」と頭を下げた。


            


 「ありがとう。昔はね、悪事千里を走るって言って、悪いことは瞬く間に広

がるって言われてたけど、今は良いことも悪いことも世界ほぼ同時通訳でしょ。

ラインだの、SNSだのなんだのって、見えない線が駆け巡るだから。それで

テナント料だって変わるんだものね。恐ろしい時代になっちゃってるけどね。

まま、でも、いい方に解釈して利用するって手もあるしね」女性はそう言うと、

窓に近寄ってReiが磨いたばかりのガラスの上に両手で丸い輪を作って望遠

鏡のような形を作ると、中を覗き込んだ。


            


 「空っぽのガラスケースが並んでるわね。窓みたいに見えるけど、あれは何

かしら?黒っぽいカーテンが4つも。なんか白いウェーブの装飾、すてきね~

ゴージャスじゃない!待って、絨毯、なんて素敵な色なの!ほらほら、見て!

ふかふかよ」女性は中を覗きながら後ろ手でReiを手招きした。Reiは、

掃除道具を脇に置くと、女性のすぐ横にやって来た。


            


 女性はReiの背中をポンとたたくと、同じ格好をして中を覗くように仕

向けた。


            


 「ほら、見て!ゴージャスじゃない?なかなかいい内装よね。何と言っても、

カーテンがゴージャス!それに、なんともいい絨毯。これ、もしかして、お高

いんじゃない?おフランスかしらね」「ホントですね」Reiも手で作った輪

の中から中の様子を伺った。


            


 「先月掃除に来た時は、何もなかったんですけど、やっと決まったみたい

ですね」「あなた、SNSやってるでしょ?インスタとか?」女性はまたRei

の背中をポンとたたいた。「ええ、まあ」「それなら、写真UPしたら?」

「いいんでしょうか?そんなことして、」Reiはびっくりして、女性の顔

を見た。「いいんじゃない?だってみんないろんなお店の様子だの、上げてる

でしょ」女性は自分のスマホを取り出すと中の写真をパシャパシャと何枚も

撮った。撮り終えるとすぐにアップロードを始めた。「あなたもやったら?」

女性はReiを促した。


            


 Reiは恐る恐る数枚撮り終えると、女性はReiのスマホの写真を覗き

込んだ。「これとこれ、それにこれがいいわね、さりげないし、素人ポイし、

それに、あなた、写真上手!ほんとに」「でしょうか?」Reiはちょっと照

れたが笑みを浮かべた。「ほんとよ」女性はまたReiの背中をポンとたたい

た。「それじゃ、後でUPしますね」Reiがそう言うと、女性は「実はね、

ここは、私の持ち物なの。それに、今回は私のアイデアなのよ。内装してから、

宣伝するってアイデア。だって、今までどんなお店もなかなか長続きしなくて

ね。それで、内装してから募集すればいいかって思ったのよ。古いけど私のビ

ルだから、誰も入らないときは、自分のアクセサリーやらバッグやら靴やらの

コレクションを置く場所にする算段なのよ。誰もいないけど、全部に保険かけ

ておけば、取られても逆にうれしい限りでしょ。だってどうせ置き場がなくて

断捨離しようと思ってたものばっかりなんだから。それでもって、週末ショッ

プを開いて、欲しいって方には、販売すればいいんだから。これって一石二鳥

どころのじゃないんじゃない?グッドアイデアでしょ?だから、ごめんなさい

ね。だましたわけじゃなくてよ。でも、お化けが出るって言うのは、ほんとは

真っ赤なうそ」女性はニヤッと笑ってから続けた。


            


 「入って欲しくないようなお店からオファーが来た時はね、そんな時は、

まあ、うそも方便っていうでしょ。だから時々使うことにしてるの。えっ!

待って、」女性はスマホを握って叫んだ。「わ~、もう来た!」女性はすぐに

スマホにテキストを打ち込むと、Reiににこやかに手を振りながら、すぐに

歩き去った。




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   こんなテナントいかがでしょうか?
  私のアイデアなのですが…
  バレンタインデーも近いから、
  チョコレートショップなんてどうしょう?

p.s. 2  

    今回の絵はiPadで描いた中では一番大変でした。
  でも、楽しくて止められなくなってしまいました。
  


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年1月号です。
           
           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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